【節2】通帳を巡る最初の裂け目──“コピーだけ”が生んだ違和感

ある日のことだった。

穏やかな声で、こう切り出された。

「これからは、私たちと手を組みませんか?

あなたの通帳、私たちが管理しますから。」

一瞬、優しさにも聞こえた。

だが返されたのは、静かな反発だった。

「……いや、それは俺のもんやろ。」

空気が変わった。

「じゃあ、コピーだけ。中身を確認させてください。」

通帳は手渡された。

だがその数分後、本人は何かに気づき、コンビニへと走っていった。

──のちに判明することになる。

その“コピーだけ”という言葉の裏には、

財産目録の改竄という、お互いの見えない意図が潜んでいた。

「もし協力いただけないなら……私にも考えがありますからね。

大変なことになりますよ。」

そう告げられたその場面が、

後に制度の記録に残ることはなかった。

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