24. リーゼント兄ちゃんと腕まくりギャル

 駅前で新藤しんどうと別れて、自転車を押して帰り道に乗った。


 社会人と学生であふれたなかをくぐり抜けていくのは、いまはもう耐えうることだった。


 なぜならおれは、のだから。駆け出しのお笑い芸人になるのだから。


 ぐんぐん高く昇っていく朝陽は、冬だとはいえ、発汗を喰らわせるポテンシャルを持っている。もしかしたら、かもしれない。


 まあ、あの朝陽だって、気を抜いたら死ぬことはある。不摂生ふせっせいでいれば、病死するかもしれないし、うっかりしていれば、交通事故にうかもしれない。おれは、あの朝陽に語りかける。


「気をつけろよ。死にそうにないやつほど、思いがけず、死んでしまうものだから。強くあれ。


 おれは、必死になってネタを考えるしかないのだけど、お前はそれをどう思う?


 そう問いかけてみたけれど、朝陽は知らんぷりで、


 それに物足りない気持ちを抱きはしたが、おれはいままで、だれかに構ってもらい続けたことなんてなかったのだから、べつにいい。


 新藤との関係性の方がなのであり、あの朝陽との関係性の方がなのだ。


 帰ったら、母さんと父さんにを説明しないといけないわけだけど、部屋から出ることになったと報告したら、喜んでもらえるだろうか。


 これから先、おれに待ち受けていることを、脳内でシミュレートしてみた。だけど、なぜかうまくいかない。姿


 それは、おれの想像力の欠如っていうわけではないみたいだ。あと、なんというか、おれは、って、そんな予感もしてしまうんだ。


――泣くなよ。いまのお前は、泣くことに意味なんてないんだって、思うしかないんだ。だけど、意味がないことに熱中するものなんだな、人間っていうのはさ。


 と、あそこでをしているが言った


 オー・センキュー。おれはつぶやいた。

 そしてに、敬礼をしようとした。しかしそれは、うんち座りをしていないにより制止された。


――あんたの泣くのを、のぞんでいるひとがいるんだよ。それは、一秒前のあんたと、三秒後のあんただ。


 おれは、その言葉に動かされて(もちろんそれは「言った気がした」にすぎないんだけど)泣いた。


 冬の、みかんの皮。夏を、つつむ、みかんの皮。

 これ、おれの書き損じの辞世の句もどきだから。


 せっかく球場ビジターに足を運んだのに、死球につぐ死球で警告試合になり、五回表に降った雨のために試合不成立となり、とぼとぼと帰っていく少年のような顔をした銅像を横目に、おれは、こんな漫才の「つかみ」を考えた。


《黒板消しを食べてしまいました。おれはでありますからね》


 いや、これは漫才の「つかみ」ではない。だ。

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