24. リーゼント兄ちゃんと腕まくりギャル
駅前で
社会人と学生で
なぜならおれは、もうニートではないと言い切っても差支えがないのだから。駆け出しのお笑い芸人になる入口に立っているのだから。
ぐんぐん高く昇っていく朝陽は、冬だとはいえ、発汗を喰らわせるポテンシャルを持っている。もしかしたら、ドラフト会議で複数球団から一位指名されるかもしれない。
まあ、あの朝陽だって、気を抜いたら死ぬことはある。
「気をつけろよ。死にそうにないやつほど、思いがけず、死んでしまうものだから。強くあれ。ときに弱くあれ」
おれは、必死になってネタを考えるしかないのだけど、お前はそれをどう思う?
そう問いかけてみたけれど、朝陽は知らんぷりで、おれとは反対の方を向いてしまったみたいだった。
それに物足りない気持ちを抱きはしたが、おれはいままで、だれかに構ってもらい続けたことなんてなかったのだから、べつにいい。
新藤との関係性の方が異常なのであり、あの朝陽との関係性の方が正常なのだ。
帰ったら、母さんと父さんにことの経緯を説明しないといけないわけだけど、部屋から出ることになったと報告したら、喜んでもらえるだろうか。
これから先、おれに待ち受けていることを、脳内でシミュレートしてみた。だけど、なぜかうまくいかない。ふたりの喜んでいる姿が、うまく想像できないのだ。
それは、おれの想像力の欠如っていうわけではないみたいだ。あと、なんというか、おれは、決定的な勘違いをしているんじゃないかって、そんな予感もしてしまうんだ。
――泣くなよ。いまのお前は、泣くことに意味なんてないんだって、思うしかないんだ。だけど、意味がないことに熱中するものなんだな、人間っていうのはさ。
と、あそこでうんこ座りをしているリーゼント兄ちゃんが言った気がした。
オー・センキュー。おれは
そしてリーゼント兄ちゃんに、敬礼をしようとした。しかしそれは、うんち座りをしていない腕まくりギャルにより制止された。
――あんたの泣くのを、のぞんでいるひとがいるんだよ。それは、一秒前のあんたと、三秒後のあんただ。
おれは、その言葉に動かされて(もちろんそれは「言った気がした」にすぎないんだけど)泣いた。
冬の、みかんの皮。夏を、つつむ、みかんの皮。
これ、おれの書き損じの辞世の句もどきだから。
せっかく
《黒板消しを食べてしまいました。おれは黒板消しクリーナーのブラザーでありますからね》
いや、これは漫才の「つかみ」ではない。クラシック音楽の一節だ。
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