11. 悪いひとではなさそう(直感)

 おれは一応、司馬島卯湖しばしまうこのバツッターアカウントをチェックした。新刊の値段を確かめておく必要があったから。


 ほかの参加者の投稿も拡散しているせいで、すんなり「お品書き」を見つけられない――かと思っていたのだが、一番最初の投稿がそれだった。


 知り合いの物書きが「文芸市場ぶんげいいちば」に参加していないのか、拡散している「お品書き」はひとつもなかった。


 フォロワー数が十二、フォロー数は百三十六。おれの想像の範疇はんちゅうでは、サークル活動を長年しているアカウントには似つかわしくない。


 フォロワーをチェックしてみる。


 ほとんど無差別にフォローしているようなアカウントがほとんどだった。例外は、平安時代の文学について独学で研究しているという、特定政党の関係者や思想強めのインフルエンサーの投稿を拡散しまくっている、アマチュア作家を名乗る人物と、投稿サイトの公式アカウントと、売れないお笑い芸人の新藤だ。


 フォローしているアカウントを調べてみると、イラストレーター、大手事務所のV-Tuber、イラストレーターの、イラストレーターの、バラエティー番組の、有名なコーヒーショップの、おれでも名前の知っている小説家、おれが名前の知らない小説家、投稿サイトの、出版社の、俳優、芸能系のメディア、千葉のプロ野球チームの、千葉のプロサッカーチームの、北陸の新聞社、気象庁、中央官庁、あと、新藤。アマチュアの物書きは


 普段なにをしているひとなのか、まったく分からない。分かるのは、だということだけ。なぜって、悪いひとではなさそうだという直感が働いたからだ。


     ■     ■     ■


司馬島卯湖@文芸市場 (F-14)

明日の文芸市場のお品書きを本投稿に添付いたします。どうぞよろしくお願いいたします。

 (2026/01/08 23:37)


     ■     ■     ■


 画像をクリックすると、なんのデコレーションもない、シンプルなお品書きが浮かび上がってきた。それによると、新刊の値段は、新藤が紹介していた本は、投稿サイトに掲載されている小説の「再録短篇集」はだという。「編」ではなく「篇」という漢字を使うのは、おれと同じだった。


 おれは、起きてからこしらえた、外出のためのそれっぽい理由を格納した頭を、首の上に乗せて、台所に向かった。


 窓から綺麗な冬の陽が差し込んで、廊下は寒々しく輝いている。靴下をいていても、足はどんどんと冷えていくし、吐く息もうっすらと白んで見える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る