第10話栄光
都内屈指の高級ホテルを貸しきって行われた雪平一族とルンドグレーン一族の結婚発表を兼ねた会食は予定通り行われた。
両家の繋がりは深く、ビジネスパートナーでもある。
一族同士の関係はとても良好であり、零人とオーサの結婚のことで持ちきりだった。
二人が結婚した暁には雪平グループとルンドグレーングループ相互の出資による共同会社の設立計画を考案していた。
名家同士ということで政略結婚だと世間は持て囃すことだろうが、そんなことはない。
本人たちはいたって幸せだ。
円満な政略結婚というべきだろうか。
孫たちの結婚決定とあり、グループ総帥の二人の祖父母が相席している。
パーティーの準備は整い、メンバーは会場で二人を待っている。
きらびやかなタキシードやドレスに身を包んだ親族たちが主役の二人の登場を今か今かと待っていた。
待望の主役二人は落ち着いて入場の時を待っている。
華やかな会場の前で、零人とオーサは衣装を整えていた。
「お祖父様たちがいらしてる。オーサ、粗相がないようにね。ついに私たちの将来を決める時がきたんだから」
「わかってるわよ、零人。病気療養が終わったばかりのお婆様まで日本にきてくれたんだもの。」
私は雪平グループ中興の祖と謳われる祖父にオーサとの結婚本決まりの報告をしないとならないと、意気込んでいた。
オーサも病み上がりの祖母が来ていることに遠慮しているようだ。
孫のために病気の体を引きずってまで日本に訪れたのだから。
ルンドグレーン一族の発展に尽力したのはオーサの祖母だ。
若き頃は絶世の美女としてその美貌を称えられ、独創的なビジネスセンスと先見の明は青年実業家として名を馳せていたオーサの祖父を一目惚れさせるには十分だった。
スウェーデン財界きっての美男美女として当時は大ニュースとなった。
後にスウェーデンの氷晶と語り継がれることになる美貌は、娘、そして孫のオーサへと色濃く受け継がれている。
オーサの祖母も美女だが、零人の祖母も負けないほど美女であった。
同じくスウェーデン人実業家として名を馳せていた零人の母方の祖父が、社交界で若き日の祖母に心を奪われたのが始まりだった。
当時の祖母は大企業令嬢として、ナイトパーティーの華と持て囃されていた。
若さと情熱を持った若い男女が惹かれ合うのは必然だったと思う。
最愛のパートナーが見つかったことで事業は好転、そして母が生まれた。
私はオーサにある種のシンパシーを感じてもいる。
両一族はとても良く似ているのだ。
「オーサ、いつにもまして綺麗だよ。質素な化粧が良く似合ってる。私が心から愛しているのは君だけなんだ」
オーサは顔を真っ赤にして頷く。
「からかわないで。あなたもとっても素敵よ。私はもう一人ぼっちじゃない。誰よりも大切な人がいるから」
金はあっても精神的な幸福感は得られないこの日本で、氷のように冷たい恋愛をした。
その氷は凍てつくほど冷たいが、どこか心地よく美しいものがあった。
透き通るほど素直な愛しい気持ちは永久凍土に匹敵する。
その感情は北欧の氷雪の森で、心休んでいるかのように穏やかなものだ。
「オーサ、そろそろ行こうか」
オーサが口紅を引いて、手鏡をしまう。
「あなたと一緒ならどこまでも行けるわ」
私はオーサの手を取って、親族が待機しているパーティー会場に踏み入れた。
一歩一歩床を踏みしめて特等席に着席する。
待ちくたびれた親族たちが拍手をして歓迎してくれた。
これからが説明の始まりだ。
シャンデリアが零人とオーサを光で包み込み、熱気に飲み込まれた会場を華やかに演出していた。
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