第8話白銀の晩餐
夕食はオーサをもてなすために豪勢な料理がふんだんに振る舞われた。
洋食、和食と中華というミックスされたメニューがテーブルに運ばれてくる。
どれから食べるか迷うほどの多さだった。
今夜だけは普段質素な零人もたくさん食べようと思っていた。
柿本雪枝がオーサにワインを注ぐ。
「ありがとう、雪枝。貴女もちっとも変わらないわね。その黒髪、スウェーデンでも人気だったわ」
オーサは雪枝の艶のある黒髪を誉める。
彼女が私と共にスウェーデンにいたときは、その黒髪は周囲の子供たちから物珍しい目で見られた。
金髪の中に浮く黒髪は目立った。
日本では反対に金髪が目立つことになるだろう。
このことも子供心には面白かったのを覚えている。
「恐れ入ります。昔から黒髪のことはたくさん誉められていました。母譲りの髪質です」
雪枝の髪の毛を分かりやすく言うと、ドラマーのシシド・カフカを思い描くと分かりやすいと思う。
ミステリアスな雰囲気を放つ彼女に、オーサは昔から興味津々であった。
雪枝も美しいが、オーサ、君はもっと美しいよ。
私は心の中でそう呟いた。
「零人様。オーサ様が今夜の夕食会でお話ししたいことがあるとのことです」
雪枝がタイミングを見計らって伝える。
「話したいこと?」
オーサはステーキを一口切り取って、ワインを一口飲んでから話しだした。
「そうなの。お父様、お母様のたってのお願いでもあるのよ。私たちの結婚式について。」
零人は口していたスープを吹き出しそうになった。
オーサは照れくさそうに、頬を赤らめて両手で隠している。
その仕草がとても愛らしい。
「結婚式?とても嬉しい話だが、ついにこのときが来たんだね。私たちの誓いの日が」
「おばあ様の回復のお祝いも兼ねてその話を詳しくしたくて。お母様たちもこれを期に私たちの結婚を果たしたいみたい。だって10年も待ったんですもの」
オーサとの結構は数々の会談を経て円満に進められてきた。
両家の事業は順調だし、この機会に身を固めても良いのかもしれない。
私が、雪平グループを背負って立つ日も近い。
「私も待っていたよ。こちらとしては結婚は申し分ないよ。一応父と母に確認してみるけれどね。きっと喜ぶだろうな」
私の父母はオーサとの婚約には大賛成だったし、祖父母もオーサを可愛がっていた。
具体的な話が決まることに喜ぶのは確かだ。
「オーサの家族はそれで良いんだね。後は色々と段取りをしないと」
オーサが再び頬を赤く染めて、小さな声で呟いた。
「お、お母様はその、わ、私たちの子供、も、望んでいるの」
オーサはそう言って顔を覆ってしまった。
「私たちの子供か」
これは当然な話だろう。
跡継ぎの問題は大切な話である。
裏を返せばオーサには、雪平一族とルンドグレーン一族の未来が託されていると言える。
私は食事が進まず照れているオーサを楽しみながら、彼女のために立派な式にしようと意気込んでいた。
今夜は長くなるなと微笑んだ。
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