第7話感じた違和感
夕刻のちょっとしたお茶会は北欧菓子のおかげであっという間に幕を閉じた。
それからは私とオーサはゲストルームで、雑談に
花を咲かせていた。
彼女が北欧の本邸でアクアリウムを大きく始めたこと。
アマゾン川の熱帯魚を航空機で輸入したが、北欧の寒さに耐えられないので温度対策に苦労したとか。
ちなみにブラジルにはルンドグレーン社の支社があり、珍しい動植物の収集をしている。
それから、祖母の邸宅で鳥のお世話に夢中になったこと。
猛禽類であるが、オーサにはとても懐いているらしい。
そして、ルンドグレーン社のオフィスビルで観葉植物を増やしたこと。
オーサは生き物好きであるが、この半年でキノコにまで愛着を持ったことがわかった。
幼少期からの大の生物好きとは聞いていたが、筋金入りだ。
私にはオーサの優しい心が生き物たちを引き寄せるのだろうと思えた。
そしてオーサの優しさが引き寄せたのは動植物だけではない。
雪平零人もだ。
あのお菓子の森での出会い以降、私はオーサの愛する生き物たちになった。
これは言い過ぎかもしれないが、心の中で私は本気で思っている。
オーサの無限の優しさと愛情、慈しみを受けることができる生き物たちに。
私はオーサが大好きな生き物との生活を語る度に、心に痛みが感じ取れた。
まさか、魚や鳥に嫉妬しているのか…
オーサは私にどこまで誰にも見せない感情を見せてくれたのだろう。
ああ…オーサのあの白い腕に抱きしめられながら、香りを楽しみ、眠りにつきたい。
私の心にどうしようもない感情が込み上げてくる。
私が浮かない顔をしていたのか、オーサが話を止めて声をかけてきた。
「零人、大丈夫?思い詰めたような顔してるけれど…」
「ごめんね、大丈夫。オーサがたくさん生き物を愛しているのがわかって、嬉しいよ。人間関係のような、面倒な駆け引きはないものね」
「零人だって動物好きでしょう。こんなにたくさん観賞魚を集めているんだもの」
オーサはそう言って屋敷に置かれている水槽とその中を優雅に泳ぐら生きる宝石をうっとりと眺めた。
零人は好きで、オーサと同じくアマゾンにまで採集に行くほどの愛好者だ。
昨今のメダカブームに乗って、最近は変わり種のメダカを集めていた。
話題が得意の魚類になったので、私はオーサの解説役としてコレクションを披露することにした。
「オーサお嬢様のために、私めが解説役をさせていただきます」
「もう、役に成りきらなくてもいいのよ」
オーサはそう言って笑った。
やはり美しい。
外は雪が降り続け、屋敷の中は先程まで食べていた北欧菓子ほ甘い香り、綺麗な魚を楽しそうに見る美女。
私はオーサを後ろから抱きしめたくなる衝動を何とか抑えて話した。
「これはキッキング・グラミーだね。」
「あら、ロマンチックなお魚さん」
オーサが見ている水槽の中ではキッシング・グラミーがしきりに口づけをしていた。
「恋人同士が飼育するには良い魚かもね」
「キッシング・グラミーのペアでね」
私がオスの魚だとしたら、メスの魚はオーサ、君だよ、そう思いながら魚の情熱的なワンシーンを二人で見つめていた。
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