第2話記憶
12月。
私が長い回想から我に返ったのは、夜のディナーを準備が整ったという声だった。
寒い冬に、白い雪がたくさん降ると、私は自分が生まれたときのことを思い出す。
この世に生まれたということは、その前はどこにいたのか。
生命誕生の歴史を講義するようなものだが、私は生まれる前にどこから来たのか知りたいと思うときもある。
白い世界から、雪のような白い世界に生まれた私の前世の記憶のようなものか。
赤ん坊として生まれてきたということではなく、精神的な部分で、魂という意味で知りたかったのだ。
大学では考古学を専攻していたほどのロマンチストである。
太古のロマンや大昔の生き物に興味があり、探検部を組織したりもした。
恐竜の化石発掘にも熱中したのは良い思い出である。
しかし、己の起源はというと、パッとしない答えしか出せない。
自分は何者なのかという問いは永遠に答えが見つからない気がした。
いつもの深い思考の海から溺れるのを救ってくれた使用人に感謝しながらダイニング・ルームに向かう。
雪平零人は使用人たちから慕われており、食事は全員でとることをルールにしていた。
使用人たちが揃ったテーブルに座ると、ワイングラスを手に取り、乾杯の挨拶をする。
夕食のメニューはステーキとパン、ワインだ。
ナプキンとナイフ、フォークを身につけてステーキを口へ運ぶ。
濃厚な肉汁が、まるで瞑想をしていたように深く考え込んでいた私の脳を癒してくれる。
リフレッシュするには好きなことをやるのが一番だ。
私好みの味を作ってくれる料理人には感謝しかない。味わって食べるこのときが至福の一時であると言える。
特別豪勢なものは要らないが、私はお肉をワインで流し込む食事が好きだった。
ワインの芳醇な香りを楽しんでいるとき、執事が面会の予定について話しかけてきた。
彼は、彼女である。
つまりこの屋敷の執事は女性なのだ。
男装というわけではないが、キリッとした顔立ちの凛々しい美人だ。
私の身の回りのお世話は全て彼女に一任してある。
幼い頃から一緒の幼馴染みの一人だ。
彼女の母、祖母と代々執事を務めてきた。
雪平零人の執事・柿原雪枝がある人物との約束を話し出す。
「零人様、明日はオーサ様がご面会に訪れられます」
私はその話を聞いて、喜びが沸き上がってくるのを感じた。
恥じらいにも似たモジモジした感覚にもなる。
ワインに酔ったこともあるが、顔が赤いのは明らかであった。
紅潮してしまうほどの興奮は抑えられない。
オーサが、あの北欧の妖魔が久しぶりに私に会いに来てくれるのか。
「それは楽しみだね。オーサが来たら久々に北欧菓子で一杯やりたいところだな。大歓迎だと伝えてね」
国籍が異なるが、それを感じさせないほど日本語が上手なオーサ。
「いつごろ日本に戻ったんだろうか?」
私の問いに、柿原雪枝はワインを一口飲んで答えた。
所作一つとっても美しい。
オーサが金髪の美女というなら、雪枝は黒髪の美女だ。
「半月ほど前です。現在は東京のお屋敷にいらっしゃいます」
「おばあさんの病気は大丈夫だったのかな」
オーサが祖国に帰郷した理由は祖母の病気のためだった。
「幸いにも回復してきたとのことです」
それは良かったと、私は安堵の息を吐いた。
彼女の祖母には幼い頃から良くしてもらった。
変わり無いのならそれが一番だ。
今夜は楽しみで眠れないなと思った。
彼女は私の女神だった。
半年前、オーサは故郷のスウェーデンに帰っていた。
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