第3話雪平一族
オーサが来訪してくる日の朝は、嬉しさのあまり豪華な食事をしていた。
暖かいカニ鍋だ。
今日も昨日同様気温は凍るほど寒く、雪が降り続いている。
オーサが屋敷に来るのは夕方とのことだが、胸の高鳴りは抑えられない。
今日くらい贅沢をしても良いだろう。
いつも質素倹約な食事を心がけているのだから。
零人は北海道産のカニを鍋から一つ掴むと、美味しそうに足を折って肉汁を頬張った。
カニの濃厚な旨味が口の中一杯に広がって、幸せな気持ちになる。
このカニの風味も最高だが、暖かい料理はなぜここまで美味しいのだろう。
北海道といえば、雪平一族の発祥の地である。
私の祖父は北海道生まれだ。
祖母も同じく北海道出身で、旧華族の生まれ。
雪平一族のルーツは北海道の地主だった。
先祖が、戦国時代に名の知れた大名の家来として合戦に参戦した後、江戸時代に当時の蝦夷地に落ち着いたことが始まりだ。
元々は五世祖父の代までは、旭川市の地方地主の形態であったが高祖父の代で札幌市に移住。
曾祖父の代になると、市制にも影響力を持つようになる。
祖父の代で雪平不動産という不動産会社を興し、ビルやマンション・アパートなどをたくさん所有している。
雪平農場、雪平食品や雪平観光といくつものグループ化した企業を抱える巨大事業を展開していた。
戦後の華族制度廃止と農地改革で、一時は没落の危機に陥ったが、祖父母の卓越した機転によって雪平一族はその栄光を取り戻した。
祖父は一族を救った中興の祖というわけだ。
零人の父の代にはスノーマーケットというスーパーの全国チェーン店までオープンさせた。
今では知らぬものはいない大企業だった。
富裕層にランクインした私は幼少期から自由に育つことができた。
今でも立派な和風建築の屋敷は札幌市内にある。
私の両親が東京に住んでいるため産まれも育ちも東京だったが、何度か遊びに行っているので環境は熟知していた。
さっぽろ雪まつりとか、美しい雪を使ったイベントが楽しかったことは良い思い出だ。
都会の洗練された生活と雪国の伸び伸びとした暮らしは零人に心の広さを与えた。
そして、私は雪平一族の会社が大好きである。
零人は株式会社雪平の御令息であると共に三代目社長でもあるのだ。
それから、北欧との繋がりも根強い。
私の母は、スウェーデン人である。
雪のように白い肌、澄んだ青い瞳、淡いブロンドの髪。
モデルのような体型を誇る北欧系美人。
東京で貿易会社の事務をしていたときに父と巡りあったそうだ。
遺伝のためか私の肌も透き通るほど白い。
母のルーツである、スウェーデンに雪平グループは進出していた。
父は海外進出の野望を最愛の妻の故郷に選んだのだ。
スウェーデンの首都・ストックホルムのオフィスビルに雪平はスウェーデン支社が入居している。
その影響で、私はスウェーデンに度々訪れていた。
この国でも、行くのは寒い冬が多かった。
スウェーデンの冬は日本とは比較にならないほど寒い。
身体中の細胞一つ一つが凍てつくような感覚になる。
私はスウェーデンの森を散歩するのが日課になった。
白い雪が北欧の森を童話の世界のように塗り替えていく。
この幻想的な風景をどのように表現したら良いのだろうか。
妖精が住む森、そんな言葉が頭に浮かんできた。
有名な作家の作品にノルウェーの森という小説があるが、私の場合はスウェーデンの森であろうか。
そこで私は北欧の白い妖魔に、オーサに会ったのだった。
雪で白く彩られた木々の間を、真っ白いコートを着こんでゆっくりと歩いていた。
芸術的な肌の白さだ、と感じた。
あの氷細工のような容姿を頭から取り去ることはできない。
見とれていると、彼女は私に気がついて無邪気な笑みを浮かべた。
オーサは雪が降る森で、私を見つめる。
体が氷始めたように動けない。
物凄い衝撃を受けた。
この世のものではない。
妖精の国からこの世に現れた白い妖精。
それがオーサ・ルンドグレーンとの運命の出会いだった。
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