8章:2話『まるでトートロジー』
──ガガガッ!と、音を立てて。
僕はいつもそうしていた様に、アイの机と僕の机をくっ付ける。
その上に、これでもかという程大胆に原稿を広げた。
パララ──ッと、軽快に原稿をまとめる。
アイデアノートをメモをして。
勢いよく下線を引く。
ザッ!ザッ!と、ペンが走った。
そして、僕は言う。
「君たちの物語は、僕が完成させる!!だから任せとけ!!」
これがスタートの合図だ。
──ジャンルもちろん、学園ラブコメ。
全12章。
物語はハリウッド型をベースにした、やや変形型の三幕構成。
プロローグは無し。エピローグは付ける。
ストーリーの根幹と、テーマは出来てる。
舞台はファンタジーを含まない、現代日本。
「アイとのロールプレイをフル活用出来る舞台設定だ。リアリティを意識しながらも、ラブコメらしく、とっつき易いテンションの高さを意識したい」
主人公とヒロインは、同じ高校に通う現役高校生だ。
必要なキャラは……主人公、ヒロイン、友人、サブヒロイン、先輩、後輩、先生……。
その中から選抜して、メインは5人程。
そして更に、よく動かすのは3人程に絞る。
それ以上は読者が名前等を覚えきれない可能性があるし、今の僕が扱える限界があるからだ。
あと、その他に関わってくるモブキャラは、基本的に一度、もしくは二度限りの登場にする。
読者としてもモブは、必要なシーンで名前が分かれば、後からどんな見た目かすぐに思い出せなくても話が回る様にするんだ……。
「よし、いいぞ。大丈夫だ!この調子で行け!」
ストーリーの冒頭はインパクトが必要だろう。
ラブコメディーのコメディー要素を強く出したい。
だからと言って、突飛すぎても頭に入りづらいかも知れない。
誰もが見た事のある王道感も欲しい。
温故知新と言う言葉もあるくらいだ。
分かりやすい古典的なボーイミーツガールから始まり、確実にストーリーのスイッチを押す。
良くあるラブコメ風で、明るく楽しく、ヒロインは可愛い。
初速は速く、章ごとに新キャラが増え、さらに賑やかになっていく。
そんな定番の流れ。
……でも、ここで僕は罠を仕掛ける。
“少しの違和感“だ。
ラストが結論なら、冒頭は問題定義。
根幹やテーマを踏まえた上で、それに繋がる少しの違和感と説明を差し込む。
決して行き当たりばったりなんかじゃない。
この小説のラストには伝えたいテーマがある。
その事を読者達になるべく意識してもらう為、罠を仕掛けるんだ。
また、内容の深さは。回を増す毎に少しずつ深くしていこう。
読み進める毎にキャラの奥行きが出て、根幹を辿りながら。全体テーマに行き着く事を意識する。
心理描写を丁寧に書き上げたいこの作品は、クライマックスはやや早く、キャラ葛藤や成長のまとめを入れて、ラストに持っていく。
これはサクサク進む、愉快痛快な物語よりも、愛するキャラの人間性を尊重して優先した僕のこだわりだ。
──小説のキャラクターが生きている。
僕はそう思わせたいし、そう思いたい。
ここだけは、“誰がなんと言おうと譲れない“。
ちなみに話としては、いくら冒頭の引きが強くても、4話目あたりからいきなり説教くさい小難しい事を入れだしたら、なんだかそこから閲覧数がガクッと下がってしまう気がする……。
やはり読んでもらうのに大切なのはグラデーションなのかも知れない……。
「ん?あれ?なんでそう思うんだろう……?これはなんとなくの感だけど……。まあいいや!」
次に、エピソードも冒頭と同じ様に王道のものを用意して、飲み込み易くしよう。
そこはオリジナル性よりも、僕は安定感を選ぶ。
結局、みんなはいつも食べてるメニューが好きなんだ。
ラブコメあるある……デート回、水着回、浴衣回、体育祭、文化祭、バレンタイン……。
うーん、ちょっと多い気がする。
これを12章でやるとなるとキャラの渋滞や、本筋を邪魔しかねない。
この中から少し削らないとだな。
だったら。これとこれと、これと……。
「どうだろう。いい感じじゃないのか?」
それ以外は、細かいところだ。
その辺は“小説の中の彼ら“の動きや人格も関わってくる。
そこはもう何も心配いらない。“彼ら“はきっとこの小説の中で自分を見つけ、苦悩し、生きていくだろう。
となると、残すは……。
「作品のタイトルと“彼ら“の名前だ……」
主人公は目的をもって行動する思春期の男子。
彼にはこれからラブコメの世界に旅立ってもらう。
もしかしたら芯のある彼には、最初はこの世界を“地獄“に思うかも知れない……。
けれど大丈夫、安心してくれ。
君はこれから大切な事をいっぱい知って、必ず立派に成長する。
ヒロイン達もとっても可愛いぞ!
「頑張ってくれよ!君に期待してるからな!」
僕としては、ラブコメの主人公の名前は必ずしもかっこよくある必要はないと思う。
伏線等がなければ親しみ易く、分かり易く、覚えやすい方がいい。
主人公はアイとのロールプレイを通じて、感情が芽生えた存在だ。
いわば僕の分身に等しい。
だったら、僕の名前から取るのもいいな。
「こんなのはどうだろう。小説家にとって欠かせない要素と、とても簡単な名前。それが合わさって……これだ!ふふふ!」
次はメインヒロイン。
彼女は僕にとって、とても大切な存在だ。
物語を掻き回すのは強烈な個性の塊。
作品のゆりかごから墓場まで、全ての中心に位置し、けん引する。
まるで嵐の様な女の子だ。
明るくて愛嬌があり、真っ直ぐで意志が強い。
行動力とメンタルの化け物の様な彼女。
まさしく、僕の理想とする最強の存在。
……それだけじゃない。
物語の核となるミステリアスな一面もある。
この小説は彼女の為にあると言ってもいい。
彼女はきっと何かを塗り替えてくれる。
そんな彼女には、僕の好きな物を渡そう。
これで、主人公とヒロインは対になる。
「決まった。君にはこの名前しか無い!」
そうして、僕は“彼ら“と向かい合っていった。
* * *
──結局。
僕が心を折る前に求めた“何か“。
それの答えはアイが持っているのだろうか。
それともアイもまだわからないままなのか。
そのどちらであったとしても、きっとその鍵を握るのは、
ロールプレイは残り1回。
その一回で、僕は求めた“何か“を掴む。
そして、小説を完成させる。
……僕はアイが好きだ。
でも、実らない恋があってもいい。
僕は僕を続けるよ。アイ。
だから、せめて最後に教えてくれ。
求めた“何か“を僕に……。
明日──。
僕は、最後のロールプレイを頼む事にした。
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