36

 文化祭が終わると、大きな波が引いてしまったように学校は静かになった。


 つまらないけど、頑張らなくちゃいけない授業を眠い目をこすりながら受ける。


 わたしはまだ、早月くんみたいに、大学とか、仕事とか、決めたわけじゃないけど。


 将来の可能性を潰さないためには、勉強はやっておかなくちゃね。


 お昼休みはいつも通り真凛と一緒。真凛はふわぁとあくびをして、こんなことを話した。




「なんかさ、早月くん周りの新しい情報なくてつまんないや」


「えっ、どういうこと?」


「早月くんがあまりにもそっけないから、女子みんな諦めモードって感じ。誰かのことが好きなんじゃないかっていう噂もあるけど、基本的に男子としか話してないみたいでさ」


「ふぅん……そっか……」




 わたしといとこ同士、っていう噂は流れてなくてよかった。


 学校だと、本当に話さないもんね、わたしたち。




「あっ、でもね、美奈、西条先輩と江東先輩の噂はある!」


「そうなの?」


「二人だけで下校しているのを見た子がいるんだって! ひょっとすると、ひょっとするかもよ?」




 正直、気になるけれど、わたしはあの二人の事情を知りすぎている。


 ボロが出たらいけないから、興味のないフリをした。


 家に帰ると、早月くんは相変わらずだったけど、一つだけ変わったことがあった。




「美奈ちゃん、俺、ブラックコーヒー飲めるようになった!」


「わっ、凄いね!」


「叔母さんには、カフェインあんまり子供によくないから、飲みすぎんように言われてしもたけど。俺かてもう中学生なんやけどなぁ」


「ふふっ、お母さんにとっては、まだ中学生、だからね」




 夕飯の時、話はクリスマスのことになった。


 お父さんが言った。




「結局、お父さんもお母さんも仕事だよ。どこにも連れて行ってやれなくてごめんな」




 わたしは言った。




「いいよ、気にしないで」


「せやで、叔父さん。こうして毎晩ご飯食べさせてもろてるだけで俺は嬉しいですから」




 そっか、クリスマスか。去年はコンサートに行って、ディナーを食べたっけ。


 今年はどうやって過ごそうかなぁ……。


 家族で過ごすイベントなんだから、早月くんと、っていうのは別におかしくない気がするけれど。


 もし、早月くんが誰か好きな人と過ごしたいと願うんだったら。


 それを優先させてあげたいと思った。


 そんな話をした翌日。登校すると、真凛がわたしを見て駆け寄ってきた。




「美奈、大ニュース! 西条先輩と江東先輩、付き合ったんだって!」


「えー!」



 あの二人に、一体何が?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る