27

 花火大会当日。

 

 お昼過ぎに、浴衣を持って美容院に行って、着付けとヘアメイクをしてもらった。


 鏡の中のわたしは、ちょっとだけ……お姉さんっぽくなったかな?


 早月くんとは、駅前で待ち合わせをしていて、目印は時計台だ。


 ラフな白いTシャツにデニム姿の早月くんが、先にいた。




「お待たせ……」




 わたしが声をかけると、早月くんはぱちぱちと瞬きをした。




「えっ、嘘っ、美奈ちゃん? めっちゃ可愛い! 誰かと思ったぁ!」


「もう、早月くん大げさだよ」


「ほんまやねんて。わぁっ、今日はこんなに可愛い子と一緒に歩けるんや。嬉しいなぁ……」




 そして、早月くんはすっと手を差し出してきた。




「なぁに?」


「はぐれたらあかん。手ぇ繋いどこ」


「えっ、えっ、ええっ?」




 そのまま、手を握られてしまった。なんだか振りほどけないし、そのまま電車に乗っちゃった。


 電車の中は、花火大会に行くのだろう、浴衣の人たちがちらほらいた。


 見るからに仲のいい大学生くらいのカップルもいて。


 わたしたちも、その人たちと同じように見られてる? って思うと落ち着かなくて。


 早月くんが喋ることに、相槌を打つばかりだ。




「俺、ベビーカステラ食べたいなぁ」


「うん、いいね」


「他にもどんなんあるんか、回るん付き合ってな!」


「うん、いいよ」




 繋いだ手のひらから伝わる早月くんの体温。


 ほっこりして、落ち着くような、恥ずかしくて、そわそわするような。


 二つの気持ちが入り混じって、とんでもなく変な感じがする。


 まだ花火大会の会場に着いてもいないっていうのに、こんなので大丈夫なの?




「あっ、着いたで美奈ちゃん。足元気ぃつけな」




 そっと電車を降りて、階段を降りる人波の中に入って行く。


 手はずっと繋いだまま。


 けっこう大きなお祭りだから、知り合いにばったり出会うかもしれないし、人が多すぎて出会わないかもしれない。


 そんな、ギリギリの緊迫感。早月くんはそういうこと、考えてるのかな。


 駅を出て、少し歩いて、海辺の広場まで出た。


 早月くんがキラキラした瞳をわたしに向けて叫んだ。




「わぁっ、屋台だらけやー!」




 ふんわり香るのは、わたあめやソースの匂い。


 やってきたぞ……!

 

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