26

 浴衣を買いに、お母さんと出かけた。


 小学生の時のは、金魚の柄だったけど、中学生になったんだもん。もう少し大人っぽい方がいい。


 お母さんにもあれこれ意見をもらって、選んだのは薄紫色の花柄。




「うんうん、美奈によく似合ってる。なんか、お母さんの若い頃を思い出すなぁ」


「お母さんの?」


「お父さんと付き合ったばかりの頃、浴衣デートしたんだよ。二人ともその時はもう少し痩せてたかな?」


「ふふっ、そうなんだ」




 浴衣を買ってもらって、今度は喫茶店にきた。


 お母さんはブラックコーヒー。わたしはミルクティー。


 当日、着付けやヘアセットもしてもらわなくちゃいけないからと、お母さんが近所の美容院を予約してくれた。




「美奈、写真いっぱい撮ってきてよね!」


「はぁい」




 飲み物が半分くらい減ったところで、お母さんがこんな話を始めた。




「ねえ、美奈。今、早月くんが使ってる部屋ね。本当は、美奈の弟か妹ができる予定で空けておいた部屋だったんだよ」


「……そうなんだ?」


「流産ってわかる? お腹の中で赤ちゃんが死んじゃうこと。何度もそうなっちゃってね。美奈にきょうだいを作ってあげるのは諦めたの」


「初めて聞いた……」


「美奈も中学生になったから、そろそろ話しておいてもいいかと思ってね」




 今時、同級生で一人っ子は珍しくないし、きょうだいがいないことについては何とも思ったことはなかった。


 そっか、お父さんとお母さんは、子供が二人欲しかったんだ。




「だからね、早月くんが来てくれて、お母さん嬉しいんだよね。男の子も育ててみたいって思ってたから」


「わたしも、早月くんと一緒に過ごすの楽しいよ」


「でも、初めはどうなることかと思った。美奈ったら、すっごく緊張してたじゃない? 今は打ち解けてくれたみたいで、お父さんとお母さん、ホッとしてるんだよ」




 これまでの早月くんとの日々を思い返す。


 学校では、いとこなのは内緒だし、早月くんも標準語だし、何より近寄れないしで、よそよそしいけど……。


 家では、同い年の兄妹のように過ごすことができている、気がする。


 話は花火大会のことに戻った。




「いい、美奈。夜遅くなるんだから、絶対に早月くんと離れないこと。困ったら大人の人に頼ること。どうしてもっていうなら、車で迎えにきてあげる。それから……」


「もう、わかったって。大丈夫だってば」




 もしかすると、早月くんはそんなこと、意識していないかもしれないけれど。


 わたしにとっては人生初デート。


 思い出に残る一日になればいいなぁ……。

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