第2話 ひき逃げ
「最近は減ってきている」
というひき逃げであるが、F県では、相変わらずの数である。
何といっても、F県というところは、約十年くらい前に起こった、
「ひき逃げ事件」
が、全国的に大きな社会問題を引き起こし、法律まで変えたり、罰則が強化されたりしたのではなかったか。
それは、前章で述べたような、
「飲酒によるひき逃げ殺人事件」
ということが発生したからであった。
世論も、マスゴミも、
「大きな問題」
ということで取り上げ、その問題が、全国に波及し、それまでも言われてはいて、
「撲滅運動」
というものを定期的に行っていたのに、このような問題が起こったことでの社会問題であった。
だから、県警察としても、
「自分の県から巻き起こった事件」
ということで、世間が騒いでいる間は、徹底的に撲滅運動を繰り広げていたが、それも、結局は、
「時間とともに風化してくる」
ということを絵に描いてしまったのであった。
「警察というものが、どれほどいい加減か?」
ということ、そして、そもそも、問題は、
「飲酒運転をする運転手だ」
ということで、まったく意識がないといってもいいだろう。
実際に、問題になったF県で、警察の取り締まりが強化されたことで一定数は減少したかも知れないが、
「世間が涙する」
という、同情を誘う事件だったにも関わらず、撲滅まで至るわけもなく、普通に、飲酒運転が蔓延っていたのだ。
警察も、
「だからと言って、口では、警察の威信というくせに、年中取り締まりをするわけでもなく、最初から、物理的に不可能と言わんばかりで、それこそ、警察の威信というのも、何か他のものと、天秤に架けられている」
といってもいいのかも知れない。
それが警察組織というもので、
特に、
「法律が改正され、罰則がきつくなった」
という時点で、警察としては、
「ここまでしているのだから、いいだろう」
とでも思ったのか、事件が起こる前のレベルにまで、撲滅運動を引き下げたのだ。
そうなると、結局、発生数も、以前と変わらない。
いや、これは増えてきたわけではなく、
「増えも減りもしない」
というだけのことで、
「じゃあ、これまで何をやってきたのか?」
ということであれば、警察も、やりきれないといってもいいだろう。
それだけ市民の意識レベルが低いということであり。
「人の命というものを、何と心得ているか?」
といえるだろう。
そういう連中が、口では、正当性を訴えながら、やっていることは、
「どうせ皆やっていること」
あるいは、
「ちょっとくらいなら分からない」
という考えになり、本来であれば、
「事故というのは、そういうちょっとした油断で起こるものだ」
ということを分かっていないといってもいいだろう。
だが、飲酒運転の撲滅という観点で考えると、
「果たして、この罰則の強化であったり、法律の改正というものが、本当にいいことなのだろうか?」
といえるのか?
というのは、ちょっとだけならいいと思って、近くのコンビニに車で買い物に出かけたとして、それが深夜だったりして、車の通りも人通りもいないところで、出会い頭に出てきた人を轢いてしまうことだってあるだろう。
もっとも、人通りが少ないのだから、
「人や車が飛び出してくるわけはない」
という単純な考えから、しかも、酒を飲んでいるという判断力の中で、反射神経も弱っているだろうし、そんな状況で、暗闇から人が飛び出してくれば、よけれるわけはないということになるだろう。
つまり、
「起こるべくして起こった交通事故」
というものを、加害者は、
「俺は悪くないんだ」
という観点で考えてしまう。
「相手が勝手に飛び出してきた」
つまりは、
「車は急に止まれないのに相手が飛び出してきた」
と考えるだろう。
冷静な判断力があり、
「自分のことだけを考える」
という人間でなければ、
「車は急に止まれないということなので、気を付けなければいけないのは、車の方だ」
と考えるであろう。
それを考えられないのは、
「自分が人を轢いてしまった」
ということで、被害者のことを考えず、自分のことだけを考えるので、自分の都合を最優先してしまうのだ。
そうでなければ、まずは、生き死にを確認したうえで、生きていれば、救急車と警察に連絡。死んでいれば警察に連絡するということは、常識として分かっているはずのことになるというものだ。
だから、その判断がつかないことで、まずは、そこが一番悪いわけである。
もっとも、その判断がつくくらいであれば、最初から、
「飲酒運転などしない」
ということになる。
加害者とすれば、
「交通事故は、いつ起こるか分からない。今回はたまたま酒を飲んでいただけだ」
と考えるだろう。
そうなると、
「ひき逃げに走る」
というのは、衝動的に思いつくことだろう。
もちろん、
「防犯カメラや、ドライブレコーダーの存在」
というものを忘れているわけではないだろう。
しかし、冷静な判断ができないということで、
「ひき逃げと、発覚する恐れというものを天秤に架けた時、出てくる答えは、最初から決まっていた」
といってもいい。
つまり、
「天秤に架けるというのは、最初から、まるでただの作法のように、すべきことだというだけのことで、判断材料とは関係ないところでの、形式的なことだ」
ということになるのだろう。
「まるで、警察組織のようではないか?」
と思う人も少なくない。
そう考えると、
「犯人になった人の精神レベルというのは、警察組織の精神レベルと変わりはないのかも知れないな」
ともいえる。
そう思えば。
「どりゃあ、犯罪が減るわけはない」
ということで、検挙されているのは、
「平均的に犯罪レベルが低い連中だ」
といっても過言ではないだろう。
優秀な頭を持っていて、自分たちを決して過信しないような犯罪者であれば、
「警察を欺く」
ということはできないこともないだろう。
ただ、交通事故というのは、そのほとんどが、
「出会いがしら」
などという、
「突発的な事故」
ということで、基本的に精神状態が錯乱しているであろう。
逆に、交通事故を起こして、普段同様な精神状態で、冷静に対応できる人がいれば、
「よほどの強靭な精神の持ち主か?」
ということであるか、あるいは、
「普段から、犯罪的な意識を持っている」
といってもいいような輩ではないだろうか?
それを考えると、
「結局、警察組織と犯罪者は、いたちごっこになるんだろうな」
ということであった。
だが、もし、
「交通事故というものを、計画的に行った」
という犯人がいたとすれば、その時、警察に太刀打ちができるというのだろうか?
交通事故といっても、実際には、
「殺人だった」
ということだってあるだろう。
「殺人事件を計画した犯人が、殺害方法として選んだことに、交通事故というものであった」
というのは、普通にあってしかるべきではないだろうか?
殺害方法としては、いろいろ考えられる。
「毒殺」
「刺殺」
「絞殺」
などがあり、それによって。犯行現場が変わってきた李するのも、犯人側の、
「犯罪計画」
というものがあるからである。
そもそも、犯罪に関しては。完全に、最初の主導権は、犯人側にあるのだ。
何といっても、犯人が犯罪を計画しているということを、どこかかから掴まない限り、警察がその犯罪自体を知るのは、
「犯行が行われてから」
ということになる。
だから、犯罪計画のあるものに関しては、
「犯罪を未然に防ぐ」
ということは不可能なのだ。
警察組織に対して。
「犯罪を未然に防ぐ」
というのは、あくまでも、抑止力ということであり、
「犯罪を犯せば、どうなるか?」
ということを犯人に思わせなければいけない。
それであれば、警察組織のいうように、
「検挙率というものを挙げるしかない」
というのは当たり前のことである。
「検挙率を上げれば。この県で犯罪を起こせば捕まる可能性は高い」
ということで、犯罪の抑止にはなるだろう。
しかもそれが、
「市民の強力が行き届いている」
ということになれば、
「犯行を行う前に露呈してしまう」
という危険性もあるということで、警察組織の考え方としては間違ってはいないのかも知れない。
しかし、そのために、目の前で行われようとしている犯罪を見逃してしまいかねないともいえる。
「大きな犯罪を相手にしている時、暴行などの軽い犯罪を検挙したことで、大きな魚を逃がした」
などということになれば、本末転倒だと考えるのだ。
しかし、第一線の刑事であれば、
「市民が暴行を受けているのに、それを黙って見過ごすことはできない」
と思うだろう。
どっちが正しいということが言えるわけではないが、人情としては、
「目の前の犯罪を見逃すというのは、ありえない」
というのが普通に考えられることだ。
それだけ、一般の警察官と、エリートと呼ばれるキャリア組との間にある確執が、警察組織という大きな壁に、さらに結界を作っていることになるのではないだろうか?
「交通事故」
というものを、軽視するわけではないが、
「事故」
ということで片付けてしまうと、
「本来の犯罪を見逃してしまう」
ということになるのではないだろうか?
そんな交通事故が、
「最近増えているような気がするな」
と思ったのは、K警察署交通課の河合刑事だった・
彼は、まだ25歳と若い刑事で、昨年まで、交番勤務に勤しんでいたので、本人としては、
「交通課赴任というのはありがたい」
と思っていた。
別に、
「刑事課が嫌だ」
というわけではないが、彼の中で、
「交通事故というものを少しでも減らしたい」
という意識と、最近では少し減ってはきているように見える、
「違法駐車というものを撲滅したい」
と思っている。
もちろん、目の前にある自分が管轄する警察署管内だけのことであるが、そこからが、
「自分の進む道が見えてくる」
ということで、
「今がその発展途上だ」
と思っているのであった。
かといって、河合刑事には、
「必要以上の正義感」
というものがあるわけではない。
「勧善懲悪」
という考え方があるからこそ、警察に入ったのだが、だからと言って、正義感を振りかざすことはしない。
あくまでも、
「無理をすると、道理が引っ込む」
ということで、倫理であったり、道理、道徳というものを、頭の中に入れて勤務するということが彼のポリシーということで、
「交通課が、一番いい」
と思うのであった。
他の同僚がどう思っているのか分からないが。あくまでも、河合刑事独断の考えであった。
交通課の河合刑事が、その事故と遭遇することになったのは、今から三日前のことだった。
いつものように、交通課の事務仕事を終えて、表の警戒に当たっていたのだが、それもまだ新人研修の一環という感じであった。
ベテラン刑事とコンビを組み感じだが、先輩からは、
「一つのことだけに集中しているのではなく、まわりもしっかfり気にするようにならないといけない」
と言われていた。
最初こそ、
「一つのことに集中することができていないと、まわりを気にしても、気が散って何もできないのではないか?」
と考えていたが、よく考えてみると、
「先輩の言っていることは、もっともなことであった」
というのも、
「まわりまわれば、同じことを言っている」
ということになると思ったのだ。
要するに、
「180度違うところを見ていても、もう一度同じように回ってくれば、同じところに帰ってくる」
という発想であった。
要するに、
「敵の敵は味方」
とでもいえばいいのか、我ながら、面白い表現をするものだと感じたのだった。
河合刑事は、学生時代から、
「天邪鬼」
と呼ばれることが多かった。
「皆と同じでは面白くない」
という考えで、人と考えかたが違うことが、
「自分のポリシーだ」
とすら思っていた。
だから。
「人の真似をするのが嫌いで、自分で創意工夫をして、新しく作り上げる」
ということに燃えていたのであった。
彼は、警察に入ったが、別に、
「勧善懲悪」
ということからではない。
「市民の役に立てればいい」
ということで、何も、
「刑事になって犯人を逮捕したい」
などという正義感に燃えていたわけではない。
しいていえば、
「人があまりやりたくない仕事だから」
という意味が大きかったのかも知れない。
だから、刑事になるといっても、刑事課や大変なところに自ら飛び込もうという気はなかったのだ。
「交通課であれば、そこまで厳しきはないだろう」
という思いであったが、実際には、本当に楽ができるわけではなかったが、自分が想定していたくらいの仕事だったことはありがたかった。
もっとも、今はまだ新人なので分かっていないだけかも知れないが、今の間は、まだ、
「自分がやりたい」
と思っていたことができるというものだった。
河合刑事は、大学時代には、
「文芸サークル」
というところに所属していた。
その理由というのは、彼がまだ高校時代に、友達に連れられて、近隣の大学の、大学祭に出かけた時のことだった。
いろいろなサークルがあり、そこを訪れることで、
「大学というところは自由に楽しめる」
ということが分かったのだが、その時感じたのが、
「何か創作をする」
ということが、自分は好きなんだということであった。
中学時代から、そのことはウスウスは感じていたのだが、実際に、どういうものなのか具体的には分からなかった。
だが、大学祭において、文芸サークルを覗いた時、そこには、雑誌が山積みされていたのだ。
その雑誌は、無料だったが、そのそばでは、文庫本くらいの察しが、販売されていたのだ。
「これは?」
と聞いてみると、
「この雑誌は機関誌ということで、サークルの伝統として、ずっとやってきたので、皆の作品が、少しずつ載っているんですよ。だけど、熱心な部員の中には、自分の本を出したいということで自費出版している人もいるんですよ。それを、この大学祭の場で、販売しようという試みなんですよね」
ということであった。
「なるほど、フリーマーケットのような感じですね?」
と聞くと、
「ええ、そうです」
と答えてくれた。
「フリーマーケット」
というのは、以前から知っていて、
「自分で創作したものを、それぞれのブースを作って販売するという、そういう、
「創作物のマーケット」
というものである。
もちろん、作品を作るのも、製本などの手配をするのも、そして、営業、販売も自分で行うというもので、やりがいがあるそうであった。
特に、
「自分でものを作ることが好きだ」
という意識は何となくではあったが、自分の作ったものが、フリーマーケットで自分で売るということを考えると、実際にゾクゾクするものだった。
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