第13話「異分子の目覚め」―前半―

組織本部・訓練区画。朝の光が差し込む冷たい空気の中、全班の訓練生が一斉に集められていた。


この訓練は三日目を迎えていた。

一日目は“精神の接続”──自身と内在存在とのリンクを確立する訓練。

二日目は“存在制御”──力の具現化や暴走抑制を目的とした制御訓練。

そして今日、三日目は“実戦連携”。各班が積み重ねた成果を披露し、さらには即席連携も試される実戦的な演習が行われる。

まだ最終訓練ではないが、班ごとの力量と連携力が問われる重要な一日だった。


整列した彼らの前に、静かに立つ二人の教官。


「……本日は、これまでの合同訓練の総括として、各班ごとの成果を見せてもらう」


志霧(しぎり)の落ち着いた声が、場の空気を引き締める。


「本日は、これまで各班が積み重ねてきた訓練成果の披露を中心に行う。後半の即席連携による戦術演習については、状況次第で日を改めて実施される予定だ」


その横で、緋聖(せいと)が冷ややかに視線を流す。

「自分の班の実力だけでなく、他の班の連携も“目で見て、学べ”。それが今日の目的だ」


ざわつく訓練生たち。その中には、明らかに一つだけ異質な班――星班(せいはん)の姿もあった。

「……星班も、例外ではない」


志霧の言葉に、小さく周囲の視線が彼女たちに向けられる。猛(たける)が肩を軽く鳴らしながら、低く呟く。


「……初披露か。面白れぇ、どんだけやんのか見せてもらおうじゃねぇか」


怜司(れいじ)が、眼鏡を押し上げながら静かに言う。


「今まで別行動だった様だし。戦ってるところも、誰も見たことないだろう」


真司(しんじ)がポケットに手を突っ込んだまま、不満げに言う。


「期待されてんのか知らねーけど、俺らからすりゃ謎チームだろ、あれ」


希(のぞみ)が、星班をちらりと見て、小さく息をつく。


「……雰囲気だけで評価されても、困る」


弘(こう)が小声でぼそりと漏らす。


「……ちょっと怖いな。あのメンツで、うまく連携できるのか?」


その視線を受けてもなお、星班の三人は無言だった。


蝶嬢(あげは)は静かに目を伏せ、

拓弥(たくみ)は片方の口角を上げてニヤリと笑い、

鬼憑(きよ)はいつものように感情を見せないまま、ただ前を見据えていた。


静寂が一瞬、場を支配する。

冷たい空気が張り詰め、誰もが息を呑む中――


志霧が最初の班名を呼ぶ。「……焔班、前へ」


訓練開始の鐘が、静かに、しかし重く鳴り響いた――。


焔班(えんはん)の3人が前に出る。先頭の海翔(かいと)はすでに気合が入っており、炎をまとったような勢いで前に進む。


「行くぞ。派手にキメてやろうぜ」


緋聖が制御端末に手を添えると、訓練場に幻影型の敵目標が複数展開された。

「課題:制圧時間と連携精度。焔班、開始」


海翔が駆け出すと、右腕に装着された《焦刃のネックレス(しょうじん)》が赤く発光し、アークシール《焦斬(しょうざん)》が共鳴。炎を帯びた剣が、その腕に形を取る。


「ぶった斬るッ!!」


火花を撒き散らしながら、一直線に幻影へ突進。

振り抜かれた炎剣が、敵の肩から腹部までを一刀両断し、燃え上がる断面とともに1体目が崩れ落ちた。


緋晴(ひばる)が後方から駆け寄る。

装着された《揺炎のピアス(えんこう)》が共鳴し、

アークシール《幻燐(げんりん)》が発現する。

まばゆい幻の炎が敵の視界を撹乱し、動きを一瞬止めた。


「焦がしてやるよっ!」


幻の炎が敵の目を覆い、その隙に緋晴が滑り込む。

回し蹴りの一撃が炎をまといながら敵の側面を打ち抜く。

幻燐の火が内部に侵食し、爆ぜるように2体目の幻影が吹き飛んだ。


凌牙(りょうが)は一歩遅れて突進。

右腕に刻まれた《劫閃の紋(ごうせん)》が浮かび上がり、アークシール《雷衝(らいしょう)》が発動。

拳に宿った雷の閃光が唸りを上げる。


「喰らえ……雷鳴ッ!」


地を蹴って跳び上がると、拳を振り下ろして幻影の頭部へ直撃。


炸裂した雷光が敵の身体を内部から貫き、全身を痙攣させながら3体目の幻影が蒸気のように霧散していく。


爆音とともに、最後の幻影が完全に崩れ落ちた。観ていた訓練生たちからは、一瞬の静寂のあと、歓声とどよめきが湧き上がる。


志霧が静かに目を細め、評価を下す。「制圧完了、38秒。連携評価──良好」


陽輝(はるき)が腕を組みながら、にやりと口元を緩める。焔班の動きを見守るようにして、「相変わらずの暴れっぷりだな、あいつら」と呟いた。


焔班が満足げに戻ると、次に呼ばれたのは虎班(こはん)だった。「虎班、前へ」


猛、陽輝(はるき)、真司が無言で前に出る。静かだった空気が一変する。地鳴りのような緊張感が走った。虎班の演習が始まる。


先頭の猛が踏み出した瞬間、右腕に《獣牙の紋(じゅうが)》が浮かび上がり、アークシール《咆牙(ほうが)》が共鳴。

その足元から土煙が舞い、地を砕く勢いで一直線に突進する。


「前からぶち抜く! お前は後ろを固めろ!」


猛の拳が炎を帯びながら幻影の腹部を直撃。

鈍い衝撃と共に敵の体内から爆ぜるように光が走り、骨格ごと砕けた幻影が一瞬で霧と化す。


真司がすかさず横から飛び出す。

装着された《雷閃の輪(らいせん)》が共鳴し、

アークシール《雷撃(らいげき)》が発動。

全身に雷の閃光が走り、その動きに鋭い加速が宿る。


「雷で痺れさせてやるよッ!」


一気に踏み込み、電撃を纏った肘で敵の側頭部を打ち抜く。

閃光が走った瞬間、脚と拳による連撃が撃ち込まれ、

雷撃の衝撃で幻影の体勢が崩れる。


2体目の幻影は地面に倒れ込み、光に包まれて静かに霧と化して消えていった。


その背後を陽輝がぴたりと追走する。


両腕に装着された《閃爪の輪(せんそう)》が光を放ち、アークシール《双閃(そうせん)》が共鳴。

光の爪が高速で展開され、空を斬り裂くように敵の死角を突く。


「次は右だ! 一気に押し込むぞ!」


陽輝の両手の爪が交差する瞬間、敵の身体が一閃のもと両断される。

宙に飛んだ破片がすぐに霧へと変わり、3体目の幻影も音を立てずに消えた。


志霧が冷静に評価を下す。「制圧完了、35秒。連携評価──良好」


観戦していた訓練生たちから、どよめきが上がる。


「……くそっ……35秒か。虎班、速すぎんだよ……」

緋晴は視線を伏せ、悔しさがこみ上げて拳を握り締める。

「次はぜってー負けねー……今度は、こっちが見せてやる。」


怜司が冷静に呟く。「さすが虎班」

その心の声はこうだった――

『さすが野獣どもだな』


その隣で、灯班の春音が苦笑いまじりに言う。「やっぱり虎班は圧が違うよねー……」


緋聖が次の班を呼ぶ。「次。木班、前へ」


静かに立ち上がったのは、木班(ぼくはん)の3人。

優しげな雰囲気を漂わせながらも、どこか研ぎ澄まされた空気がまとわりついていた。


木班の演習が始まる。


蒼太(そうた)が一歩前に出る。胸の中央に刻まれた年輪のような緑のあざ《樹滅の紋(じゅめつ)》が淡く揺らめき、アークシール《根制(こんせい)》が発動。

大地を踏み鳴らすと、地面から渦巻くように木の根が伸び上がり、1体の幻影の足を絡め取り、確実に動きを封じ込めた。


「動きを止めたぞ、尚! 急げ!」


「了解。任せて」


尚(なお)は胸元の《森守のブローチ(しんしゅ)》に指を軽く触れ、アークシール《翠刃(すいじん)》を展開。

手のひらから葉の形をした光の刃を生み出し、風のような連撃で幻影の身体を切り裂いていく。


切れ味鋭い刃が拘束された敵の急所を貫き、幻影は苦悶のうめきとともに崩れ落ち、霧と化して消滅した。


続いて、歩美(あゆみ)が足首に装着された《若芽のアンクレット(わかめ)》を輝かせ、アークシール《萌風(ほうふう)》が共鳴する。

蔓と小花が連なる銀の足輪から癒しの風が立ち昇り、敵の動きを鈍らせていく。


少し俯きながらも、声にわずかな強さを込めて告げた。


「2体はこうそくしたよ……蒼太くん、1体はお願い」


蒼太がすぐさま歩美の拘束下にある幻影へと踏み込み、根を巻き上げながら拳に力を込めた。


「いくぞ!」


地から放たれた根の衝撃とともに拳が敵の胸部を打ち抜き、幻影は一撃で砕け散っていく。


残る1体を見据え、歩美は小さく息を吐きながら、自分に言い聞かせるように呟いた。


「……大丈夫、出来る」


優しくも確かな光が蔓となって敵の身体を包み、そこから次々と芽吹く緑の芽が花へと成長していく。

一斉に咲いた花が眩い光を放ち、満開の瞬間──そのすべてが爆ぜるように敵の身体を打ち砕いた。


幻影は無数の花びらに包まれながら、音もなく崩れ、静かに消え去った。


三人は拘束、補助、攻撃と、それぞれの役割を的確にこなし、無駄のない連携で全ての幻影を制圧していく。


志霧が静かに頷く。「制圧完了、1分2秒。連携評価──良好」 「支援型とは思えない攻撃力と統制力……悪くない」


訓練生たちの間に、静かなざわめきが広がる。


春音(はるね)が少し微笑みながら言う。

「歩美ちゃんの技、綺麗なのに破壊力があってかっこよかったよね」


怜司が眼鏡を押し上げ、冷静に言う。

「動きに無駄がない。連携は確かだな」


猛は腕を組みながら照れ笑いで言った。

「ここまでしっかり決めるとは思わなかったぜ。それにしても歩美ちゃん、まじで可愛いなー」


希は優しい目で微笑みながら、締めくくるように言った。

「みんな最後まで油断しなかったね。歩美も、よく頑張ったよ」


訓練場には、次の班を待つ緊張感と静かなざわめきが広がる。


緋聖は一瞬、場の様子を冷静に見渡し、端末に目を落とした。


「雨班、前へ」


静かに一歩を踏み出した雨班(うはん)の3人に、空気が再び張り詰める。

演習は、いよいよ後半戦へ。

星班の初披露を前に、訓練場の緊張は最高潮に達しようとしていた。


──続く。





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