第7話「帰る場所の匂い」

霞ノ瀬家(かすみのせけ)の一室では、悠誓と緋聖が向かい合っていた。


悠誓(ゆうせい)は静かに息をつき、緋聖に問いかける。 悠誓「……三人の様子は?」


緋聖(せいと)は背筋を伸ばし、少しだけ目を細めながら答えた。 緋聖「互いの距離はまだ遠いが、確実に変化はある。蝶嬢を中心に、静かに歩み寄り始めている」


悠誓は静かにうなずき、障子越しに漏れるあたたかな光を見つめた。

悠誓「……あの子たちが、共に何を選ぶか。見届ける価値はあるな」


緋聖は目を伏せ、言葉を続ける。

緋聖「蝶嬢には迷いもあるが、それでも崩れきらない芯がある。──俺は、そう見ている」


悠誓は穏やかに笑みを浮かべた。

悠誓「……ああ。兄としても、そう思ってる。だからこそ信じているさ」


一方その頃、食卓では箸が軽やかに動いていた。


炊き込みご飯を口に運びながら、拓弥(たくみ)が感嘆の声を上げる。 拓弥「これ、ほんとに手作り!? すごっ……味しみてる!」


笑みを浮かべた晴翔が頷く。 晴翔(はると)「はは、冷蔵庫の残り物だけど、昆布と鰹の合わせ出汁で煮たんだ」


鬼憑(きよ)は無言でもくもくと箸を進めていたが、その表情は穏やかだった。


蝶嬢(あげは)はそっと湯呑を置き、微笑んだ。 蝶嬢「……はる兄の料理は、昔から変わらない。優しい味」


食事を終えた三人は、広間の座卓でくつろいでいた。

障子の外からは、虫の音と、遠く木々の揺れる音が静かに聞こえてくる。


拓弥は座布団にもたれながら、満足そうに呟いた。

拓弥「いやー、お腹いっぱい……マジで最高だった」


鬼憑は茶碗を置き、ふと視線を床に落とす。

鬼憑「……こんなにゆっくり食べたの、久しぶりかも」


蝶嬢は湯呑を手に取りながら、ふと廊下に視線をやった。


そのとき、遠くから複数の足音が近づいてくる。 ふすまが静かに開かれ、長男・悠誓(ゆうせい)、次男・颯真(さくま)、四男・静夜(せいや)、五男・玲央(れお)──蝶嬢の兄たちが順に姿を現す。


悠誓が静かに口を開いた。

悠誓「……遅くなった。もう食べ終わった頃か?」


蝶嬢は頷きながら答える。

蝶嬢「うん、ちょうど片付けるところだった」


晴翔は笑顔で兄たちを迎えた。

晴翔「おかえり。みんな、座って」


颯真は腕を組みながら、くつろいでいる三人を眺めた。 颯真「これが蝶嬢のチームか。……個性的だな」


静夜は目を細めながら冷たく言い放つ。

静夜「……ふん、ちび共が」


拓弥がむっとして眉をひそめる。

拓弥「……ちびって……は? 誰がちびだよ」


鬼憑は静かに声を落とす。

鬼憑「……殺す」


玲央はにやりと笑みを浮かべながら言った。

玲央「いや〜、みんな、性格バラバラだな。……そういうの、俺は好きだけど」


そう言いながら、玲央は鬼憑の方に視線を向けた。


玲央「そういや──お前、あいつの弟だよな。……なるほど」


にやにやと口元をゆがめるその様子に、鬼憑の眉がわずかに動いた。


蝶嬢は戸惑いをにじませながら言葉を返した。

蝶嬢「……なにそれ」


拓弥は首を傾げ、玲央に問い返す。 拓弥「え、弟? さっきのきょうだいの話?」


鬼憑は無表情のまま、冷たく言い捨てる。

鬼憑「……くだらない」


玲央は口元にわずかな笑みを浮かべた。

玲央「いや〜、反応薄いなあ。からかい甲斐がないっていうか」


颯真は軽くため息をつき、弟をたしなめた。

颯真「お前がそうやって場をかき回すから、ややこしくなるんだよ」


静夜が一言、鋭く釘を刺す。

静夜「……玲央、黙れ」


晴翔は空気を切り替えるように声をかけた。

晴翔「はいはい、そろそろ落ち着いて」


玲央は苦笑いを浮かべ、静夜は無言のまま視線を逸らす。

颯真は軽く息をつき、そのまま座布団に腰を下ろした。


蝶嬢は湯呑を手にしながら、拓弥と鬼憑の方を見やる。

蝶嬢「……少し話しない?」


鬼憑はわずかに視線を横にそらす。

鬼憑「……別に、話すことなんてないけど」


拓弥は不思議そうに首をかしげた。

拓弥「……鬼憑のきょうだいって、有名なの?」


颯真は息を吐き、少しだけ口元をゆるめた。

颯真「……ま、あんまり詮索してやるなよ。話すかどうかは、本人のタイミングだ」


蝶嬢は静かに頷き、湯呑に視線を落とした。

蝶嬢は静かに頷き、湯呑に視線を落とした。

蝶嬢「……まぁ、話したくないこともあるよね」


鬼憑は湯呑を手に取り、少しだけ眉をひそめた。

鬼憑「……別に、嫌ってるわけじゃない。でも……むかつくんだ」


拓弥はそれを聞いて、ふっと笑った。

拓弥「そっか。じゃあ、喋りたくなったら聞くからさ。」


蝶嬢は小さく笑みを返した。

蝶嬢「……うん。私もその時はちゃんと聞く」


静かな空気が広がる中、どこかやわらかな気配が座卓を包んでいた。


静かなやりとりのあと、三人は湯呑を手にしたまま、ほんの少しだけ笑っていた。

それはまだ不器用な、でも確かに“仲間”の空気だった。

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