第5話「芽吹く連携」
訓練の一区切りが見えたかと思われた瞬間、
空間に揺れる幻影は、なおも三人を試すように気配を放ち続けていた。
緋聖(せいと)「試すのは、ここからだ」
新たに現れた幻影は、三体。先ほどまでよりも明らかに連携を意識した動きを見せ、三人を囲むように展開した。
その動きには明確な“意志”があるかのようだった。
蝶嬢(あげは)の目が鋭く光る。
蝶嬢 「三体いる。手分けして倒すよ」
蝶嬢の帯が素早く展開され、空中で六本の軌道を描く。
一本は正面の標的を絡め取り、もう一本は横から回り込むように伸びて、動きを封じた。
蝶嬢 「この二体、抑えてる……拓弥、お願い」
拓弥(たくみ) 「了解っ!」
拓弥は標的の一体に向かって跳躍し、一瞬の射撃で動きを止めたその隙に左手の獣の爪を振るう。
斬撃と銃撃が交差し、標的の動きが鈍る。その隙に帯が収束し、毒が注がれた。
一体目、撃破。
だが、別の標的が背後から迫る。
鬼憑(きよ) 「後ろ、来てる」
鬼憑は素早く鎖を振るい、焔縛の鎖(えんばくのくさり)とともに“黒い手”が空間を這い出す。
その手は地面から這い上がり、標的の足を掴んで引きずり倒す。
鬼憑 「拓弥、動き止めて」
拓弥 「はいよっ!」
拓弥が斜めから飛び込み、銃弾を叩き込む。
標的の体勢が崩れた瞬間──
鬼憑の鎖が四方から巻きつき、闇に引きずり込みながら締め上げた。
二体目、撃破。
残る一体が三人の連携の隙を突こうと跳びかかってくる。
蝶嬢 「上、来るよ!」
すかさず帯が上方へ跳ね上がり、相手の視界を遮るように展開。
その隙を突いて──
鬼憑が鎖で動きを封じ、拓弥が回り込んで連携斬撃。
蝶嬢 「一気に決める!」
三人の動きが重なり、蝶嬢の帯が巻きつき、毒を注ぎ込むように締め上げた。
最後の幻影が毒を受けて崩れ落ち、音もなく消滅した。
……静寂。
緋聖は腕を組んだまま三人を見つめていた。
緋聖 「……悪くはない。だが、動きに無駄が多い」
その一言に、誰も返事はしなかった。だが、それぞれの胸の内には確かな達成感と、何かが繋がった実感が残っていた。
蝶嬢 「次は、もっと……うまくやる」
その呟きが、三人にとって最初の“共通の意志”となった。
三人は無言のまま、その場に立ち尽くしていた。
空にはまだ、わずかな光の揺らぎだけが残っていた。
拓弥 「ふぅ……ちょっと、疲れたかも」
鬼憑は無言のまま、霧の中で静かに佇む蝶嬢の姿を見つめていた。
その視線には相変わらず感情が読み取りづらいが、先ほどまでの鋭さはない。
やがて、鬼憑はそっと拓弥の方へと目を向け、声を発した。
鬼憑 「……さっきは、助かった」
拓弥は少し驚いたように目を見開き、それから笑う。
拓弥 「へぇ~、素直じゃん? でも、どういたしまして」
鬼憑はふいに視線をそらし、小さく付け加えた。
鬼憑 「……借りは返す」
拓弥は口元を緩めた。だがそれは、からかいというよりも少し嬉しそうな笑みだった。
緋聖はその様子を見守りながら、再び腕を組んで考えを巡らせていた。
緋聖 (この三人の構成は、確かに未完成だ。だが──)
ふと、彼の脳裏に悠誓(ゆうせい)の言葉が浮かぶ。 『どんなに力があっても、信頼がなければそれはただの個の集合にすぎない。』
緋聖 (俺はそこまで理想主義じゃない。だが……こうして現実に変化が起きているなら、見守る価値はある)
三人が互いに視線を交わす。
ほんのわずかだが、そこに敵意も拒絶もなかった。
これが“始まり”なのだと、緋聖は確信していた。
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