第33話 理不尽と天邪鬼
「おにーちゃん」
「断る」
バイトから帰ったらなぜか
どうやって入ったのかはこの際どうでもいい。
それよりも紡が『お兄ちゃん』や『おにーちゃん』を使う時は絶対にろくなことではない。
特に後者は話を進めてはいけない。
「勝手に侵入する系の妹ならラッキースケベイベントが必要じゃないか?」
「話を逸らす為にならそういう話題も使うのか。ちなみにそれも考えてはいたよ。おにーちゃんが帰って来た時に裸エプロンでお出迎えして『おにいちゃんのえっち』みたいな理不尽しようかなとか」
「思いとどまって偉い」
兄の部屋に勝手に侵入した妹が兄をからかう為に体を張る系のものは見てる分には可愛くて、実際に起こらないか期待することもあるだろう。
だけどいざ自分の身に起こるとなると、反応に困るしその後の空気が重くなりそうで起こって欲しくは無い。
「裸エプロンイベントって実際は下に何か着てるのが多いけど、兄が『着てるんだろ?』みたいなこと言って『見る?』みたいなからかいするのいいよね」
「それで兄が少し期待しながら待つんだけど、妹がゆっくりめくって『期待した?』みたいに言ってちゃんと着てるやつな」
「やっぱりやって欲しかった?」
「紡の綺麗な肌をそんな簡単に晒すわけにはいかないよ」
「見せるのはお兄ちゃんだけだよ」
「……ちょっと生々しいからやめよ」
「じゃあ……見せるのは
「彼女感出せばいいってことじゃねぇわ」
俺から顔を逸らして少し照れながら言う紡。
始めたのは俺だけど、そういう茶番はほんと反応に困るからやめなさい。
「実際のとこ私の肌を見せられるの咲空ぐらいなんだけどね」
「もういいっての」
「いつか、見てくれる?」
「お前……」
いい加減にやめさせようとしたけど、紡の表情がいつものからかう時の表情では無かった。
こんな顔、ずるい。
「……やっぱり咲空も男の子だから私を剥きたい?」
「黙っとけ小娘。俺がお前に手を出すのはせめてお前が未成年じゃ無くなった時だ」
さっきまでの表情がいつものからかう時の可愛く腹立つものに戻った。
あれが俺を本気でからかう為のものなら別にいいのだけど、ほんとにいつか紡に手を出して無理に逃げるようなことが無いことを祈る。
「大人になるの嫌だったけど、咲空が私に手を出してくれるなら楽しみになったかも」
「その時は俺の妹卒業だけどな」
「そうか、咲空を弟にする時が来るのか」
「俺は姉という存在が嫌いだけどそれでいいんだな?」
「咲空は紡お姉ちゃんのこと大好きでしょ?」
「紡のことなら好きだけど、そういう言い方する姉が嫌い」
もう何度も聞いた『咲空はねぇねのこと好きでしょ?』という言葉。
実姉を好きだという弟がいるのは二次元だけに決まっている。
少なくとも俺はあれを好きにはなれない。
「咲空はほんとに簡単に『好き』って言うよね」
「姉と紡を天秤に掛けたら好きって意味だから深い意味は無いぞ?」
「無いの?」
「お前のそれはいいんだな」
「女の子は理不尽の塊だってどこかに書いてあったような気がしないでもないから」
「じゃあ男は
全ての女子が理不尽しか言わないのかと言えば違うだろうけど、
慣れればそこも愛嬌だと思えるが。
男は基本的に捻くれ者ばかりだから素直じゃない。
それも偏見かもだけど。
「じゃあ咲空がさっき私を好きって言ったのも天邪鬼なの?」
「たまには素直になる時だってあるよ」
「都合のいい時だけそう言って」
「じゃあ嫌いって言った方がいい?」
「やーだ」
「理不尽だな」
どんな茶番か。
女の子は理不尽。
千佳を例えで出したけど、そういえばとんでもない理不尽を言ってきた子がいたような……
「そういえば話逸らされてたままだった。私もお泊まりしたい」
「紡が未成年のうちは俺が手を出す可能性があるから駄目」
「絶対無い未来の話はいいんだよ。それに未成年の女の子の家にお泊まりするんでしょ?」
「ほんとさ、女子の情報交換の速さってなんなの? 全部話すよね」
女子の間に『秘密』なんて言葉はあって無いようなもの。
紡達に関して言えば本当に秘密にしたいことは絶対に喋らない信頼はある。
今回のは秘密にする必要も無いし、むしろ共有しておいた方が後が楽でもあるし。
「
「鬱だわ。俺何かしたの?」
そう、昨日玉森さんとお泊まりの話をしたけど、その日の夜に玉森さんから『父と母が是非に
もしも玉森さんの両親が許可を出しても俺が断ればいいと思っていたけど、お呼ばれの可能性なんて考えてなかった。
これを断ったらどうなるのだろうか。
まあ、断るような自主性があれば俺は今頃フリーターをしてないのだけど。
それからしばらく紡が俺の部屋に泊まりたいと駄々をこねていたけど、とりあえず保留にできた。
紡が帰る時に千佳から借りたという合鍵を貰って数日後に待っているXデーをどう乗り越えるか考える。
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