第9話
―迎えた最終日。相も変わらず人は多いが3日もなると流石に慣れてくるものだ。
「聞いた話だけどあたし達のクラスと会長達のお化け屋敷と凪桜さんのクラスが売り上げ的に同じくらいだって」
「びっくりだよね〜」
悠海ちゃんの言葉に頷く美佳ちゃん。それにしてもなんであの怖いお化け屋敷が人気なんだろう……?って顔を2人はしている。まぁ、この2人に取っては怖い思い出しかないんだから当然だろう。
いや、悠海ちゃんの時は最後の方だけで、最初の方は特になんともなかったと思うんだけどなぁ……
「美佳さんと……悠海の……昨日の……反応……面白かったよ……」
「冬音、お願いだから忘れて」
正直私としても忘れて欲しい。別の意味で。
―それにしても悠海ちゃんは私のことをどう思っているんだろう……?それに私は、どう思ってるんだろう……?正直気持ちの整理はまだついていない。
でもなんでかな……?悠海ちゃんと美佳ちゃんの距離の近さが少しだけ羨ましく思えてきた。少し前まではそんなこと全然思わなかったのに……。
って、そんな気持ちでクレープ巻いてても美味しいのなんて作れないよね!切り替えないと。
そう思いながら私は気持ちを切り替えてクレープを巻き始めた。
*
―そして迎えた休憩時間。今日は凪姉と涼姉、あとは私で休憩に行っている。帆華ちゃんは今日はもう帰っているので居ない。それで冬音ちゃんは夏妃先輩とデートに行くと言っていた。美佳ちゃんと悠海ちゃんは別の友達と回るみたいだったので誘うのを辞めた。
「それでそれで〜?詩音梨ちゃんと悠海ちゃんの二人はどこまで進んだのかなぁ〜?お姉ちゃんに教えてごらん?」
凪姉の言葉に思わず飲んでいたものを吹き出す所だった。それに追い打ちをかけるように涼姉が
「会長と副会長に聞いたわよ。悠海をお姫様抱っこしてお化け屋敷を出たって」
そう言ってニヤニヤしていた。その日のことを思い出して顔が真っ赤に染まる。
「あら……。これは……」
「ふふっ、満更でもなさそうな感じなのね」
「やっと悠海ちゃんも報われるのね〜」
「ちょっ……何言って!?」
悠海ちゃんのことは大切な友達。……なんて思えたら多分楽だったんだろう。一方的にだけど、なんか別の感情が向いてるのは明らか。
「はぁ……」
たぶん私の考えてることを読んだのだろう。明らかに大げさに溜め息をつく二人。
「詩音梨。もっと自分に正直になりなさい」
「うんうん。もっと自信もって、ね?」
二人の応援の言葉を形だけは受け取って、この気持ちには蓋をすることに。
悠海ちゃんとの関係が壊れないように。
*
―気がつくともうあっという間に閉会式の時間に。今日は片付けも込みなのでもうお店自体は閉めている。
「みんなお疲れ様!それじゃあ、乾杯!」
片付けが終わったので残りの時間は余った飲み物でみんなと乾杯をしていた。(ちなみに乾杯の音頭を取ったのは旭ちゃん)
「なんだか、少し寂しいね」
「しおは楽しかった?」
「うん、とっても楽しかったよ。だから寂しく感じたのかな……?」
その言葉に満足そうに頷く悠海ちゃん。きっと大人になっても今日のことは忘れない自信がある。それくらい充実した3日間だった。
「でもお化け屋敷はもう勘弁かな……」
「……っ!?」
お化け屋敷での恥ずかしさがまたフラッシュバックしてしまった私。あの時はアドレナリンが出まくっていたからなんだろうなぁ……。普通に悠海ちゃんをお姫様抱っこ出来てしまった。
普通に抱っこなりおんぶなりをしてあげれば良かったのに、よりにもよってお姫様抱っこなんて……。悠海ちゃんも恥ずかしかっただろうなぁ……。
「……詩音梨、鈍感」
恥ずかしい思い出が絶賛フラッシュバック中、急にジト目で冬音ちゃんから見られて小声でそう囁かれた私。鈍感って……。そんなことないと思うんだけどなぁ……。
「詩音梨は……鈍感。特に……自分のことに……関して」
「あと……ヘタレ」
なんかサラッと暴言吐かれてるのは気のせいだよね?冬音ちゃんがそんなこと言うなんて解釈違い……割と言いそうだなって一瞬思ってしまったけど、言わなきゃバレないでしょ。
「詩音梨は……臆病すぎる……。悠海のこと……本当に信じてるの……?」
「え……?」
冬音ちゃんのいつにもなく真剣な表情に思わず固まる私。
「ん?二人ともどうしたのー?」
「別に……。なんでもないよ……」
冬音ちゃんに絡む美佳ちゃんのおかげで、なんとか抜け出せた私。冬音ちゃんの言葉に少しだけモヤモヤしながら、そのままお手洗いに行って、体育館へと向かうことにした。
*
―閉会式を終えて放課後。凪姉と涼姉は生徒会の仕事で少し帰りが遅くなるって連絡があって、美佳ちゃんはクラスの子に呼ばれて遅くなりそうだから……とのことで、私と悠海ちゃんは寄り道をして帰ることに。
少し前に冬音ちゃんに言われた言葉が頭の中で反復する。そして気が付いてしまった。隠してなきゃいけない感情に。
私だってそんなことが分からない馬鹿じゃない。だって冬音ちゃんの言う通り自分のこと以外は簡単に気が付くんだもん。
昨日からずっと感じてるこの感情の正体が恋だったなんて。
嘘。本当はずっと昔から気が付いてて無理やり蓋をしようとしてるだけだ。
「どうしたの、しお?」
「え?い、いやなんでも……」
「嘘ばっかり」
私の無意識に出てた嘘をつく時の癖みたいなのを悠海ちゃんは分かってるみたいで、すぐに嘘がバレてしまう。
でももしダメでこの関係が壊れちゃったら……。冬音ちゃんの言う通り、私は臆病だ。
「しお、話してよ。しおが思ってること全部」
俯いたままでいると優しく悠海ちゃんに抱きしめられる。この優しさに思わず涙が溢れそうになる。
「言っていいのかな……?こんなこと」
「うん。全部話して」
少し呼吸を整えて俯いた顔を上げ、抱きしめられてた悠海ちゃんから少し離れて……
「悠海ちゃん、あのね……!」
「私、悠海ちゃんのことが……!」
「大好き……だよ」
その瞬間悠海ちゃんに抱きしめられた。今度は強く。絶対に離さないって感じるぐらいに強く。
「もう……!遅いよ、しお!」
「え……?」
「あたしもしおのこと昔からずっ〜と大好きだよ!」
「それは私をからかってじゃなかったの……?」
「だから違うって言ってたじゃん!!」
悠海ちゃんの言葉に笑い合う私達。凪姉や涼姉、それに冬音ちゃんが呆れてたのはこういうことだったんだ……ってなった。
「ねぇ、しお。あのさ、あたしのこと悠海って呼んでよ」
「……分かった。ゆ、悠海……」
「〜っ!?しお〜!!」
お互いに顔は見えてないけど、たぶん今の夕陽ぐらい真っ赤なんだろう。
「……それじゃあ、帰ろっか?」
「寄り道するよりも良い事あったから、早く帰ろっ!」
私達は自然と手を繋ぐ。お互いの指を絡めるように恋人繋ぎってやつなんだろう。
「しお、大好き!」
「私もだよ、悠海」
私達2人を繋ぐ糸が解けないように。夕陽に向かって固く誓い合うように好きという言葉を紡いだ。
___________________________________________________
キリが良いのでここで一旦区切ろうと思います。また続きが思い浮かべば書くかもですし、新しいジャンルに手を出すかもしれません。
異世界ファンタジーとか現代ファンタジーとかVRとか書きたい物も色々あるので気が向いたら書こうかなと思います。
短い間でしたが、お読みいただきありがとうございました。
平凡な少女のメヌエット シトラス @citrus1065
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