第4話

 ―私、星崎詩音梨にはもう一人幼馴染と言っても良いぐらい仲の良かった子が田舎のおばあちゃんの家の隣に居た。


 私のことをしお姉と呼んで慕ってくれてたあの子は今元気にしてるだろうか……?そういえばあの子って年下なのかな……?というかあの子、男の子か女の子なのかよく分からなかったんだよねぇ……。


 名前は確か……


「あ、そうそう!転校生を紹介します!入って!」


 私は入ってきたその子を見て驚いた。だって……


「私の名前は陽川 美佳ひかわみか。これからよろしくね!」


 思い浮かべてた名前と同じ名前、そして少し大人っぽくなったけど、当時とあまり変わらない顔で女の子らしくなったあの子が居たからだ。昨日凪姉達がニヤニヤしてたのはこのことだったんだなぁ……と思った。


「陽川さんの席は……。星崎さん……のじゃなくて月里さんの隣ね!」


「ん、星崎って……もしかして、しお姉!?!?!?」


 途端に注目を集める私。あ、うん。そりゃそうだよね。私だって最初見たとき驚いたもん。


「わぁ~!しお姉だぁ~!久しぶりだね!凪桜姉ちゃんと涼楓姉ちゃんは元気にしてる!?」


 犬が嬉しそうに尻尾をブンブン振っている時みたいな感じの勢いで空いていた悠海ちゃんの隣の席までやってきた美佳ちゃん。


「あはは……。久しぶり、美佳ちゃん。うん、二人とも元気にしてるよ」


「ねぇ、しお。この子って……」


「あ、うん。前に言ってた……」


「あなたが悠海ちゃん!?よろしくね!」


「え、えぇ……。よろしく……」


 少し困惑した様子の悠海ちゃん。そんな悠海ちゃんと握手をした後に、席へと着く美佳ちゃん。そういえば私もこんな感じで仲良くなった記憶が……


 そんなことを思っていると先生の話が終わり美佳ちゃんの席の周りに人が集まってきたので、私と悠海ちゃんはそっと廊下へと出た。



*



 ―昼休みは凪姉達と食堂で待ち合わせしてたから食堂へと向かおうとしていると、美佳ちゃんもクラスメイトとの話を終えてついてきていた。


「おーい、詩音梨ちゃ〜ん!」


「ちょっ、姉さん……。あ、美佳も来ていたのね?」


「うん!凪桜姉ちゃんと涼楓姉ちゃんは昨日ぶりだね!」


 なるほど……。昨日ニヤニヤしていたのはこういうことだったのか……。凪姉と涼姉も勿体ぶらずに教えてくれても良かったのに……


「そういえば、美佳ちゃんはなんでこっちに?」


「それはね、お母さんがこっちの方に転勤になったからなんだ!しお姉の家の隣になるなんて思ってなかったよー」


 なるほど……。てか、美佳ちゃんのお母さんとお母さんが同級生という不思議な縁もあるせいで恐らくお母さんが教えたんだろう。


「それってもしかして……」


「たぶん悠海ちゃんの考えてるとおりだと思うよ……」


 悠海ちゃんもなにかを察したみたいで、私に耳打ちでそんなことを話しかけていた。


 というか悠海ちゃんのお母さんも同級生なんだよね……。本当に不思議な縁があるというか……。


「ねぇ、しお!そのハンバーグ一口頂戴!」


「しょうがないなぁ……。はい、あーん」


「あーん……。んん~!」


 昨日の夜に作ったハンバーグを美味しそうに食べる悠海ちゃん。お返しにコロッケを分けてくれた。その様子を見ていた美佳ちゃんが……


「しお姉!私にも頂戴!」


「はいはい。てか、しお姉って言うの恥ずかしいから辞めて欲しいなぁ……」


「えー!」


 不満そうにしながら上げた卵焼きを美味しそうに食べていた。お返しに唐揚げを分けてくれた。


「まぁ、良いんじゃないかしら?『しお姉』って呼び方、可愛いと思うわ?」


「それに詩音梨、昔は美佳のこと男の子って思ってたしね?」


「そういえば、美佳くんって呼ばれてたなぁ……」


 ―そう……。当時の美佳ちゃん、本当に男の子だと思うぐらい髪も短くて、やんちゃだったし、なんなら昔の一人称は「ボク」だったから、てっきり男の子だと思ってた。なんなら今も正直言うとスカートを履いてる男の子だと思ってる(女子校なのに)


「だって、半袖に短パンで髪もかなり短くて男の子っぽい趣味してたから、ついそう思っちゃったんだよ……。声も女の子にしては低めだったし……」


「まぁ、しおの言いたいことも分かる気がする……」


 そんな子が居たら普通に男の子だって勘違いするだろうという気持ちを分かってくれた悠海ちゃん。と言うか、凪姉と涼姉は分かってたなら教えてくれても良かったのでは……?


「もしかして虫取りに誘ってもなかなか来てくれなかったのってそういうことだったの……?」


「だって虫怖いんだもん……」


「しおは昔から虫全般苦手だもんね……。あたしもそこまで好きではないかなぁ……」


 悠海ちゃんの言う通り、虫が本当に苦手。虫だけはなぜかわからないけど昔から無理だった。凪姉や涼姉は別に苦手って訳ではないから本当に謎。


「そういえば美佳は一人っ子なの?」


「うん!悠海ちゃんは妹が居るんだよね!良いなぁ〜!私も妹かお姉ちゃんが欲しかったなぁ……」


「帆華ちゃんもこの学校よね?」


「はい。ここの中等部ですね」


「じゃあ、もしかしたら会えるってこと?」


「うーん。行き帰りとか一緒だから会えると思うけど……」


 そこから話が進んで今日の放課後は一緒に帰ることになった私達。帆華ちゃんには少しだけ待ってもらうことになるけど、それを悠海ちゃんがメッセージすると『分かった』と一言だけ返ってきた。


「あ、そうだ……。今日買い物して帰らないと……」


「あら?食材が切れてる感じかしら?」


「うん。凪姉、今月まだ食費に余裕あるよね?」


「えぇ。私と涼楓ちゃんもついて行って良いかしら?」


「良いの?今日は何もないの……?」


「もちろん。私も姉さんも今日は生徒会は休みだから」


「……サボりじゃないんだよね?」


「「……サボりじゃないわ」」


 一瞬妙な間があったような気がしたけど、恐らく気のせいだろう。うん。



*



 ―放課後。あの後こっそり生徒会長さんに、二人は本当に今日は休みかを聞きに行くと、本当だったみたいで少し申し訳ないことをしたなと思いながら、悠海ちゃんと凪姉と涼姉も巻き込んで美佳ちゃんの学校案内を済ませて、校門前で待たせていた帆華ちゃんと合流していた。


「ごめんね、帆華ちゃん。待ったかな?」


「そんなに待ってないよ、しおお姉ちゃん。ほほぉ……。この人がお姉ちゃんのライバルか……」


「ライバル……?」


「あ、しおお姉ちゃんは気にしないで。始めまして、月里帆華です」


「陽川美佳だよ。よろしくね、帆華ちゃん!」


 そう言って腕をぶんぶん振られながら握手される帆華ちゃん。帆華ちゃんが小声で「本当にお姉ちゃんと同級生なの……?なんか私よりも色々と小さい……」なんて言ったような気がしたけど、聞かなかったことにしよう。


「それじゃあ、行きましょうか。凪咲、今日は確か駅前のショッピングモールがお店のセールで結構安かったはずよ。野菜とかは家の近所のスーパーのが微妙に安かった程度だけど、どうする?」


「うーん。私としては面倒だから、一軒で済ませたいって思ってるけど、凪姉と相談かなぁ……。今月の食費的に大丈夫と思う?」


「そうねぇ……。全然大丈夫だと思うわ〜。詩音梨ちゃんが毎月ちゃんと考えながら使ってくれるから、多少多めに使っても大丈夫わよ。お父さんとお母さんも多めに仕送りくれてるし」


「それなら今日もまた駅前のショッピングモールで大丈夫だね。あんまり遅くなっちゃうと心配するだろうから、そろそろ行こっか」


 私の言葉に頷くみんな。……少しだけ視線を感じた気がしたけど、怪しい感じではなかったので特には気にすることはなかった。



○●○



 ―詩音梨達が学校を出てショッピングモールへと向かってる頃。2人の女性が木の陰から微笑みながら出てきていた。


「詩音梨さんに気が付かれたと思います……」


「気にはしてなさそうだけどね。それよりも……」


「はい。凪桜さんと涼楓さん達のことは他のファンクラブの者に追わせております。まぁ、ご本人達が場所を話されてたので待機させてるみたいな感じにはなりますが……。もしかしたら急に変える可能性もあるので念の為。あと、とても楽しそうにしてるとの報告が」


「ふふっ。それなら良かったよ。引き続きよろしく」


「畏まりました。生徒会長」


 そう言い残して、その場を離れるボブカットの黒髪の女性。それを見た生徒会長と呼ばれていたロングヘアの金髪女性は微笑みながら……


「うん。期待してるよ、さん」


 そう言って生徒会室へと戻っていった。2人分の作業をみんなで終わらせるために。



___________________________________________________



【キャラ紹介5】



・陽川美佳:身長は149cmぐらいで、体重は本人いわく標準より少し軽いらしい。体型は本編でも帆華が言っていたように色々小さい。たぶん作中1番小さい。ちなみに幼女体型ってわけではない。本人も割と気にしている。髪型は水色のセミロング。誕生日は9月15日のおとめ座で、血液型はB型。一人称は幼少期が「ボク」で現在は「私」


 幼い頃に詩音梨に男の子と思われてたのがショックで中学生から伸ばし始めたとのこと。幼い頃は可愛らしい男の子と詩音梨に間違えられるほど活発で焼けていた。ちなみに美佳は美佳で、詩音梨のことは都会から来た年上のお姉ちゃんとずっと思っていたので、しお姉と言う呼び方が定着している。

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