第2話 卵と悪役令嬢、それと育成SLG

 郁哉は嘆いた。

 ドラゴンの卵と化した自分の進化は足元だけで停滞となっている。これだけでは戦えない。いくらドラゴンに転生したと言えど足先だけで勝てというのは無茶苦茶だ。


(けどこれなら逃げられる……!)


 ピュピュピュピューン!と情けないSEが鳴り出しそうなコミカルな動作で郁哉エッグは駆け出した。岩肌を飛び、ほぼ垂直の根を駆け上がる。


(すごい、すごいぞこの足は!)


 脚力はあるし大爪の鋭さは大樹の根だろうが岸壁の岩肌だろうが容赦なく食い込んでしがみつける。おまけにスタミナもあって卵であってもしっかりドラゴンだということを実感できた。


(はーっはっはっは!追ってこれるかトカゲ野郎!!)


 ほぼ垂直の壁を軽快に飛び跳ねながら後方にヤジを飛ばす。

 しかし、岩恐竜は全然平気そうな顔で後ろに張り付いてきていた。


(うえぇえぇぇなんでぇ!?)


 奴ら前足は短いが異様に発達した後ろ足に自信を持っているらしい。

 郁哉の卵に生えたペタリとした形状ではなく、ティラノサウルスの様に筋骨隆々の太い足。それらは驚異の跳躍力を見せては郁哉と同じように爪を食い込ませて根にしがみつく。そこから器用に頭部を振って壁面にかじりついては態勢を整えてまた跳躍を繰り返す。

 

 リズミカルで美しさすら垣間見えるその運動性能は本当に野生に備わった機能なのかと疑ってしまうほどだ。

 ただ、今は感心している場合ではない。崖を飛び越えた先に一足早く到着するもその猶予は非常に短かった。先に駆け出し、ドラゴンの伝説的な脚力をもってしてもやはりそのはカバーできない。一歩の大きさに不利を抱えていれば、すぐ頭上に奴の気配を感じるのも当然予測されたことだ。


(まずいまずいまずい!!次は!次はどうしたらいい!?)


 頭の中には奴から逃げる算段が思いつかない。かみ砕かれて喉を通り、胃酸のプールを泳いで排泄される。今度はこの森を見守る大樹にでも転生できればいいな。そんな現実逃避に拍車がかかる。

 焦りに押された思考がはじき出した答えはこうだった。。食われないほどの圧倒的な防御力。


(かみ砕けないくらいの強固な殻を────ッ!)


 再び頭の中で音が弾けた。軽快なファンファーレとこんな状況に不謹慎な程愉快なBGM。ほのかな光に包まれた外殻は見た目にこそその変化は現れなかったが、刹那その岩恐竜の大きなアギトに食いつかれた瞬間にその効果のほどは現れた。


 砕け散ったのは、岩恐竜の牙だった。

 

「グオァアァアアオオオオン!?」


(よ、よかった!間に合った!!)


 放り上げられ、この短時間で何回目かの中空を舞って地面に叩きつけられる。ゴンと強い衝撃に襲われるも卵の殻は無傷のまま。祈りの通り卵の外殻は非常に堅牢な、要塞みたいな強度を手に入れていた。

 助かった安堵と一泡吹かせてやった興奮から気をよくした郁哉エッグは調子に乗って岩恐竜に対峙する。

 奴は頭部を振って自身を襲った謎の痛みの正体を探して首を振っていた。

 

(次は攻撃的に進化していじめ返してやるぜ恐竜ちゃあん♪)


 しかし調子づく郁哉エッグがさらなる強靭な爪を願っても、勇猛な大翼を願っても、全てを灰燼に帰すブレスを吐ける頭部を願っても、あの音楽が頭に響くことはなく辺りはしんと静まり返った。


(え、あれ?どうした……?もう進化終わり?)


 焦り狼狽する郁哉エッグにその困惑を認めると、岩恐竜は再び大口を開けて吠えた。その目には先ほどにはなかった怒りの様相が伺える……。


「ゴォアオォオオォオアア!!」


(あ、まずい……。丸呑みとかされたらいくら何でも終わりだぞ……)


 じりじりとにじり寄る岩恐竜に第二の人生の終わりを想起する。早すぎだろ。

 しかしその絶望はすんでのところで食い止められた。背後から届く不意な少女の透き通ったその声に。


「お止めなさい、ガイアレックス────」


 岩恐竜の動きがピタリと止まる。それはまるで従順な犬の様に姿勢を正して静止した。その目から郁哉エッグへの怒りが消えていないことが伺えるが、その感情を押し殺して迄も従うという理性の高さ。

 あの機敏な動きを見たときに郁哉が抱いた感想は間違っていなかったのだ。


「恐ろしかったでしょう?ごめんなさいね」


 この岩恐竜は、声の少女に使役されているのだ。自身の身の丈の半分もないこの少女に。彼女は近づいて、郁哉エッグを抱き上げる。重いだろうにその表情は鋭い釣り目ながらも優しさに満ちていた。


「孵化不全かしら、とても堅牢で頑健な殻ね」


 郁哉エッグを抱き上げた少女の透き通るような、繊細な金の長髪が殻にかかる。表面を滑り落ち、サラリとした上等の絹糸並みの質感が外殻を通して郁哉の感覚に届けられた。


 目を疑った……。俺は、この少女のことを知っている。


「……じいや、わたくしこの子にいたしますわ」


「お嬢様!旦那様からはフロイライン家にふさわしい竜種を選び取れと……」


「なら問題ないでしょう。この子だって紛れもない竜種よ。ほら、足をみて?」


 この子は────。


「孵化不全のまがい物など、のお嬢様にはとても────」


「完全の中に完璧はありえない。真の完全とは……欠けた一部を追い求めるその先にあるものではなくて?」



 この子は────、俺がやりこんでた『初代バトモンファーム』の主人公に立ちふさがるライバル悪役令嬢────。

 ベルフェナ=フロイラインその人じゃないか────!

 


「貴方さえよければ、私とこない?」


 ベルフェナは長い髪を払い、郁哉エッグの瞳をまっすぐ見つめた。隙間からこぼれる光はまるで後光の様に彼女を眩く、神秘的に照らし出す。差し伸べられる彼女の手と凛としたそのたたずまいに、郁哉は息を飲んだ。


 俺が転生したこの世界、ひょっとして俺が育成ブリード……!?



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