タマゴ転生~やりこんだモンスター育成SLGに転生してライバル悪役令嬢を救いたい!ちょっと待って、俺がモンスターの卵なんですか!?~
惡滅姫メル2世
悪役令嬢、卵を拾う
第1話 卵と転生、それと孵化
非は俺の方にある、それは認める。はしゃぎすぎたんだよ年甲斐もなく。
むしろ俺を跳ね上げたトラックの兄ちゃん、ほんと悪いことをした。まじでごめん。ドライブレコーダー積んでたらそれで戦ってほしい、きっとにっこにこの俺が横から飛び出してきて怖かったろう。
宙に舞う身体が意識を手放すその寸前まで、俺は走馬灯ではなく自己反省に追われていた。
新発売のゲームを買って喜び勇んで駆けた休日の朝。近所のホビーショップは発売日の早朝だというのに空いていたからスムーズに品物を手に入れられた。今やオンライン販売もある時勢に並んでまでパッケージ版を買う奴なんてそうはいない。でも、俺は断然こっち派だ。
ただ、そのお楽しみの中身は今や中空に浮かぶガラクタとなっている。かろうじて読める『バトモンファーム2』の文字は薄れゆく意識と共に霞んで見えなくなった。
────新作、5年も待ったのに。
夜通しやる予定だったモンスター育成SLGに想いを馳せて、男は逝った。
◇
どういうわけか目が覚めた。
揺り籠みたいに気持ちよく揺れていた意識は暗闇からふっと引き上げられ、色彩豊かな大自然の懐にそっと置かれた。日光は柔らかく、布団は少し硬いが心地のよい温度で気を抜くとまた眠気に襲われてしまいそうになるほど優しい寝心地だ。
誰かが寝床を押しているのか、身体は一定の方向にくるくると揺らされていてそれがまた非常に気持ちがいい。あ、これ言うの二回目か?
寝ぼけた自分の意識にツッコムと少し目が覚めた。
(んぅ、天国って気持ちいいな……というか俺天国これたんだ……)
特に善行なんて積んでないのに、不思議だな。なんて思ってないで、自分の身体を押している感覚に目を向ける。天国だから天使が揺り籠でも押してくれているのかな、やさしい力加減はきっとそうに違いない────と。
振り返るとドラゴンがいた。見紛うことない、あのドラゴンだ。
牙の並ぶ顎、鱗に覆われた頑強な皮膚、巨大な翼を携えた空想上の最強生物。それが目の前にいた。夢かと思ったがどうもそうじゃないらしい。身体に届く鼻息がどうにもリアルで生暖かい。
(うわああああああああああああああ!?)
どうやらここはドラゴンの尻尾に巻かれた巣の様で、上顎の
(く、食われるぅ!?!)
とっさに飛び跳ねた身体は寝床を飛び越えて崖下へと落下した。
ドラゴンもそれに合わせて大きく羽ばたいた。強烈な風圧がもう一度郁哉の身体を打ち上げる。
あ、死ぬ。と思うほどの景色が眼前に広がった。
見晴らしの良い高所からは豊かな自然と、自分がこれから落下する険しい岩肌が一望できる。
そんな中、郁哉は自身の身体の不自由さに気が付いた。手足が動かず受け身が取れない。どころではなく手足が無いではないか。視点も低いし、声も出ていない。そんな状態で転がり落ちる現状をどうにかできるわけはなく、草で転がり、岩で跳ね、枝葉に弾かれてまた草に転がった。
幾度となく樹木の間をくぐり抜けたおかげか、追ってくるドラゴンの声は次第に小さくなって、落下の勢いが完全に落ち着くころには聞こえなくなっていた。
束の間の静寂が訪れる。
断崖の壁面をえぐり取ったような窪地は、その上にそびえる巨大な樹木の根によって掘られたものだ。そこにちょこんと佇んで、郁哉は理解した。
(俺、卵に転生してる……よな……?)
手足のない身体、揺れ動いてちょこっと跳ねるくらいしかできない不自由さ、いつまでも転がり続けたその形状。大きさは視点の高さと周囲の縮尺から見て大体80センチくらいか。なんてこった。
唯一の救いは、さっきの落下程度では割れなかった強度を持っていることくらい。 しかも状況を鑑みるに転生したのはドラゴンの卵。最強の生物は卵時代から頑強らしい。
(あれは襲ってきたんじゃなくて、助けに来てたのか)
だとすれば母ドラゴンには悪いことをした。
どうか俺のことは忘れて残った兄弟にその愛情を注いでやって欲しい。
しみじみと、母親になってくれたかもしれない竜に郁哉は謝罪した。
(しかし、これからどうするか……。意識もあって飛び跳ねるくらいには体を動かせるから……もうすぐ生まれる頃合いか?)
頭と卵の殻の中で状況を整理する。
ただ、のんびり考える暇を与えてくれるほどこの世界は甘くない。
しばらくすると全身の殻を震わせるほどの音を地面からキャッチした。それは地響きと共に大きくなっていく。
────────ズシン、ズシン。
もうはっきりと聞こえるレベルになったころ、数十メートル先の樹木の下に巨大な影が蠢いた。ドラゴンとはまた違った、岩の肌を持つ巨大な体躯の爬虫類。ティラノサウルスに似たシルエットは頭部の鋭利な剛角が際立ってより一層恐ろしく見える。
(……まずい)
動けないうえに、卵なんて栄養価の高い食材を見逃すほどきっとこの世界の生き物は甘くない。しかもドラゴンの卵だ、ずば抜けた高級食材に違いない。
だって見てみると良い、あの生物の涎。すごい量だ。
郁哉は身体を大きく揺する。
(動け動け動け!!!)
焦りに反して転がらない。さっきと違って、へこんだ地形にすっぽりと挟まって固定されている。モーニングセットのエッグスタンドかよ。
バカな一人漫才をしている間にも岩恐竜は絶望と共ににじり寄る。だから祈りを変えた。必死に必死に心で念じる。
(生まれろ生まれろ生まれろ!とりあえずアレから逃げられればそれでいいから!!)
その瞬間、頭の中で音が弾けた。軽快なリズムとファンファーレみたいな効果音。それと状況に不釣り合いな程楽しげな音楽まで聞こえてくるようだ。光がほとばしり、郁哉エッグ全体を包み込んでいく。
(なっ、力だ!力を感じる……!全身を駆け巡る熱い血潮の流れだ!活力の流れだ!生まれる……っ、俺の中の力が生まれるのか!?)
そして現実に意識を戻すと、卵の殻は吹き飛んでいた。鋭利な大爪に、脈打ち熱持つ表皮とそれを覆う頑強な鱗の堅殻。なんとも力強く、存在感のある雄々しいドラゴンの肉体がそこにはあった。
────ただし足元だけ。
(え……?)
見下ろすと、卵の殻を突き破った立派な脚がそこにある。脚だけがまさしくドラゴンのそれだった。
(ショボっ!!!!)
牧村郁哉は、思わず叫んだ。
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