第162話 想定と違うことが起きるとびっくりするよね

 ウギは結構臆病らしい。そんな大嘘与太話はさておき、スタンピードの話である。


 スタンピード、という言葉はもちろん翻訳インプラントによって翻訳されているわけであるが、概ね生物がパニックになって同じ方向に走り始める行動のことを指す。


 このファンタジー世界において惑星によってはモンスターがそういった行動を起こすことを指し、転じてこの宇宙においてはモンスターが大量に溢れ出ることを指す。


 原因は環境に寄るため、宇宙規模で話し合っても防ぐのは難しく、宇宙船を派遣して無軌道爆撃すりゃええやんで終わる。いやダメだろ止めろ。


 さて、とことこプライムのスタンピードの原因は不明である。時期だけがわかっているという広い宇宙の中でも対応には困らないけど何故かはわからないから困るパターンだ。


 発生するのは2mぐらいの大きいクラゲである。ふよふよ現れて触手で毒を注入してくることはあるが、家の中に籠っていればやり過ごすことが出来て、後片付けのほうが面倒くさい。そんなクラゲだ。


 大きいクラゲの利用用途は食用には一応なるが、基本的に魔石だけ取って海に投棄するか焼いて捨てるか、新鮮なら家畜の餌に、あって肥料にするぐらいだ。


 魔石1個で500プニぐらいになる。もちろんとことこプライムでは値崩れが起きるので別の星系に持っていきたいところ。でも恒常的に買ってくれるのもここらしい。


 魔石はその魔石に合った加工技術を持っているところじゃないと買ってくれないからな、高い技術を持っているのと加工出来るかはまた別の話。


 浄水や飲料水生成の魔道具になるから需要自体は結構あるはずなんだけどね。船サイズ用、ヒトサイズ用、どっちも出来るから本当に需要はある。


 さて、そうなるとスタンピードで稼ぐとなると俺達に出来ることはぶっ殺したクラゲからなるべく早く魔石を回収することだ。


 ただ、クラゲは海がある内側で大量発生する。


 サルベージドローン君はスラスターがあるから一応重力圏でも動くけど、状況によっちゃダルいことこの上ない。


 というか……。


「駐機場に小型戦闘艦ばかり入っている気がするな……」


 駐機しているケサディーヤテトラの上空には空力について自信を持っていそうな飛行機がいっぱい飛んでいる。


 はっきりいってケサディーヤテトラのようなくうりきとは?みたいな船及び戦闘機は見当たらない。むしろ戦闘艦よりも小さい戦闘機に該当しそうな物が多く飛んでいる。


「スタンピードは数を処理するとなるとあっちのほうが良いのでしょうね」

「そうだなー、ケサディーヤテトラで飛んでるとむしろ邪魔って言われそうというかフレンドリーファイアが怖いな」


 アイリスが紅茶と抹茶マドレーヌを持ってきてくれたので一旦コックピットでの調べものを中断することにした。


「抹茶マドレーヌとは珍しい…………?なんだこれ辛い、胡椒入ってる?」

「御当地フルーツ、スパイシーアボカドのマドレーヌでございます」

「すぱいしーあぼかど」


 アボカドってそもそも味あったっけ……わさび醤油で生食するのが一番美味しい以外に覚えていない。


「思ったよりは口に合わない感じでしょうか?」

「ちょっと想像していた味と違ってびっくりしたな、この手の粉物のお菓子で胡椒っぽいスパイシーさはあんまり食べたことなくてな」

「10点満点で言いますと?」

「7点ぐらいかなあ、みんなはどういう反応をしてた?」

「コーリィ様は駄目の範疇、サラーサ様はしっくりこない、スズリ様は美味しいのじゃ、ヴァシリーサ様はおかわりを要求、ルー様はいつも通りやみー、ノエミ様は美味しいですわ、イリナ様とアンナ様はうにゃんとしょんぼり、エボニー様はバクバクうまうましておられました」


 スパイシーさが見た目で深い渋みのある焼き菓子だと想定してた味をひっくり返してきたんだよね。


 紅茶で舌をリセットし、スパイシーなマドレーヌを楽しんでいる。舌鼓を打つほどではないが……ナッツっぽい風味がアボカド要素だろうか?


「それにしても、ウギの様子がちょっと気になるよな。危険を察知して脱走するのは珍しくないみたいだけどさ」

「高台に逃げてどうするのでしょうね?」

「もうそこは本能だからウギ達も説明がつかないんじゃないかな」


 ウギの集団逃亡はあくまでスタンピードの予兆らしく。とことこプライム傭兵ギルドのHPにおいて例年通りなら早くて5日後にはクラゲが発生すると警告している。


 他の連盟下部組織やとことこプライムの公的機関、民間のテレビなどが同じように報道を続けており、民間人に対して屋根の補強や窓の補強を促したり、公的な避難所の作成など色々やっているようだ。


 100年に1回のイベントだっていうのにきちんと出来てて凄いなぁ……。100年に1回あることが確定している災害だとしても地球だったら20年ぐらいしたら資料喪失してる気がする。


 俺が居た会社だったら、5年も経てば、あれ?あの資料どこだっけ?ってなっちゃうよね。人生500年のすごさを感じる。50年経ったらそんな無駄なことに力入れるなって話題になりそう。


「さて、スタンピードに関してちょっと時間が余ってるし、普通の狩りをするにはスタンピードの準備の邪魔になりそうだ、一度外側の造船所とか中古船売り場を見に直接移動しようと思うんだけど、どうかな」

「3DカタログやVRカタログではダメでしたか?」

「直接見てみたいんだよな、VRカタログは対応してるの少なすぎだし」


 造船所で作ってる奴はVRカタログあるんだけどねー、中古船はそういうの全然無い。


 とりあえずみんなに話してくるかぁ。


▽▽▽


 船が多いのでメガフロートにまた駐機出来るかわからない。それはそう。そういうわけで一晩寝て、起きてからは食品や衣服などの買い物三昧をして1日を過ごした。


 とことこプライムに到着してから3日目の朝。上空はもちろん周囲の駐機場に大量の戦闘艦や戦闘機が並び、コルベット以上の大きさの船は俺達ぐらいだ。


 メガフロートの町中はまるで祭りのようだったな。ヒトの数も増え、屋台も路上にかなり出ていた。


 コックピットの面々の中には名残惜しそうにしている者も居た、ルーとイリナとアンナはよだれが垂れてるような気がする。


 ケサディーヤテトラを飛び立たせ、重力のある中えっちらおっちらと進み外側へと進むマジックハイウェイの入口へたどり着く。


 閑散を通り越して誰も居ねえ。


「みんな入ってくるばかりで外に出るやつはいないのか」

「脱出を考えてるのは昨日出たのじゃないの?」

「クラゲにビビってるようなのは昨日逃げ出すに決まってるよね~」


 それもそうだな。


 海の中にぽっかりと開いた直径数kmにも及ぶ巨大な穴に近づくと機械的なアナウンスが飛んでくるので、自動操縦モードで光の板であるマジックハイウェイに乗せる。


 秒速10kmで移動を開始すると、皆コックピットからリビングへと移動し始めた。


「俺はここに居るから誰か残ってくれてもいいんだぞー」

「ごめんねボス、色々整理しなきゃいけないものがいっぱいあってさぁ」

「エボニーのファッションショーもそうだし、アルケミストクラフターに衣服のレシピ増やしたから今日はそっちを試したいのよ」

「しょーがないからいてあげるよ!」

「私もこちらにおりますので、皆様方はお楽しみくださいませ、排出まで20分です」


 手をひらひらと女性陣は振ってリビングに向かい、コックピットに残されたのは俺の膝の上によじよじと登るルーに後ろで待機しているアイリスだ。


「トルティーヤダブルのときはコーリィが結構一緒に待機してたんだけどなぁ」

「そうなんだ?」

「コーリィ様は皆様方との交流を重視し始めましたから、人数が増えて細かいトラブルが増えた~と仰っておりました」

「そっか~?」


 暇だし、モニターの一つを現地のテレビ番組に切り替えた。ニュース番組のようで、スタンピードについて報道している。


「<──こちら、新たに開発された精霊石音響測深機でスタンピードで発生するクラゲの位置と量を特定するとのことです。一昨日も使用しましたが、性能が段違いとのこと>」

「<今までどうして精霊石音響測深機というものが無かったのですかね?魔法の力に頼るなら精霊に頼るのは当然だと思うのですが>」

「<それは、手助けをしてもらう精霊によって魔石の種類、カット、研磨方法など相性が大きく違うのが問題でした。ですが、今回の音響測深機は魔石に頼ることをやめ、水の精霊が残した精霊石と呼ばれるものを使用しております>」


「そんなのあるのか、ルーは精霊石っての作れるのか?」

「んー?しらないけど?はじめてきいた!」

「おや、どういうことでしょう?」


 モニターには大きな船が映し出された。見た目は白いクルーザーって感じだろうか……。


 コーンという音がモニターから、外から、ケサディーヤテトラの中から響く。


 カーン!と甲高い音割れギリギリの音が返ってきた。外からだ。


 ケサディーヤテトラの自動操縦が途切れた、視界が真っ直ぐの筒の中から変化して、目の前に壁が見える。急いで操縦桿を取り、姿勢制御をして正面に穴が見える状態に戻す。


 黒板を引っ掻いたような雄叫びとも悲鳴とも取れる轟音が周囲に響いた。


 とことこプライムのアクアスフィアは内も外もこのチューブの中にも大気がたっぷり詰まっている。だがこれは……?


 光の板が周囲に見当たらない、マジックハイウェイはどうなった?


「<テレビをご覧の皆様、落ち着いてください。この反応は想定されたものです、慌てず、立ち上がらず、ゆっくりと──ドラゴンッ!?>」


 モニターに映し出されたクルーザーの周りには船よりデカいタツノオトシゴが何匹も現れていた。


 さらにこちらのコックピットの正面にも、大きな青く輝くタツノオトシゴが現れた。


「お前はどちらかと言えばシーホースだろうが……」


 その特徴的とも言える顔から突き出た吻から高圧洗浄機みたいな勢いで水をケサディーヤテトラに吹き付けてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る