第2話 生成AIとの出会い
翌朝、薄暗い倉庫に差し込む朝日が、パレットの隙間を照らしているなか、隼人はいつもより早く事務所に入った。
その光を背に、隼人はスマホを操作していた。
「昨日の続きをやってみるか……」
ChatGPTという今流行りの生成AIとの“初対面”は、意外なほどスムーズだった。
試しに打ち込んだのは、
《地元密着型の小さな運送会社が、食品業界に向けて営業するための提案資料のひな形》
という曖昧な一文。
数秒後、画面に現れたのは、
まるで営業マン歴10年の人間が作ったかのような文章だった。
■サービス概要:
翔運物流は、埼玉県内を中心に地域密着で展開する運送会社です。
生鮮食品や日配品の取扱いに強みがあり、徹底した時間管理と柔軟な対応力を武器に、安定した配送品質を提供しております。
「……すげぇ」
思わずつぶやいたその声に、自分でも驚いた。
たった一文を投げただけで、ここまで形にしてくれるとは。
しかも、言いたくても言葉にできなかった“強み”が、見事に整理されている。
今まで「誠実です」「頑張ってます」としか言えなかった隼人には、それだけで十分に衝撃だった。
——これなら、いけるかもしれない。
彼は早速、印刷してファイルに綴じ、父に見せてみることにした。
事務所の奥。
帳簿をめくっていた宏司が、息子の差し出した紙に目を通す。
眉間にシワを寄せ、ゆっくりと読み進める。
数十秒の沈黙。
隼人の胸が少しずつ締めつけられていく。
「……これ、お前が作ったのか?」
「いや、AIに手伝ってもらった。俺が考えた内容を、整理して文章にしてくれた」
「ふーん……。まあ、上手く書けてるじゃねぇか」
肯定とも否定ともとれない返事。
だが、続いた言葉が隼人の背中を押した。
「試しにそれ、あの食品会社に持ってってみろよ。こないだ、ウチの見積もり落ちたとこ」
「……いいのか?」
隼人の表情が、驚きに変わった。
「お前が言う通りだ。今のやり方じゃ、この先ジリ貧だ。口下手でも、やってみなきゃ始まらねぇよな」
父の背中を見て育った隼人にとって、
それは“はじめての営業許可”だった。
AIが作ってくれた提案書。
でも、その中身には、自分たちが積み重ねてきた誠実な仕事が詰まっていた。
隼人はファイルを抱えて、トラックに乗り込んだ。
エンジンの振動が、なぜか今朝は心地よく感じる。
行き先は、断られたあの会社。
でも今回は、何も持たずに行く自分じゃない。
スマホと、生成AIと、そして少しの勇気を持って。
(第3話へつづく)
🔽次回予告
第3話:初めての提案書
→ 提案書を手に、隼人は初めての飛び込み営業へ。言葉が詰まる瞬間、意外な反応が――
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