営業ゼロの運送屋が、AIで月商を倍にした話

アクティー

第1話 営業ゼロの会社

「また一件、断られたか……」

佐々木隼人は、溜息とともにスマホを机に置いた。


画面には既読のつかない営業メール。

返信どころか、開封すらされていない。


隼人は、埃の匂いが染み込んだ作業着のまま、事務所の椅子に深く腰を沈める。

壁には、父・宏司の字で書かれた貼り紙がある。

「誠実第一」

たしかに、それで仕事は取れていた。

ただ、時代は変わった。

“待ってるだけ”では通用しない時代になってしまった。


父が経営する「翔運物流」は、地元では知られた誠実な運送屋だ。

事故も遅延も少なく、荷主からの信頼は厚いが、ここ数年、売上はじりじりと下がっている。


「営業? うちはそういうの、やらないから」

父・宏司は頑固だった。

昭和の現場主義、コツコツ型の典型。

「いい仕事してりゃ、紹介でうちに声がかかるんだよ」

と言い続けてきた。


でも、現実は厳しい。

SNSもやっていない。

Webサイトも5年前から更新されていない。

競合はフットワーク軽く提案書を出し、新規顧客を次々に取っている。


「なんとかしなきゃ……でも、俺に営業なんてできんのか?」

配達の合間、休憩中、夜の伝票整理をしとている時、常に隼人の脳裏にずっとその問いがこびりついていた。


そんなある夜。

コンビニの駐車場で荷下ろしの待機中、何気なく目に止まった一本のYouTube動画が、彼の中の何かを小さく動かした。

《ChatGPTで、営業資料が5分で作れる!?》


「なに、これ…AI?」

タップすると、画面の中の講師が、にこやかに語りかけてきた。

「営業が苦手でも、大丈夫。あなたの言葉を、AIが“提案書”にしてくれます。」


どこかの誰かの言葉が、不思議と胸に刺さった。

“俺でも、できるかもしれない——”


その夜、隼人はスマホのメモ帳に、初めての言葉を書いた。

『翔運物流は、こういう配送が得意です』


いつもなら、指が止まる。

でも今は、隣に誰かがいるような気がした。

生成AIという、無口だけど頼れる“相棒”が。

(第2話へつづく)


🔽次回予告

第2話:生成AIとの出会い

→ 初めて提案資料を作った隼人。父に見せてみるが、思わぬ反応が……

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