第三章 嫉妬の魔王
第29話 村々街
俺たちが今歩いているのは、カイダノス公爵領へと続く道の途中にある森林だ。ここら辺はトワリから近いこともあって、スタンピードの影響をもろに受けているらしく、地面が剥げていたり木々が薙ぎ倒されていたりと、色々と荒々しい情景をしていた。
トワリについてからたった3日というのに、もう既にここまでの旅を懐かしく感じてしまうのは俺の感性がおかしいのだろうか。聞いてみたらヴェリタスの感想も同じだったので俺はおかしくないことが証明された。
途中ボロボロになって倒れていた馬車と、無残に食い荒らされたであろう死体を二つ見かけた以外は、特に問題はなかった。死体を見ても何も感じなくなってしまったのは、俺もこの世界に毒されているからなのだろうか……。
あ、そういえば龍を育成するの忘れてた。とりあえず適当に出しとこ。
森林は俺たちがいた大森林とは流石に比べ物にならないほど小さいので、精々一週間程度で抜けられるらしい。子爵領と公爵領は隣接しているらしいのだが、あまりにも規模が違いすぎるため森林を抜けてからも結構が時間かかる。ていうか子爵はあの街しか治めてないのか。なんか狭すぎじゃね? とか思ってたら、カイダノス公爵が邪魔して、すぐにでも貴族を止めるよう周囲の開拓の難しい森林を執拗に領地に推薦したらしい。
その結果、まともに人が住めるのがあそこだけになってしまったとか。昔はいくつも治めてる街があったってこと? それっていつの話よ? え、何代にもわたって子爵に嫌がらせしてる? そういえば受付嬢さんは昔はここまで強硬的じゃなかったって言ってたけど、それってこういうことかよ。普通に性格悪いじゃねぇか。
そんな話を繰り返しながら、一日、また一日と日々は過ぎていき、見事に一週間ジャストで森を抜けることができた。子爵領と公爵領は山脈を境目に分かれているので、ここはまだ子爵領ってことになるな。勿論こんなところに村があるわけないので、山脈超えて更にある程度歩かないと人と出会うことはないです。
当たり前だが人が普通に行き来するような場所に龍王のようなトンデモ存在は住んでいない。なので、この山脈は一般人でも通れる良心的な山ってことだ。出てくる魔物も全員雑魚なので、レベル上げには向かない。というか、最近レベルが上がりすぎたせいか全く強くなった気がしないんだよね。色欲の魔王を倒した時も。俺にとっちゃスキルの方が何倍何十倍も強いから、俺自身が強くなることはそこまで重要ではないんだが、それにしたってレベルの上昇と能力の向上が釣り合ってなさすぎる気がする。レベルって何なんだろ? それも、魔王の正体を追い求めるうちに知ることができるんだろうか。
ごくごく一般的な山脈を乗り越え、下った先に待つのは湿地帯だ。山脈を超えたのでここはカイダノス公爵領ということになるが、同じ国なのでもちろん検閲とかは存在しない。そもそもあんな場所に関所立てられないし。人件費どうするねんって話だしな。
この湿地帯はそこまで広いわけじゃなく、公爵領の一割も満たさない小さいものである。また公爵領自体が結構な広さなので様々な気候をその領内に含んでいるとか。そのため公爵領の中心であるラルトアーズには領中からたくさんの品物が集まり、それらは他国にすら重宝される代物なのだとか。魔道具が圧倒的に一番人気ではあるらしいんだけどね、それだけじゃないよって話。
そんな広大な公爵領に数日で着くことができるはずもなく、途中いくつか街を経由して行くつもりだ。幸い俺達は二人ともカードを保持しているのでどこに行っても信用される。ちなみにギルドは同じ国の中でならどこでも使えるらしい。他国だと新しく作らなきゃいけないけど。
そうして辿り着いたのは、湿地帯の中に佇む小さな村だった。浸水しないよう高くなっている床は「教科書で見た奴だ!」と思ったし、食べ物とかも独特ですごくおいしかった(とヴェリタスが言っていた)。
恩返し代わりに周囲の魔物を俺が倒しまくっていたら、村中の人から「しばらく泊っていってください。あ、これお礼の品です」と言われて大量に食料をもらってしまった。好意を無下にすることもできず、飲食ができない自分を心の底から恨んだ。マジでいい人たちだったのに……。
二日ほど滞在しながらこれまた宴会を楽しんでワイワイはしゃいだ後、いつまでもお辞儀し続ける村人たちに手を振って俺達は分かれた。
そのまま歩き続けること4日、俺達は湿地帯を越えて荒原へと辿り着いた。この近辺ではあまり背丈の高い草木は生えず、雑草のような植物が点々としている感じだ。地球で言うところのサバンナみたいな感じ。
キリンとかゾウとかいるんかなーとか思ってたけど、三つ首のあるド派手な色したキリンもどきやら角が生えており風の太刀で地面を捲りあげながら走るシマウマを切り裂いていたのを見て、観光を楽しむのは諦めた。湿地帯の方はたまに木を薙ぎ倒すような奴がいるってくらいだったのに、こっちじゃ地形破壊はデフォルトらしい。やっぱサバンナ怖いわ、前世で近づかなくてよかった~。
ここら辺に人住んでないのかなーとか思っていたら、遊牧民っぽい人たちを見かけた。「ヒツジとか連れてる?」なんて思って近づこうとして、かつてダンジョンで戦ったナイトシープとナイトゴートを平気で持ち上げたり笛を鳴らしたりして完全に操っているのを見て、俺は話しかけるのを諦めた。どうやらサバンナは、魔物だけじゃなく人間すらも強靭に作り変えてしまうらしい。サバンナ、恐ろしや。
荒原は思っていた以上に長くて、なんだかんだで2週間も掛かってしまった。これだけで子爵領横断できそうな気もするが、まだまだ公爵領のほんの一部分しか俺達は歩いていない。ってかここら辺人いないしまだまだ僻地と言われる所だね。もう少し歩かないとチラホラ村を見かけるだけの旅になりそう。
荒原を抜けた先にあるのは広大な草原で、子爵領があった場所よりもずっと平原が続いている。教科書で平原には人が住みやすいって聞いたような聞いてないような気がするし、きっと平原だからこそ公爵領は発展できたのだろう。いや魔道具か?
でも魔道具って人間が開発したものだし……てか魔道具って誰が生み出したんだ?
魔法を作り出したのは? やべぇ、この世界謎多すぎてそういうものだと納得しないとすぐ頭がこんがらがっちまう。
草原の中でまず最初に立ち寄ったのは少し大きめの街だった。いままでの村はギルドなどは無かったが友好的で、こちらはギルドがある代わりに身分が保証されないものにはちょっと厳しい。勿論俺達は余裕で通れる。というか門番の人に「Aランク!?」とガチトーンで驚かれた。フッ、そうだろうそうだろう! こちとら魔王討伐した男だからなぁ! それくらい崇められて当然だ!
ちなみに、「え、いきなりAランクとかあり得なくない? 普通貢献度とかあるでしょ?」と思ったそこの君! 実は、ギルドには「ギルドマスターが全責任を持つことで一人だけAランクを輩出できる」制度があり、その制度で俺をAランクにしてもらったのだ。
本来ならこんなの誰も使わない制度ではあるのだが、心優しい受付嬢さんが「Aランクにしておきましたよ」と言ってカードを渡してくれたので本当に有難い。ボソッと「勝手にヤッタダケナンデスケドネ」と言っていた気がするが俺の気のせいだろう。あんな心優しい受付嬢さんがそんなことするはずがない!!
幸い俺の所持金は今や数年……いやスケルトンである俺からすれば数十年は暮らせるほどに余裕がある。なので、俺達が働く必要性はない。目的地が元々決まっていたこともあり、街には三日ほど滞在して観光をし終わったらそのまま出発した。
そうして、更に何日も掛けて歩き続け、実に一か月以上の月日を費やしながら唯ひたすらに全身を続け……俺達は、カイダノス公爵領が中心、現カイダノス公爵であるノーブルが住む領の中心、ラルトアーズへと辿り着いたのであった。
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