第28話 旅立ち②

あの後、事情説明が大変だった。


見事に色欲の魔王を倒して見せた俺は、そのままトワリへと帰還した。やけに反応が良く「黒騎士様万歳!!」と叫んでくる冒険者達を掻い潜り、なんとか逃げ延びたと思ったら、今度は衛兵が俺を見つけてそのまま「脱走だ!」と言って捕まえてきた。


その後、「黒騎士様は戦ってたのにお前らは何してたんだ!」と冒険者達と衛兵達で言い合いになり、最終的に衛兵達が武器を持ち出して乱闘騒ぎにまで発展してしまった。


俺も冤罪で捕まっているので、ひたすらに「俺は無罪だ」と主張し続けたのだが、相手方は一向に話を聞いてくれず。その後、何故か唐突に現れたヴェリタスが事件の首謀者が別にいることを証拠と共に訴え、見事に俺が釈放され……ることはなく、今度は俺の力とか存在とかを根掘り葉掘り聞かれる羽目になった。


これまた冒険者達が「街の恩人に何するんだ!」と憤ってそのまま言い争いに。流石に分が悪いと感じたのか衛兵達も身を引いたのだが、何か企んでいそうで怖い。とりあえず今は戦勝祝いの宴に参加しているところだ。


「いやー黒騎士様のあの雄姿と言ったら! 大変素晴らしいものでありましたなぁ! 私も戦いに身を置いて数十年たちますが、あれだけの力と希望を与える姿は見たことがありません! おっと!黒騎士様、あまり食が進んでいませんよ? もっとガンガン行きましょう!」


現在進行形で酔っ払っており、絶え間なく俺に話しかけてくる大男は、名をガインと言うらしい。彼はこの街で最も長く冒険者をしており、スタンピードに対して的確に指示を出して奮闘していたのは彼だ。他の者たちからも大いに信頼を寄せられているようで、人のいい人物のようだ。


ただ、酒やら食事やらを勧めてくるのは止めてほしい。俺飲食できないんだ。リビングアーマーの呪いで中身がどうなっているかはわかんないけど、多分そのまま出てきちゃうから。ごめんね。


「この活躍が伝われば、間違いなく冒険者ギルドからAランク……いやSランクすら戴けるでしょう! この街からSランクが誕生とは、いや実に目出度い! お前ら、黒騎士様を称えて、かんぱーーーい!!」


「「「「「「かんぱーーーい!!」」」」」」


「か、乾杯……?」


注がれた木でできたジョッキをもって、俺は皆とジョッキを合わせながら合図をした。そういえば、俺って高校生だから酒飲めないんだよなぁ……この世界では15歳で成人らしいから大丈夫らしいけど。


少しだけこの体で飲んでみたら何が起こるのか、好奇心が沸いた。俺はその好奇心に従うまま口に酒を近付け……


(まあ、やっぱり無理だよな)


小さくピチャンと水と金蔵がぶつかる音が響いたのを聞いて、俺はやはり飲食ができないんだということを悟った。いくら見た目を人間寄りに誤魔化せたとしても、中身はそうそう変わるものでもない。


(人間、か……)


嫉妬の能力を用いれば、俺はおそらく人間にもなれる。というか、嫉妬をフルに活用すれば様々な面で有利に事が動くはずだ。でも、やっぱり俺はそんなことをする気にはなれなかった。俺は俺、その信条を曲げる気は毛頭ない。


ジョッキを机に置き、立ち上がる。できるだけ気配を消して、俺は誰にも気づかれないよう静かにその場を後にしたのだった。


☆☆☆


次の日。


俺が冒険者ギルドに赴くと、いきなりギルドにいた冒険者達全員から詰め寄られた。原因は案の定知らぬ間に宴会を抜け出していたことで、もっと飲み明かしたかったのにと泣く泣く怒られた。ごめんよ、俺はお酒が飲めないんだ……!!


その後、冒険者達が落ち着きそれぞれの仕事に戻ったことを確認して、受付嬢の方から俺へと歩み寄ってきた。場長の過去を教えてくれた人である。そして、俺の世相が正しければ、きっとこの人は……。


「本当にありがとうございます、黒騎士様。あなたのおかげで、この街は救われました」


そのまま彼女は「ここではなんですので奥の方でお話しませんか?」と続けた。俺はそれを了承し、接待室と呼ばれる部屋で彼女と向き合った。


そして、彼女はこの事件の顛末を語った。


かつてこの街を襲ったスパイ事件及びヘルモート少年の誘拐事件。これらの裏で糸を引いていたのは、カイダノス公爵という人物らしい。公爵は欲深い人物として有名で、現王を退けて自分が国王になろうと本気で画策している人物らしい。そんな人物貴族にしておくなよと思ったが、それには訳があるのだ。それはズバリ、ことだ。


公爵は数百年前から時代を先取りしたかのような魔道具をいくつも世に広げており、その影響力は絶大だ。しかも、積極的に孤児院に寄付などもしており、民衆からの指示も少なからず存在するのだとか。まあ結局は貴族なので普通に不敬罪で平民を殺してるらしいけど。


ここで問題になってくるのが、公爵は高い技術力を持っているということだ。どれだけ技術を発展させようとも原材料は必要になるわけで、都市として発展し採掘場など作るスペースがない公爵領にとって、その原材料の確保は絶対的に必要なものだった。そのコストは果てしなく、技術の発展と共に必要な量もどんどん増え、削減できるコストをはるかに上回ってしまったらしい。


そして、遂に公爵は禁断の手に手を染めた。ズバリ、他領からの強奪である。


今まではそこまで強硬策に出ることはなかったようなのだが、現公爵に代替わりをした時から公爵の態度が明らかに大きくなったらしい。噂では、他の帝国貴族を侮蔑する発言もしているとか。そんなこんなで他者を見下すヤベー奴が当主になってしまった結果、ハルモート子爵の様な被害者が大陸中で続出しているらしい。その有り余る魔鉱石をどうやって活用するかは知らないが……と続けて、受付嬢さんは話を終えた。


お礼を言いつつ、俺はその場を後にする。俺はまだまだ人生経験が浅くて、謀略なんてものが分かるとはお世辞にも言えないが、それでも言えることがある。

。公爵を追いかけることが俺の目標なんだと、直感がそう伝えていた。


故に、冒険者ギルドを出るときに慌てて受付嬢さんが持ってきたAランクと書かれた冒険者カードを見つめて、俺は決めた。


「次の行先は、カイダノス公爵領だ___!」


☆☆☆


残ってくれと嘆願する冒険者達や黒騎士様と、拝んできそうな勢いで褒めたたえてくる住民をなんとか宥め、俺達はトワリの街を出発した。あらかじめカイダノス公爵領の方角は聞いておいたので、その方角へのんびりと進んでいくだけだ。馬車を用意するとも言われたが、流石に申し訳ないので遠慮しておいた。そもそも必要ないしな。


門から外に出て、草原の真ん中にある整備された街道を歩いていると、「少し話を聞いてくれないか」とヴェリタスが立ち止まった。俺はコクリと頷いてそのまま立ち止まる。


「これから行くカイダノス公爵領は、ひどく残忍で、狡猾で、救いようのない場所だ。それでも、君は………タケルは、真実が知りたいのかい?」


「ヴェリタス……」


それは、俺が知らない魔王の真実を、そしてこの世界の真実を、ヴェリタス自身が知っていることの証明だった。いや、もはやその関係者なのかもしれない。邪神などという存在に脅かされたからこそ、彼女が魔王という存在に関わり持っていたとしてもおかしくはない。そして、ヴェリタスが俺を利用していたかもしれないとか、そんな事実を認めたうえで、俺は答えた。


「当たり前だろ? 俺は別に、何かに恨みがあるわけでも、因縁があるわけでもない。でも、知りたいんだ。ただただ、この世界を楽しみたい。折角の人生なんだ、楽しまなくちゃ損だろ?」


「……っ!!」


ヴェリタスははっとした表情をして驚き、その後フッと笑って「人間みたいなことを言うんだね」と続けた。なんとなく、これが彼女の本当の笑顔なんだろうと、そう思った。


「だからって、一人がいいってわけでもないからな? 俺はお前と、ヴェリタスと一緒に旅がしたい。この世界は、一人で楽しむには勿体ない!」


「一緒に、か……」


ヴェリタスは少し俯いて、顔に影を落とした。おそらく、一緒という単語に何か思うところがあるんだろう。もしかしたら、故郷のことを思い出しているのかもしれないな。


「ああ、一緒にだ」


「………ありがとう」


ヴェリタスは一言俺に感謝を告げると、訥々と語り始めた。


「本当はね、私もすべてを知っているわけじゃないんだ。むしろ逆、私はどこまでも利用された側で、物事を操れる側じゃない……だから、タケル。一緒に知っていこう。この世界の真実と……私たちが生まれた理由を」


「………ああ」


2人が踏み出した足は今までで一番力強く、また空の蒼穹は今までで一番美しかった。








種族:嫉妬の魔王/色欲の魔王(自壊する骨の王デストラクション・スカル・ロード)Lv.1190

スキル:『絶対意志』『嫉妬』『悪を食みし貪食龍』『断罪の王』『自壊超爆発』『貪り食らう蒼穹の龍王ディヴォル・ファフニール』『骨王の貪屍龍ディヴォル・スカル・ドラゴン』『色欲』『決意相乗』

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