第10話 vsシャドウリーパー

第十階層のボス部屋へ足を踏み入れる。


第五階層と同じ様に、ひとりでに扉が閉じるとともに、辺りの燭台に炎がともっていく。その炎が円を描き切った時、その中央に鎮座する奴が動き始めた。


「________!!!!」


ヤツは全身にローブをかぶっており、中身は真っ暗闇で何も見えない。手には巨大な鎌を持っており、その様はまるで死神のようだと俺は感じた。人間には理解できない高音の金切り声を上げたやつは、その手に持つ大きな鎌を俺に向けて振り下ろす。振り下ろした鎌からは黒い波動のようなものが迸り、俺目掛けて凄まじい速さで飛んできた。


横に飛び跳ねて波動を回避するが、ヤツはクールタイム無しで波動を撃てるらしく、次々と波動が飛んでくる。それを避け続け、波動の攻撃に慣れ始めてきた……そう思っと瞬間。


「___!!」


目の前にあった波動に隠れて、気付けば俺の目の前にヤツが立っていた。波動に気を取られて接近する奴にかが付かなかったのだ。俺はそのまま直接鎌によって切り裂かれ、死亡した。


『存在転位』


(うぉぉぉぉ!!!)


復活した瞬間に、ヤツに飛び掛かって『自壊の模倣者ブロークン・イミテイター』を発動する。ヤツは死んだと思っていた俺がすぐに動き出したことに面食らったのか、もろに爆発のダメージを受けた。


(ど、どうだ……?)


二度目の復活を果たした俺は、もうもうと立ち込める煙の中ヤツが死んでいることを望んだ。しかし。


「_____!!」


金切り声が聞こえたと気づいた瞬間には、もう俺は切り裂かれていた。遠くなる意識の中見たやつの姿は……何も変わっていなかった。


『存在転位』


(それがどうしたぁぁぁぁ!!!!!)


俺の歩む道が険しいものなんて言うことはわかりきってる。この程度の理不尽で折れるほど、俺は弱い気持ちで運命にあらがおうとしてるわけじゃない。


何度も何度も、隙を見つけて自爆する。既に40回分ぐらいは攻撃を喰らっているはずなのに、ヤツの姿は全く傷ついた様子を見せず、その攻撃の勢いもまた陰ることがなかった。


(何か……何かないのか……!?あいつに……ダメージを与える方法は……!!)


敵の攻撃を搔い潜りながら、ヤツの動きをよく観察する。

ヤツの動き方……攻撃の仕方……戦闘技術……。


幸い、俺には命が山ほどあるんだ。ストックを無駄にしないためにも、情報を整理していくことは必要だろう。


必死に頭を働かせ、いくつか検証する案を見つけ出す。大丈夫、チャンスは自分でいくらでも作れるんだ、怖気づかなければいつかは勝てる!



案一つ目、背後からの爆発。


今までは正面から突っ込んで爆発しかしていなかった。うまく背後に回って爆発すれば、もしかしたら敵の弱点の暴けるかもしれない。


ヤツの波動を掻い潜り、正面で爆発!


そして『存在転位』で復活したら、すぐさま走り出してヤツの背後へと移動する。そしてそのまま抱き着き、自爆する。


結果、今までと同じように無傷のままなんのダメージも与えられなかった。


次だ次!


案二つ目、自分の攻撃を当てる。


ヤツが無限に繰り出してくる波動攻撃、こいつをヤツにぶつけられれば、ダメージを与えることができるかもしれない。一つ目と比べて難易度が相当高めだが、やれることはすべて試さないといけないからな。


試しに、飛んでくる波動を掴み取ってみる。イメージは真剣白刃取りのような感じだ。もちろん、当たれば当たるほど触れている手は削れていくし、その最中も攻撃は次々と飛んでくる。だから、あとは気合で_______


(うぉぉぉぉぉぉ!!!)


なんとか押しとどめた波動を、ヤツ目掛けて投げ飛ばす。飛ぶ方向を捻じ曲げられた波動は、真っ直ぐヤツのもとへと飛んでいき………そして、あっけなくその鎌によって打ち消された。


(クソッ!これもだめか!)


だが、まだまだ諦めるには早すぎる。俺の頭には、まだいくつか案がある。それらを試しきるまで……いや、俺の命全てが終わるまで、俺は絶対に歩みを止めない。


三つ目の案、武器の破壊。ヤツの身長は、俺の何倍もある。そのため、今まで爆発するときはヤツの足元で爆発していた。だが、よくよく考えてみれば、ヤツの上半身や武器にはダメージが通っていない可能性があることに気が付いた。なんとかヤツの上半身や武器に近づいて、爆発する。それが次の案だ。


波動を避けて、避けて、避け続けて……なんとかヤツの懐に潜り込む。俺がヤツの動きに慣れ始めているように、ヤツもまた俺の動きに慣れ始めている。あまり時間をかけすぎると、決定打が無くなるかもしれない。だから、試せることは全力で、最速で、試していかなければならない。


ヤツの足元から跳躍し、ヤツの目線(顔が見えないため推定の位置)と目を合わせ、その場で爆発する。そして、その瞬間______希望が見えた。


(こ、これは……!?)


なんと、ヤツが爆発の瞬間飛び退いたのだ。ヤツは、自分の体に爆発が当たらないように………いや、、鎌を守るようにしてこちらを見つめている。


(見つけたぞ……ヤツの攻略法……!!)


あいつの弱点は、鎌だ。そこにどうにかしてダメージを与え続けられれば……まだ勝機はある。


全力で駆け出し、ヤツを追いかける。どうやら俺が鎌にダメージを与えようとしているのを恐れているのか、先ほどまでの波動攻撃の隙をついて襲い掛かってくるパターンを止め、波動攻撃で距離を取りながらひたすら粘る戦法に切り替えたみたいだ。


そして、それはまだ俺の想定内だ。


(ハァッ!!!)


跳んできた波動攻撃を受け止め、ヤツの方へ放り投げる。当然だが、ヤツはそれを反射的に打ち消すのだ。そして、それがヤツにとっての敗北の決定打となった。


(よう、死ぬ準備はできたか?)


波動攻撃による隙をついて攻撃、まさしくヤツがずっと行ってきた戦法だ。まさか、自分の戦い方が敵に塩を送っていたとは思いもよるまい。


ヤツはそのことに気が付いたのか、急いで離脱しようとするが………


(おせぇよ)


俺は飛んだ勢いそのままに鎌に体当たりをかまし、自分から真っ二つに引き裂かれる。そして、『存在転位』によって復活した、その瞬間_____


________武器に向かって、全威力を収束させて自爆した。


「ッッッ______!!!!!!」


ヤツの断末魔のような金切り声が聞こえる。どうやら鎌の方がヤツの本体だったようで、鎌が壊れて地に落ちると同時に、ローブもチリとなって消えていった。


もしかして鎌がまた動き始めるんじゃないかと思い、何回か自爆を追加しておいた。その結果、鎌は完全に焼失し、第十階層に残されたのは俺一人だけになった。


(か、か……った……)


酷く、ギリギリな戦いであった。自爆によって消費した魂の数は数百にも及び、俺の体は悲鳴を上げている。今すぐにでも、気を失って倒れこんでしまいそうだ。だが、まだ倒れるわけにはいかない。せめて、階段か休憩所のような場所に移動しなければ………


そう思う心とは別に、体は言うことを聞いてくれない。必死にもがきながらも俺は地面に倒れこみ、そのまま、意識を手放してしまったのだった。

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