第9話 ダンジョン②

新スキル『自壊の模倣者ブロークン・イミテイター』を一通り確認した後、俺は第六階層の探索を開始した。


「ブモォ……」


今俺の目の前にいるのは、豚をヒト型にして武装させたような姿をしている、異世界物の定番オークだ。ラノベとかだとゴブリンキングとかで苦戦した後雑魚敵として扱われがちだよね。モチーフが豚のせいだからなのか食料としか見られてないよなぁ。


まあダンジョンの中じゃ死体はすぐ消えちゃうし、食料として扱うことはできない。そもそも俺消化できないし。


キマイラとの戦いで先手必勝が俺の最適解であると気づいたので、雑魚的だろうと容赦なく全力パンチをお見舞いする。


すると、オークは来ている鎧をへこませながらくの字に曲がって吹き飛んでいった。近づいて確認してみると、ぐちゃぐちゃにはなっておらず、まだ息の根があったので、頭を踏みつぶして倒す。キマイラ戦で相当レベルが上がったのだが、明らかに敵の強さが上がってきてることを感じるな。ただ、キマイラと比べると文字通り天と地ほどの差がある。この程度なら何体来ても楽勝だな。


オークは人型で、更に武装をしている。ゴブリンも棍棒を持ってはいたが、技術なんて言うものはなく、吸収してもほとんど実感はわかなかった。しかし、明らかに鎧ち槍を装備しているオークからは、なんとなく体の動かし方なども吸収することができるのだ。


連続で自爆するのは正直いやなんだが、『自壊の模倣者ブロークン・イミテイター』にスキルが進化してから自爆で消費する精神力が減少した。多分、今の俺なら数十回は連続で使用できると思う。オークの魂を3つ連続で使いながら休憩を繰り返していけば、俺の戦闘力は結構上がるはずだ。


そんなこんなでひたすらにオークを狩り続け、遂にオークの姿を全く見かけなくなったところで狩りを引き上げた。


ステータスを確認すると、レベルが185になっていた。ストックはすべて使い尽くしていたので変わっていない。その代わり、第六階層での戦闘だけで数年修業したかのような技術力の向上ができた。この後の階層でも参考にできそうな魔物がいっぱいいるといいなぁ。


階段を進み、第七階層へと進んでいく。


第七階層には、角の生えた真っ黒なウサギがひしめいていた。その特徴はなんといってもデカさと数。


森で見たウサギとは比べ物にならないほどの大きさを誇りながら、なんと通路を埋め尽くす勢いでウサギたちが動き回っているのだ。階段から降りた瞬間、一斉に俺に飛び掛かられたらちょっとめんどくさいかも。技術の吸収もできないし。


この階層は突っ切るしかないかな、囲まれたらうまく切り抜けられる地震が無いし……戦闘に夢中になって方向感覚が狂う可能性がある。今までも行き当たりばったりな感じで進んできたが、こいつは適当に進んでるとすぐに行き詰りそうだ。


適度に自爆を併用しながら、全速力でダンジョンを攻略していく。どこまで行ってもウサギの数が変わらないし無限に襲い掛かってくるので、軽いノイローゼにでもなりそうな気分である。


目の前に第八階層への階段が見えたとき、大喜びして飛び込んでしまったよ。あそこまで次に進めるのが嬉しい瞬間は前世でも今世でも初だと思う。


ステータスを確認すると、レベルは一気に216まで上がっていた。ストックはないとホーンラビット:2894と表示されている。一瞬俺の見間違いかと思ったよ、ほんとに怖いな第七階層。正直なところもう二度と行きたくない。どれだけ倒しても終わりが見えないのヤバいってホント……。


次の第八階層で現れたのは、真っ黒な蛙だった。こいつらも第七階層と全く同じ様子で、異常な数の蛙が通路を埋め尽くしている。一瞬絶望しかけてしまったが、何とか持ち直した俺は、第七階層と同じく自爆を使いまくりながら駆け抜ける。


この蛙の厄介なところは、近くの蛙は飛びついてきて、遠くの蛙は舌を伸ばして遠距離攻撃という連携をとってくるところだ。


そのうえ何故かフレンドリーファイアを全く起こさないので、数が増えれば増えるだけどんどんこちらが不利になっていくという危機的状況。


もうほんとに俺の人生でここまで全力出したことないんじゃないかというほどに全力を出し、なんとか第九階層への階段を見つける。そこへ飛び込むように入り込み、ふぅとひと息をつく。


(第七階層もそうだったけど数があまりにも多すぎる……せめて気軽に使える範囲攻撃が欲しいなぁ)


無いものねだりをしてもしょうがないか。

休憩代わりにステータスを確認してみる。


レベルは253。ストックにはナイトフロッグ:2765と表示されている。バグかよ。


おいおい知ってるか?俺二つの階層だけで5千匹以上の魔物狩ったんだぜ?俺が人間だったら最初の数匹でもう死んでるレベルの魔物を、5千だぞ?頭おかしいって。


それに、次の階層はおそらくボス戦だ。


雑魚戦でもこんなに苦労してんのに、キマイラよりも強いボスが現れたら俺勝てるかどうか怪しいんだけど……。


第十階層に降りてみると、第五階層と同じような大広間が広がっていた。個人的には、10の倍数でダンジョンの階層は構成されてると思ってる。実際何階層あるのかはわからないが、ボス戦をクリアしたらダンジョンから脱出できるようになる、って感じだと思うから、この階層でダンジョン制覇はありえなくない。


まあ、キマイラよりも強いであろう敵に俺が勝てるのかどうかは問題なのだが……。


例えばだが、敵が物理耐性と爆破耐性を持っていた場合、その時点で俺は詰む。膨大な数のストックが減らされていくのを見ながら、絶望したまま死ぬことになるだろう。そしてそれは、ダンジョンという場所に潜っている以上いつ起こってもおかしくない可能性だ。


今の俺のレベルは253である。勝手な俺の推測ではあるが、この数字はこの世界でも相当上位に位置するものだと思う。英雄クラスにはかなわないかもしれないが、その次くらい____名づけるなら、準英雄クラスの力は持っていると思う。この力を持ったうえで、人里離れてスローライフを送ろうとすれば、ある程度は送ることができると思う。


いつか人間に見つかって英雄を呼ばれるまで、ある程度の幸せを享受できるはずだ。


(でも、それだけで俺は満足なのか?)


ダンジョンに潜っている間、ずっと考えてきた。俺が、命を懸けてレベルを上げようとする理由。生きる理由が非常に乏しい現状の中、必死にあがこうとする理由。それはおそらく、俺がまだ諦らめていないからだ。


(そうだ、諦める必要なんかない。俺の意志関係なく連れてこられたのに、わざわざ運命ってやつに乗ってやる必要があるのかよ?)


理不尽に殺されたくないだけ、それでいいじゃないか。俺は生きたいんだ。その先に待っているのが破滅や不幸だとしても、俺はまだここにいる。なら、歩き続ける理由はそれでいい。それだけで、いいんだ。


(だから俺は、全力で強くなる。この命を懸けて)


そうしないと、きっと俺は英雄には届かないから。今の俺程度じゃ、運命には逆らえないから。


だから______


(俺の糧になれ、ダンジョン)


静かに決意をともしながら、俺は第十階層の扉を開いた。

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