ハレオト♪ 第2話 気になる・・・

……気になる。


カタカタカタ……部屋にパソコンのキーボードを打つ音が静かに響いている。


まほは机に向かい、ノートパソコンを広げていた。


お母さんから名前の由来を聞いてから、まほは少しだけギターのことが気になり始めていた。机に向かい、パソコンでギターを調べてみては、何故かわからないけどため息が出た。そんなことを繰り返していた。


パソコンでギターを検索するまほ


その日も、まほはパソコンで「レスポール」を検索していた。


「あ、これかわいいかも」


「レスポールスペシャル? この黄色、かわいいじゃん!」


(ボディ材、マホガニー……)


 初心者ではなかなかそこまで気にする人もいないだろうギターの材質を気にするまほ。


(でもダジャレだもんなぁ……)しかも高っ! ……はぁ。


……と、そのとき。


ガチャッ!


「まほー、クッキー焼いたけど食べる〜?」


部屋のドアが開いて、お母さんが入ってくる。


「ちょ、ちょっとー! 部屋入るときはノックくらいしてよね!」


お決まりのセリフを言いながら、まほはノートパソコンをパタンと閉じた。


「え〜? まほちゃん、パソコンで何見てたの?」


まほの背後から、パソコンの画面をのぞき込むお母さん。


「なんでもないよ〜、クッキー食べる! 行こ行こ!」


そう言って、お母さんの背中を押し、部屋の外へ連れ出そうとする。


「ははーん、まほちゃんも年頃だもんね〜。エッチなページでも見てたんじゃないの〜?」


と、少し意地悪そうな顔で、まほに言った。


「ち、ち、ち、ちがうよ〜! そんなの見てないし!」


まほは顔を赤らめて、ぷくっとほっぺをふくらませた。


「え〜? じゃあいいじゃん! 何見てたか教えてよ〜」


「も〜〜っ!」


迷惑そうな顔をしながらも、変な誤解を生むのはイヤで、渋々パソコンを広げた。


「おっ、ギター? ついに始める気になったの〜?」


お母さんは、なんだか少し嬉しそうにまほを見つめた。


「なってない! ……けど、ちょっと気になっちゃって……名前の由来だし……」


「あはは、気にしてるの? そんなに気にしなくていいのに〜」


「まほちゃんの名前は、“まっすぐに帆を立てて進んでいけるように”、まほが思った方向に、自分で舵を取って進んでいけるようにってつけたんだから」


「それは本当よ」


と、諭すように話すお母さんに、まほは尋ねた。


「……カニは?」


「…………」


お母さんのおでこに、じわりと汗がにじむ。


「さ、さ! クッキー食べましょっか〜!」


そう言って、お母さんはそそくさと部屋を出ようとする。


「ちょっとー! カニはどうしたのー?」


まほは少し怒ったように、慌てて問い詰めた。


「はやくー! お茶が冷めちゃうわよ〜!」


お母さんは足早にリビングを抜けていった。


「カニー!!」


まほも追いかけて部屋を飛び出す。


リビングには、焼きたてのクッキーと温かい紅茶がティーポットに入れて置かれていた。


「まあまあ、座ってクッキー食べましょ〜」


そう言って、お母さんはソファに腰を下ろした。


「あっ、ナッツの入ったクッキーだ!」


さっきまで不機嫌そうだったまほの顔がぱっと明るくなり、スライスアーモンド入りのクッキーをひとつ口に入れた。


こんがり焼き色のついたクッキーには、香ばしいスライスアーモンドが散りばめられている。ひとくち食べると、バターの香りとナッツの風味がふわっと広がり、サクサクの食感が心地いい。


お母さんが作るナッツのクッキーは、まほの一番のお気に入り。


「おいし〜!」


「でしょ〜! まほちゃんこのクッキー好きだもんね。こっちのココアのやつも食べてみて〜」


お母さんが指差したココア色のクッキーを取って、ぱくっとひと口。気づけばもうひとつに手が伸びていた。


「おいし〜! サクサク〜! 止まらなくなる〜!」


甘いものに目がないのは、やっぱりお母さん譲りなのかもしれない……


まほがクッキーに夢中になっていると。


「このクッキー、お父さんも好きだったのよ」


と、お母さんが少し懐かしそうに笑った。


まほがさらに手を伸ばすと、続けるようにこう言った。


「そういえば、まほちゃん。ギターが気になるなら、お父さんのギター、見てみる?」


クッキーに夢中だったまほも手を止め、口にクッキーを入れたまま、お母さんの方を見た。


「誰も弾かないとギターが可哀想だし、まほちゃんが気になってるなら、一度見てみたらどうかな〜?って思って」


まほはTシャツの裾をぎゅっと握り、もじもじしながらつぶやいた。


「でもな〜……」


本当は見てみたい。そんな気持ちに気づいていたけれど、なぜか踏み出すのが怖くて、言葉が喉に引っかかったままだった。


お母さんは、そんなまほを見つめながら続けた。


「お父さんのギターはね、まほがそばにいてくれるような気がするからって、いつも同じ材質の——マホガニー?のギターを使ってたのよ」


「そうなの!? なんかエモい! ……ちょっと嬉しいかも……」


そして、ズズッと紅茶をひと口。


実はずっと、ギターをインターネットで調べながら、自分の中に「ギターに触れてみたい」という願望が芽生えていたことに気づいていた。


なんか気恥ずかしくって踏み切れずにいたけど、お父さんのその話を聞いたら、何か背中を押されたような気がした。


お母さんのその言葉が、ふっと腹に落ちて、自然と声が出ていた。


「うん、お父さんのギター、見てみたい!」


気持ちがかたまり勢いよく立ち上がるまほ


そう言って勢いよく立ち上がる。


「オッケー! じゃあ今から見に行こう〜!」


そう言って立ち上がると、お母さんはグッと拳を握りしめて掲げた。


「オー! 我に続け〜!」


と叫びながらリビングを駆け出していくお母さんを、まほも追いかけていった。


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