ザックの薬

ある日の午後。

ザックの家にウィルが訪ねてきた。


ザックの家は町外れにあるボロ家だ。

そこでザックは1人で暮らしていた。


ウィル

「こんにちは。」


ザック

「ん?

今日はどうした?」


ウィルが小さな袋を持っているのをザックは見つけた。


ウィル

「父さんが腰を痛めたから、ザックさんに薬をお願いしてこい、って母さんが。」


ウィルはそう言って、小さな袋をザックに差し出した。


ザックはそれを受け取り中を覗いた。

豆が入っている。


ザックは少し顔をしかめた。


ザック

「ロナに渡されたのはこれだけか?」


ロナというのはウィルの母親の名前だ。


ウィル

「そうだよ。

前より少ないよね?」


ザック

「ああ、そうだな。」


ウィル

「やっぱり。

僕が前より少なくない?

って母さんに言ったら、

前と同じだ、って言い張るんだ。」


ザック

「それはな、

ウィルが私と仲良くしているから、豆を減らしても、私が薬を作ってくれると思ってるんだよ。」


ザックは薬を作れる。

しかし、

それをタダであげている訳ではない。

それぞれの農家の作物と物々交換をしているのだ。

ザックも畑を持っているが、それほど広くはない。

この物々交換はザックにとって貴重な収入源なのだ。


決して高額な設定をしている訳ではない。

大きな街で売られている薬よりはかなり格安だ。

それでも農村の人々が気楽に使えるほど安くはないのだ。


ウィル

「母さんに豆を減らしたらダメだよって言うね。」


ザック

「そうだな。

私も生活がかかってるんだ。

これよりも減らすなら、断るぞと言っておいてくれ。」


ウィル

「うん。

わかった。」


ザック

「それじゃ、薬を用意するから少し待っててくれ。」


ザックは棚から乾燥した草を取り出し、細かく刻む。

そして細かく刻んだ草を更に擂り潰す。

そこに小さな木の実を加え一緒に擂り潰す。


ウィル

「上手だね。」


ザック

「長年やってるからな。」


ウィル

「そう言えば、

前にザックさんに教えてもらいながら作った傷薬だけど、この前、転んだ時に使ったら、やっぱりほとんど効果がなかったよ。」


ザック

「そりゃそうだ。

素人が作って、十分に効果があるなら、誰も俺に頼まんだろ。

使っているのはそれほど珍しい草じゃないから、みんな自分で作るだろうな。」


ウィル

「何が違うの?」


ザック

「正しい手順と神様の加護だな。

調薬というのは、

正しい配合、正しい手順で、

元々材料が持っている特性を引き出すんだ。

そこに神様の加護が加わることで、飛躍的に効果がアップする。」


ウィル

「じゃあ、神様の加護がない僕が作っても全然効果がないってこと?」


ザック

「まったく効果がない訳じゃないが、加護の有無で効果に雲泥の差が出る。

ウィルが作った薬は元々効果の弱い薬草を原料にしたからな。

俺が作る時は加護の力で無理矢理効果を引き出しているが、加護無しではどうやっても大した効果は見込めないな。

作り方はそれほど悪くなかったぞ。」


ウィル

「じゃあ、僕も調薬の神様と契約を結んだら、ザックさんみたいに薬を作れるの?」


ザック

「調薬の加護は薬の効果を大きくアップするが、元々ゼロの物はどうにもならん。

調薬の神様と契約を結んだ後、師匠に弟子入りして、色々な薬の作り方を学ばないと薬は作れないぞ。」


ウィル

「そうなんだ。

勉強しないとダメなんだね。」


ザック

「ああ、その通りだ。」


ウィル

「じゃあ、僕に薬の作り方を教えてよ。」


ザック

「あのな、、、

まぁ、いいか。

暇な時だけだぞ。」


ザックは少し悩んだが、ウィルのお願いを受けた。

本来、薬の作り方はそう簡単に教えてもらえるものではない。


だが、孤独に生きるザックにとって、頻繁に遊びに来るウィルは特別だったのだ。

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