ザックの授業
ウィル
「わかりました、師匠!」
ウィルはザックのことを師匠と呼ぶようになった。
それから、
ザックとウィルの師弟関係は続いた。
毎日のようにザックのもとを訪ねるウィル。
薬草の種類
薬草の効能
薬草の採取方法
調薬の手法
ウィルにとっては新鮮な経験だった。
初めての意識的な学習体験だった。
一緒に薬を作ったり、
本を読んでもらったり、
薬草を摘みに行ったり、
その薬草を天日干ししたり。
ウィルにとって、ザックは未知のかたまりだった。
一緒にノートを読めば、
ウィル
「師匠は字が読めるんだ。
すごい!」
ザック
「別にすごくはないさ。
調薬士はみんな最低限の字は読める。
色々な薬草の効果・効能、処理方法を全部覚えるなんて無理だからな。
こうしてノートにまとめるんだ。
ウィルも少しぐらいは読み書きが出来るようになった方がいいぞ。」
ウィル
「父さんや母さんはそんなのは出来なくていいって言ってたけど?
畑を耕すのには必要ないって。」
ザック
「そう思っている人は多いな。
だが、、、
ウィルも本が自分で読めたら楽しいだろ。」
ウィル
「うん。」
ザック
「そう思うなら、字も少しは勉強することだな。」
ウィル
「わかった!」
毎日のようにザックのもとを訪ねる。
そんな日々が数ヶ月続いた。
ウィルは農村の周辺で採れる薬草はすべて覚えた。
村の外は危険が多い。
子どもだけで村の外に出ることは禁止されている。
ザックと一緒にすぐ近くとは言え、村の外に出ることはとても刺激的だった。
簡単な傷薬や痛み止め、お腹痛の薬など、いくつかの初歩的な薬の作り方も覚えた。
ウィル
「作り方は合ってても、やっぱり効果が弱いね。」
ザック
「だが、効果がない訳じゃない。
覚えていて損はないだろう。」
ザックが作った薬とウィルが作った薬。
同じ材料、同じ工程で作ったのに、効果には明確な差があった。
転んですり傷が出来た時も、
何もしなければ1週間で元通り。
ザックの薬を塗れば1晩で元通り。
ウィルの薬なら3日で元通り。
そんな感じだった。
ウィル
「さすが師匠だね。」
ザック
「一流の調薬士が高価な薬草で薬を作れば、この程度のすり傷なら塗った瞬間に治る。
俺の作る薬なんて三流品だ。」
ウィル
「へ~、
一流の薬とか、見てみたいな~。」
ザック
「諦めろ。
そんな物は高級過ぎて一般庶民には縁がないな。」
ウィル
「僕が作った薬って価値はあるの?」
ザック
「売り物にはならんな。
だが、
自分や家族が使うには十分だろ。
例えば、この草。
何に使うか、わかるか?」
ザックが手もとにあった草を持ち上げた。
ウィル
「お腹が痛い時に使う薬の材料だよね。」
ザック
「その通りだ。
そもそもこの草にはお腹の調子を整える効果がある。
この草を煮出した汁を飲むだけでも、軽い下痢程度なら改善する場合がある。」
ウィル
「それは教えてもらったから知ってるよ。」
ザック
「実際に日常生活で多いのは軽い下痢や腹痛程度だ。それを緩和出来る薬を作れる。
あるいは薬にしなくても、草をそのまま使ってもいい。
そういう知識を持っているのと知らないのでは大きな差があるだろ。」
ウィル
「たしかに!
教えてもらった知識で簡単な不調なら治せそうだもんね。」
ザック
「些細な知識の積み重ねが大切なんだ。
学ぶこと、考えることをやめるなよ。
いいな。」
ウィル
「わかった。
約束するよ。」
そんなある日の夕食。
ウィルの家にて。
夕食のメインは煮た豆だ。
ジャックは豆農家だ。
ジャック
「ウィル。
明日、街に行くぞ。」
ウィル
「えっ!?」
ウィルが行ったことのある最大の遠方は、ザックと行った村の周辺だけだ。
隣村にも行ったことはない。
父親のいきなりの発言にウィルは戸惑うばかりであった。
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