第13話 侵入者
夜の城下町。
門を通らずに忍び込んだステングは深く深呼吸をして城を見上げた。
「よし、行くか!」
ステングは気合いを入れると影に紛れて城へと侵入を試みる。
いよいよ今日、黒幕に接触する事にしたのだ。
◆◇
ステングの祖国に魔物をけしかけて滅ぼしたのは主人公であるステングの祖国の王子が亡命した国の宰相だ。
宰相という立場を利用して国王からの絶対的な信頼を得ており、国王を
彼の目的は魔王を作り出し、人の世を終わらせて魔族の世を作る事。
そのためにかつて勇者が作った国が邪魔だった。それがステングの祖国を滅ぼした理由だ。
その宰相の計画と違ったのは主人公である王子が生き延びて亡命して来た事。そして傀儡のはずの国王がそれを許可した事。
本来の宰相の計画であれば亡命するのは主人公の母だけのはずであった。
そのために王妃だけは生かせという命令がしてあった。
それが結果的に王子を生かして物語が始まるきっかけとなってしまうのだが……
「くそう! 人間風情が強情な!」
宰相は歯軋りをしながら自室のテーブルを叩いた。
「この国の馬鹿どものように俺の言いなりになればいいものを!」
宰相は先程まで亡国の王妃と食事をしていた。
亡命からこれまで世話をやき、親密な関係になるように努めてきた。
本来の計画なら国の再興のための旗頭をと自分との子供を作り、それを魔王にする計画であった。そのために傀儡である自国の王族からの説得も十分行っている。
しかし、旗頭としては十分な王子は生きており、王妃は宰相との再婚に頷くことはなかった。
それだけならばまだいい。
この国の王族と同じように催眠魔法で傀儡にして仕舞えばいいのだ。
必要なのは、勇者の血を引く魔王を作る事。
そのために王位を継ぐ男がおらず、婿を取って勇者の血を引く王妃が誕生するのを待ったのだ。
国王が公爵家出身でそちらも勇者の血が入っていたなどというのはどうでもいい。そちらは殺す算段だったのだから。
「まさか勇者の血のせいか催眠魔法が聞かないなどと……」
本来なら、既に勇者の血を引く自分の子が生まれているはずだったのにと考えると大誤算だ。
「しかたない、勇者の血は諦めて別の魔王を立てるか……何奴!」
宰相が気配を感じて振り返るとそこには少年が1人立っていた。
「本当に魔族は殺せないのか試させてもらうぜ?」
「なぜ知っている? 生かしておくわけにはいかんな騒ぎになる前に、死ね!」
宰相が黒い魔法を放つが、少年は剣の一振りで魔法を斬って防いだ。
「なに⁉︎」
宰相が驚く中、少年は一足飛びに宰相に飛びかかると2本の剣で斬りかかるのであった。
◆◇
「やっぱりダメなのか」
ステングはどれだけ斬っても死ぬ気配のない宰相に呆れて渇いた笑いが漏れた。
「ふん、人間風情が簡単に魔族を殺せると思うな!」
宰相は攻撃を受けながら壁に立て掛けてあった杖を持つとステングに向けて思いきり振った。
「チッ」
ステングは躱して後ろへ飛ぶが、杖の先に現れた黒い魔法の刃が肌を掠めた。
(そういえば宰相の第二形態は槍使いだっけか)
ゲームでの闘いを思い出してステングは心の中で悪態をついた。
そして、主人公しか魔族にトドメをさせないのを確認したステングはゲームの回想シーンと同じ言葉を喋り出す。
「今の俺では祖国の、家族の仇をとるのは難しいか……」
そう言ってステングは窓の方をチラリと見た。
「簡単に逃すと思っているのか?」
「それは大丈夫そうだ、アイスウォール!」
自分と宰相の間に氷の壁を創り出したステングはすぐに踵を返して窓を割って城から逃走する。
その音で駆けつけた城の兵士達の前では宰相は魔族の力を使う事はできず、ステングはゲームのシュバルツと同じように逃げ出すことができたのであった。
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