第12話 少女の祈り

「坊主、来なくなっちまったな」


パン屋の店主が商品を袋に詰めながら客の肉屋の女将と話していた。


「ええ、私らのとこだけじゃなくて街に来てないみたい」


「金には困ってなさそうだったから親はいるんだと思うがよ、なんかこう、寂しくなるよな」


「わたしゃ心配だよ。あの子はいつも1人で街にやってくる。本当に親はいたのかい? まさか、死んじまったんじゃないだろうね?」


つい熱がこもった女将の言葉に、店主はなんと言っていいのか分からずに眉を下げる。


「分からねえさ。俺たちゃ坊主の名前も知らないんだ……」


「教会でも紹介しておけばよかったかねえ」


パン屋で行われる2人の会話を、お使いに来た少女が聞いていた。


桃色の髪に尖った耳の少女。


最近この街にやって来た少女は頼まれたパンをカゴに入れながらその話が気になっていた。


街の外の少年。それは自分達をこの街に導いてくれた少年を連想させたからだ。


彼は私達を助ける時に馬車を漁りにきたと悪びれずに言った。

街の外でそうやってお金を稼いでいたから親がいなくてもここに買い物に来れたのではないか?

それに、彼は私達を送り届ける時に自分は街に行けないと言った。


魔物に襲われた馬車を漁るのは褒められた行為じゃない。

それを知られたから、街に来なくなったのではないか?


「私達を助けてくれたから?」


少女は馬車にいた時なボロとはちがう、黒い修道服を握りしめる。


本当に悪い人なら自分達なんて放っておくか、元々の馬車の目的と同じように自分達を売り払えば街に来続ける事ができただろう。


「あの、その男の子の事を教えてもらえますか?」


「ん? お嬢ちゃんは坊主の事を知ってるのかい?」


「分からないけど、私達を助けてくれた人じゃないかって……」


パン屋の店主とお客の女将は驚いた顔をした後に少年の特徴について教えてくれた。


背の丈や特徴的な髪の色を聞いて、パン屋の店主達が話す坊主と自分の想像する少年が同じ人物だという思いが事が確信に変わった。


「多分、その男の子は生きてます。多分、私達を助けたから来づらくなったんだと思います」


少女は自分の憶測を話した。


「そうだったのかい。でも、だったら尚更教会へ行く事を進めるんだったねえ」


「ああ……」


店内に気まずい沈黙が流れる。


「でも、あの子はきっと生きていると思います! だって、私達を助ける時に魔物を倒したはずだから、そんな人が簡単に死ぬわけありません!」


少年は魔物が居なくなった後に馬車漁りに来たと言っていた。

だけどあの状況で魔物が仲間割れしてどこかへ行ってしまうのは不自然だ。

周りには魔物の死体が転がっていた。多分、あの少年が倒したんだ。そうに違いない。


少女は自分の願望を店主達に話した。


「そうだといいがねえ……」


「なに、考えたって答えは出ねえんだ。だったら、坊主が強くてどこかで元気に生きているって思った方が気分がいいさ。な、お嬢ちゃん」


パン屋の店主が笑顔を作ると少女の頭を撫でる。


「さ、お嬢ちゃん今日はパンの買い出しかな?」


「はい! このパンを4つ」


少女は教会のみんなで分ける長いバケットを買うと、落とさないように抱えながら教会へと走る。


「ただいま戻りました」


シスターにパンを渡した後、急いで聖堂へと向かう。


「どうか、彼が無事でありますように。いつか、このお礼が言えますように」


少女はご神像に向かって膝をつき、少年の無事を祈ったのであった。

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