第9話 新たな仮面を被った日
夕方、ステングは悲鳴で飛び起きた。
何が起こっているのかわからずにステングは部屋の外へと出る。
すると廊下の壁には血飛沫が飛び散り、何人もの使用人の死体が転がっていた。
死体の雰囲気から、皆が逃げようといていたのが分かる。
「一体何が起こってる? 魔物の襲撃は来年のはずだろ!」
操られた魔物が王都に雪崩れ込み、一夜にして国が滅びるのは主人公の王子が7歳の歳の時。
同い年のステングが明日6歳なので来年のはずである。
「いや、魔物じゃない?」
ステングは使用人の死体に近づいてしゃがみ込み、傷跡を見た。
その使用人はお昼に自分を見つけて愚痴をこぼしていたメイドで、恐怖に引き攣る表情を見てステングは位から込み上がってくるものを必死に飲み込んだ。
「切り傷……」
ステングがそう呟いた時、また悲鳴が聞こえる。
ステングは物語のようにメイドの瞳を閉じると急いで悲鳴の上がった方へ走った。
いつものように子供らしいトテトテとした走り方ではなく、しっかりとした走り方で。
悲鳴の聞こえた場所へ辿り着くと、シュバルツが使用人に剣を振り下ろした所であった。
「な、何を……」
ステングの口から溢れた言葉に反応してシュバルツは振り返ると、返り血で染まった顔をニヤけさせた。
「ようステング、俺の中に迸る熱い何かが抑えられなくてな、みーんな殺しちまった」
シュバルツは悦に浸るような煌々とした表情で話を続ける。
「初めに父さんと母さんを殺せば後は戦闘力のない使用人どもだ。父さんと母さんを殺した時の何故? って顔は面白かったぜ。親を殺すのは2度目だがあの信じられないような間抜け面は何度見ても面白い」
シュバルツはクツクツと笑った後に深呼吸をすると、落ち着いた様子でステングを真っ直ぐ見る。
「なんで2度目かって? それは俺が前世でも大量に人を殺したからさ。東京〇〇区の無差別殺人事件なんてニュースになったのかな? 俺は射殺されたから見てないけど……なんてガキに言ってもわからないか」
シュバルツの言葉にステングは金槌で打たれたような衝撃を受けた。
東京〇〇区。それはステングが前世で住んでいた地域だ。
無差別殺人事件なんてそうそう起こるものではない。
だとすれば、目の前にいるシュバルツは前世で自分を殺した殺人鬼だという事だ。
ステングのなかで、これまでシュバルツが話していた狂気の言葉が全て繋がっていく。
そしてシュバルツの実力なら父ザイアにまだまだ敵わず、行動を起こすようなことはないと決めつけていた自分の考えを悔いた。
「さあ、メインディッシュだ。子供を殺すのは初めてだから最後に取っておいたんだぜ、ステングぅ」
シュバルツは嬉しそうに笑いながら剣を振り上げてステングの方へ走ってくる。
「こんな事になるのなら、殺しておけばよかった。ファイア」
自分に斬りかかるシュバルツに向けて、ステングは魔法をぶっ放した。
「ぐはぁ、なんで……痛え」
「来年の襲撃で離れ離れになれば、直接手を下す必要がないと思ってた。お前が主人公の前に現れ、主人公が成長しなければ魔王を倒せないから、シュバルツは主人公に殺されるべきだと思っていた」
いつもと違って流暢に大人っぽい話し方をするステングをシュバルツは睨んだ。
「まさか、テメェも……」
「そう、俺もお前と同じ転生者だ。それも前世でお前に殺されたな」
ステングは手を上に上げ、呪文を唱えて巨大な炎の剣を創りだす。火属性の
「お父様やお母様、
ステングが手を振り下ろすと、炎の剣がシュバルツへ迫っていく。
「そんな、俺は最強の悪役なんだろ! これから沢山人を殺せるんだろ! やめろ!」
シュバルツは叫びながら炎の剣に刺し貫かれ、跡形もなく一瞬で焼滅した。
「お前がシュバルツを語るなよ! シュバルツは最強の
影も形も無くなったシュバルツに向けてステングがそう吐き捨てると、シュバルツのいた場所から青い光の粒子がステングの中へと入ってくる。
そしてゲームでキャラクター達が新しい技を閃いた時のように、自分が使えなかった属性の魔法が使えるようになったのだと悟った。
「そうか。ゲームのシュバルツが全属性使えたのは双子の弟ステングの魔法を使えるようになったから。シュバルツの魔法が中途半端だったのは剣術にかまけて魔法の稽古をしていなかったせいじゃなかったのか」
勿論これはステングの予想でゲームに描かれた内容ではない。
でも、家族のために復讐の鬼となったゲームのシュバルツなら納得のできる考察であった。
「やり過ぎたな。燃え移っちまった」
シュバルツを殺した《ブレイズ・カタストロフィ》は家具に燃え移り、屋敷を燃やしていく。
「……書斎から魔法の教本をもらっていこう。お父様のカバンを使わせてもらおうか」
ステングは踵を返すとシュバルツに殺された両親の死体を探した。
両親の死体は父ザイアは背後から心臓を一突き。
母マリアは肩から斬り裂かれるようにして死んでいた。
ステングは両親を並べて寝かせて胸の前で手を組ませる。
「この6年、貴方達の元に生まれて幸せでした」
4大貴族と言われるほどの家格なのに全てを使用人に任せる事なく愛情を注いでくれた母。
貴族のしてのプライドよりも温かく子を愛してくれた父親。
「ただ懺悔するなら、俺とシュバルツが転生者でなければ、違う幸せな家族の形があったでしょう。そしてその幸せは後一年は続いた事でしょう。それを奪ってしまってごめんなさい。でも、俺は貴方達の子に生まれ幸せでした」
2人に手を合わせた後、ステングはザインの腰に巻かれた鞄を外す。
マジックバッグ。ゲームでは定番のどれだけでも入る魔法のカバン。
これに魔法の教本を入れて持っていこうというのだ。
屋敷の火の手が広がる中、ステングは書斎へと急ぎ、魔法の教本を詰め込もうとした。
その途中で、カバンの中身を見て手が止まる。
カバンの中には包装されたプレゼントが4つ入れられていた。
火の手が迫る中、ステングは包装紙を開ける。
新しい氷の魔法の教本と新しい絵本。
そして、2本お揃いの子供用の立派な剣。
「そうか、シュバルツが使っていた少し長めの短剣はこれだったのか」
母マリアと一緒に父ザイアとシュバルツが稽古している姿を見る自分の姿は羨ましんでいるように見えたのだろうか。
兄弟お揃いの剣。自分にも剣の稽古をつけてくれようとしていたのだろうか?
父ザイアが、兄弟2人で家を大きくし、国を守る剣となる事を望んでいた事を知っている。
「お父様、お母様、俺が後一年で国を守る力をつけられるようにはならないでしょう。だけど、ステングがシュバルツの仮面を被り、世界を救う糧となる事を約束します」
主人公はエンディングで国を再興する。それは国を守ったのと同等といえるだろう。
ステングは幼き出来損ないの仮面を脱ぎ捨て、新たにシュバルツという仮面を被る。
ゲームを正しいエンディングに導くために。
そうしてこの日、ゲームの歴史より一年早く、バルスゼキアは潰えたのであった。
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あとがき
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https://kakuyomu.jp/works/16818622175047692124/reviews
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