(6)ハンバーガーと文学賞

 やりとりを黙って聞いていた、いや、そのようなことは全く聞かずに、自分のスマートホンをチラチラ見ながらハンバーグを食べていた姉が、唐突に話した。

 

 「ん、あの子、文学賞取ったんやて」

 

 父が、

 

 「誰? どの子?」

 

 と聞き返すと、姉が、

 

 「前、ハンバーガー百個食べた子」

 

と答える。

 

 「ああ、あの、近江牛のハンバーガーを百個食べた子?」

 

 再び父が聞き返す。


 「大津のデパートが閉店したときに、野球のユニホーム着てテレビに映っとった子とちゃうで」


と、姉は念を押してから、スマートホンの記事をかいつまんで伝える。

 

 「今年の『びわ湖文学賞』の大賞は、大津市に住む勝部あやみさん、十八歳、京都卓越科学大学先端理工学部一回生、が受賞した。受賞作品は『石山から眺むあはうみの光』という小説で、平安の昔に思いをはせる女子高生の心情を表したもの。びわ湖文学賞では最年少の大賞受賞となった。勝部さんは高校生時代に、テレビ番組の大食い大会に出場して、近江牛のハンバーガーを九十七個食べて優勝し、話題になった、やって」

 

 「へぇ、あの子、京卓に行ったんか」と父が驚く。母も「かしこい子やってんね」としきりに感心する。

 

 京都卓越科学大学というのは、数年前に開校した最先端の科学技術を学ぶ大学で、その入試の超絶的な難しさは、当時大きな話題になった。それ以上にヨウスケが、

 

 「理工学部で文学賞取るて、すごすぎや」

 

と、文字通りの二刀流に驚く。

 

 「姉ちゃんもキョウタク行くか、どっかの文学賞取るかせんの?」

 

と姉に水を向けるが、姉は、

 

 「どっちも無理や」

 

と、にべもない。


 「文学賞もあかんの? お姉ちゃん、文芸部やろ?」

 

 姉は高校に入学したときから、文芸部に入っていた。

 

 「文学賞言うなら、文芸部には真剣なもんもおるけど、ウチのやっとるんはお遊びや。小説読んで読書感想文書いとる。部ではウチ、『評論』言うとるけどな。アハハ」

 

と、笑いながら答える。ヨウスケは、どうも姉の人生は大津か琵琶湖周辺で完結するのではないか、と推しはかりはじめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る