第40話 僕らは自分の頭に緊急着陸する
「どうだい、久しぶりの乗り心地は」
マイクロドローンの操縦席に収まるよう、『ジェル』の身体を限界まで縮まらせた僕に五瀬さんが尋ねた。
僕らが乗ったドローンは礼拝堂の机に置かれていた。そして僕らが「着地」するドローンポートは説教台の前に剥きあう形で「座って」いる。そう、僕らはこれから自分たちの身体――アンドロイド・ボディの頭部にドローンを操縦して乗り込まねばならないのだ。
「窮屈であんまり快適じゃないってことを、だんだん思いだしてきました」
「そうかい、勘が戻ってきたようでなによりだ。じゃあ、自分のタイミングでスロットルを入れてくれ」
まるで牧師のように説教台の後ろに立っている五瀬さんは、行儀よく並んで座っている僕ら――僕と杏沙のアンドロイドだ――と、ドローンの中の二人の『ジェル』を交互に身ながら言った。
「ちなみに今回のボディはぐっと性能が上がっているよ。ナノテクノロジーで顔面を自在に変化させられるんだ。いわば「変装不用」の顔面仕様になっている」
「つまり、他人に化けられるってことですか」
「その通り。しかも搭載している人工知能には『オーバーライター』語を含む大量の言語データを学習させてある。その気になれば外国人はもちろん「敵」と通訳なしで談笑することも可能だ」
「怪しまれることなく、すぐに打ち解けられるっていう訳ですね」
「そうだ。相手が心を許すかどうかは、状況次第だけどね。……さ、そろそろテスト飛行に取り掛かろうか。まず起動スイッチを入れてくれ。エアーが出て機体が上昇を始めはずだから、一定の高さになったら機体の両側にあるローターのついたアームを伸ばすんだ」
僕が『ジェル』の手でスロットルを掴み手前に引くと、機体が角度をつけながら上昇を開始した。
「よし、前方の『ボディ』に向けて移動を始めてくれ」
僕が「足元」のペダルを踏むと、ドローンは「自分の頭」に向かってゆっくりと全身を始めた。
「頭部ハッチはこっちで開けるから、ドローンポートが見えたら着陸の準備をしてくれ」
五瀬さんがそう言うと、「僕」の頭が花が開くようにぱかっと四方に開いた。
「どうだい、安定した操縦はできそうかい」
「わかりません。うまく頭の上でドローンを止められないかもしれません」
僕はすぐ近くの杏沙の機体がどうなっているかを見ようと、操縦席の中で身をよじった。しかし機体を安定させるのに精一杯で、とてももう一機のドローンを視野に入れる余裕はなかった。
「よし、いい位置だ。頭のハッチを開くからマーカーを同期させるんだ」
「そんなこと急に言われたって無理です」
僕が渋っているといきなり「ういーん」と言う音がして視野の隅で僕の「頭」が開くのが見えた。
「エアーを出して高度を下げるんだ。思いだせるだろう?」
僕は真下に見える直径二十センチほどの「頭ドローンポート」に何とかして機体の中心を合わせようと試みた、着地に失敗しても死にはしないが一応、半年前にできていたことが今は駄目となったら格好が悪い。
「いいぞ、アームをたたんで噴射を弱めるんだ」
僕は「もうこの位置で失敗したらしょうがない」と覚悟を決めると、ぺ打あるを踏む「足」に力を込め噴射を弱めていった。
「よし、凄いぞ真咲君、ばっちりだ」
「ばっちりかどうか、自分では……」
僕がおそるおそる高度を下げていると突然、すぐ近くで「やったわ!」と言う声がした。杏沙の機体が着地に成功したのだろう。
緊張に耐えかねた僕が一気にエアーを弱めると、がしんという音と衝撃がコクピットを揺さぶった。
「わ、わあっ」
僕が叫ぶのと同時に「ういーん」と言う音がしてふたが閉じ、周囲が真っ暗になった。次の瞬間、「目」が開いて僕の視界に目を光らせている『杏沙』の姿が飛び込んできた。
「よし、動けるようだね。目が光ったということは、同期に成功したということだ」
満足そうな五瀬さんの言葉を聞きながら、僕はふらふらと椅子から立ちあがった。
――ボディは改良型でも、中の操縦者は退化してるみたいです、五瀬さん。
僕は早くも腕を回したりくるりと回ったりしている杏沙を見ながら、新しい身体に入って初めてのため息をついた。
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