第39話 ぼくらは平和に満ちた食事を摂る


「お待たせしちゃってごめんなさい」


 人気のない礼拝堂の椅子で、ぶるぶる身体を震わせていた僕らの前に現れたのは四家さんだった。


 四家さんは、もう変装する必要がないにもかかわらずなぜかまだシスターの格好をしていた。何だかわからないが、よほど気にいったのだろう。


「お食事を持ってきたわ」


 四家さんはそう言うと、ガラスシリンダーに発電機がついた見覚えのある装置を置いた。


「四家さん、「アンドロイド・ボディ」はそろそろ完成しそうですか?」


「そうね、明日か明後日ってところじゃないかしら。七森さんの身体が少し早いかな」


「今回の身体は、以前の物とどこら辺が違うんです?」


「内蔵されている装備がかなり多いみたい。初めから敵と戦うことを前提に造られてると思えばいいわ」


 僕はひゃあ、と声を上げそうになった。五瀬さんたちは僕らに映画みたいなバトルをさせるつもりでいるんじゃないだろうか。


「もうすぐ完成……ってことは、またドローンの操縦訓練をやらなきゃならないんですか」


「そういうことね。工房の中は狭いから、ここでやってもらうことになると思うわ」


 僕の頭の中に、かつて行った「自分との合体」訓練が思い起こされた。ようするにこの『ジェル』の身体で超小型ドローンを操縦して「自分の頭」に着陸しなければならないのだ。


「さあ、厳しい訓練に耐えるためにも、食事だけはちゃんととらなくちゃ」


 四家さんはそう言うといきなり両手で「僕ら」を鷲掴みにし、シリンダーの中へ放り込んだ。


「最初はちょっと「ぴりぴり」するけど大丈夫、すぐに慣れて楽しめるようになるわ」


 四家さんは凄みのある笑みを浮かべると、手動式発電機のハンドルに手をかけた。


「ちょ、ちょっと四家さん、一人づつじゃないんですか?」


 先に放り込まれ、必然的に杏沙の下になった僕はシリンダーの底から四家さんに訴えた。


「あら、久しぶりだもの。一度くらい一緒のテーブルに着いてもいいんじゃない?」


「それは普通に体がある時のはな……ぎゅおっ」


 僕と杏沙は互いにより広い「席」を求め、ぶよぶよと身体をぶつけあった。


「うふふ、どこに移動しても食事の量は同じよ。じゃ、行くわね」


「待って、最初はゆっくり……」


 僕が四家さんに手加減するようそれとなく伝えようとした、その時だった。ぎゅんぎゅんと何かを高速で回す音が響いたかと思うと、僕と杏沙の表面を青白い火花が舐め始めた。


「わっ、わっ」


 僕らの新しい「身体」はどん欲にエネルギーを吸収しつつ、駆け抜ける火花の影響か緑の手足をびくびくと踊るように動かし始めた。


「痛っ、痛いいっ」


 僕は密着している杏沙の鞭のようにしなる手足に追い立てられ、平たくなって容器の壁にへばりついた。


「ぐうううう」


「――どう? お味は。お腹もすいてたみたいだし、遠慮なく「吸収」してね」


「あの、への、もぎゅられれっ」


 もはや食事をしているんだか感電しているんだかよくわからない刺激の中で、僕は杏沙のびしびしという猛打を浴びながら全然のんびりできない食事タイムを送った。


 シスター姿の四家さんはそんな僕らに一切構わず、ハンドルを回しながら日々の糧がどうとかいう讃美歌みたいな歌を楽し気に口づさみはじめた。


「も……もういいです四家さん……おなかいっぱいでぎゅ」


「あら、もういいの? 小食ね」


 四家さんはハンドルを回す手を止めると、こね終えたうどん生地みたいな僕らを満足げな目で見つめた。


「は……早くふたを開けてここから出してくだぎゃい」


 僕が「遠慮しなくていいのに」と再びハンドルに手をかけようとした四家さんに恐怖した、その時だった。礼拝堂の戸が開く音がして誰かがやってくる足音が聞こえた。


「……やあ、お食事中だったか。邪魔して申し訳ない」


「あら五瀬教授、もう少しサービスしようかなと思ってたところです」


「そうかい、四家君は本当に食事を与えるのが好きだなあ。……たしか子供の頃、縁日で買ってきた金魚を金魚鉢いっぱいになるまで太らせてしまったんだよね?」


「ええ、遊びに来た友達に「なんでこの太った鯉、金魚鉢に詰まってるの?」って不思議がられましたわ」


 五瀬案と四家さんの余りに恐ろしいやり取りに、僕は食後のまどろみ――もとい失神へと呑み込まれていった。


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