僕の始まり、父と爆発
「どうか」声が聞こえる。うっすらと開いたまぶたから、わずかに光が見える。それはとても必死で、切実で。思わず手を伸ばしてしまいたくなるようで、届かない。涙なのか汗なのか、どちらともわからない水の集まりが溢れていく。
「奪わないでくれ」祈りだ。この声は僕のことを、引き止めたいらしい。手にまた一つ、体温が触れる。深く深く沈んでいく僕は、まるで溺れているよう。その中にあってもまだ、その声は引き寄せる。
「テロ」そんな顔するなよ。美しい顔をそんなに歪めても、良いことなんてない。頭を撫でてあげたいけれど、手に力が入らない。指先に僅かな力を入れることすら叶わなくて、ごめん。
「行くな」祈りは一層強く、僕をつなぐ。声はつながり、合わさり合うことで強くなる。僕を覆うものが熱く、抱きしめてくる。
「お前は……」声の主の姿が、ぶれていく。横に斜めにひしゃげるように、曲がっていく。あふれる光の粒が、目を覆っていく。
「俺の」家にあったはずの窓は全て割れ、床が軋む。溢れんばかりの力と、それと同じくらいの魔法。父の顔は、見たことがある。優しそうで勤勉で、それでも家族を大切にする人間。それが僕にとっての父で、それは今も変わらない。硝子の破片は僕には付かず、変わりに俯く父の背を刺していく。嫌なんだ、誰かが傷つくのが。見たくないんだ、大切が崩れ去る姿を。
「子だ」にこやかに、穏やかに父は言う。俯いていたんじゃない、確かに抗っていたんだ。アンの声がする。震えていて、とてもか弱い。守りたいんだ、こんな時くらい。どこにも力が入らないけど、どこにも力なんてないけれど。それでも、生きていたんだ。
「ありがとう」僕にできることは、家族を守ること。家族を守る魔法しか、使うことができない。
遠く、意識は霞んでいく。周りにあったものは、全て散り散りになっていき、白に帰る。ひたすらにあたりに四散して、花火のような形を作る。草原に、音が響く。それは始まりの音にも聞こえるし、終わりの音にも聞こえる。一つ確かなことは、その音なくしては何も進めることができないということだ。安らかな時間の中で、僕も祈る。どうか、どうか無事でいますようにと。だれも、大切な人が傷つきませんようにと。全てのものに終りがあるように、その爆発にも終りがある。昇る太陽の下、人が一人二人と息をする。それは四人になるまで増えていき、けれど途切れることはなかった。草原の朝は早く、日は沈むには早すぎる。
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