第7話 不眠
風呂上がりの熱気をそのまま抱き、二段ベットの上段へと登った。暑い、今はただそれだけを脳が受け付けている。
倦怠に脳を焼かれた顔をしながら、私は一冊のハードカバーのメモ帳を手に取った。そして、小説の設定や登場人物の設定が細かく書かれた紙面を捲り、まっさらな紙にこう書き殴った。
「烈火、波の如く」
——人生初の、詩が今、生まれ落ちたのである。
=烈火、波の如く=
波の如く 火の如く 風の如く
時間は過ぎる 過ぎて往く
雨の中を 空を 風を 包んで
ただそこに最初からあったかのように
連綿と居続ける まるで無限のように
烈火の如く 強く 永く 人を友とし
私も何時か 何時の日か
そういうものとして、名を残したい
書き上げるに要した時間はさして大したほどでもなく、息をするかのように詩を書き上げていく。自分で作曲した曲を垂れ流しつつ、淡々と筆を動かせば、私の座っている椅子と机とは居心地の良い草原へと変わり、やがて周囲を鳥が飛び交う素敵な山岳地帯へと変貌を遂げつつあるのだ。
さぁ、次の詩を書こう。
=呼吸=
息をする だれしもが
空を見上げる だれしもが
自然なことだろう 当たり前のことだろう
しかしそれらが誰にとっても どの時間であっても
かならず心地の良いものではないだろう
当たり前のことが
当たり前ではないということ
それはもっと疾いうちから識っておきたかった
こんなものでも……誰かの救いに、なれたら良いのだが。
次の詩を書く。
=別れ=
別れとは 往々にして起きる
二度と会えなくなるものから
何時かはまた会えるものまで
多種多様だ
この世界のどこかに 別れを売る店があって
それを訪れる人は 一定数いるんだろう
痛みを識っている人が そこの店主に選ばれ
そして別れを買う客を 見送るのだ
——僕のこの生涯は
すくなからず その店に世話になった
そのせいで苦しむことはあれど
時間の奔流が解決してくれる
別れとは ただ悲しいものなどではないのだろう
いい感じだ。もっと書いてみよう。
=友人=
普段 あなたが阿呆なことをして
優しく 豪快に笑い飛ばす友人
そんな存在は 貴重なのだ
あなたが歳をとって 孤独になった時
誰かに頼りたくなることがあるだろう
その時に あなたの友人を思い出せば
あなたはその友人の存在が どうしようもなく
尊く そして 美しいものであったと思うだろう
手紙でもいい 電子でもいい 連絡を送って
そうした友人を 生涯大切にしてほしい
……友人とは大切なものだ、それでいて、何時までもいるわけでない。そんなギャップを、どう人は受け止めるんだろう?そんなことを思いつつ、さらに書いてゆく。
=無題=
猫が鳴く 月落ちて日昇る
猫が鳴く 日落ちて月昇る
猫が鳴く 月落ちて日昇る
我が眼窩 空を見据えんと
我が肉体 今こそ発たぬと
一念発起 運命と躍進せよ
跳躍せよ 我が人たる生涯
発動せよ 国家の大々改革
旗を振れ 歩み続けよ人民
抵抗せん 圧政と邪智とに
時代背景としては70年代だろうか?革命という一大事象を扱っているから、古風にしてみたが……
二段ベットの上段で、うーむと唸る私を支えるのは、他でもない。中原中也詩集「汚れつちまつた悲しみに」である。夜も更けてきたし、ここらで止めるか迷うな……
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