第4話 魔力の湧く場所

だんだんと、近付いてくる。

さっきまでの、穏やかな場所とは違う、わくわくするような、不安になるような匂いが。


みんなが欲しがるもの、おいしいもの、必要なもの。

そこには『争い』の気配が、よく一緒についてくる。


呑まれては、いけないよ。

自分に言い聞かせる。ううん、これは私じゃなくて・・・?



*****



『イズミ、もうすぐだよ。魔力のある場所。』

「うん・・・そこって、恐いところだったりする?」

私と手を繋ぎながら、こちらへ顔を向けるみうに、不安になり始めたことを尋ねる。


『もしかして、さっきのお魚の時みたいに、何か感じたの? 確かに、危ない生き物が来てたら、そうなっちゃうかも。』

「えっ・・・そこに行って、本当に大丈夫なの?」


『たぶん・・・大きな魔力のところに近付かなければ、平気よ。』

「そ、そうなんだ・・・」

本当は、みうもちょっと不安なのを、大丈夫だと自分に言い聞かせるような感じが、少し気になるけれど。



『その辺りの、真ん中のほうで、魔力が強いところは危ないかも。

 ずっと前に、水生樹がそこに根を張って、すぐに大きく育ったけど、いろんな生き物にかじられて、枯れちゃったみたい。それで今は、すごく大きなお魚が、集まる生き物を狙いに来るんだったかな。』

私の表情に、何かを感じ取ったのか、みうが詳しく話し始める・・・不安がますます大きくなるようなことを。


「ねえ、みう・・・さっきから聞いてると、平気に思えないんだけど。」

『すみっこのほうは、きっとそんなことにはならないわ。私も気を付けるし、これだってあるもの!』

さっきも見せてくれた、柔らかいぷにぷにが、手を繋ぐ私達の周りを包み込んだ。


「うん・・・これなら、ちょっと安心かな。」

『そうでしょ。きっと、大丈夫!』

それが、柔らかくて丈夫で、包まれるだけで心地よいことを思い出して、私もみうと一緒に、少し笑顔になった。




『ここよ、イズミ・・・!』

「うん。広くて、さっきまでよりも、少し大きなお魚がいっぱい・・・!』

そうして、みうに手を引かれて進んでゆくと、今までとは違う場所に着いたのを、はっきりと感じる。


「あっ、でも・・・あっちのお魚の群れは、もう行っちゃうんだね。」

『きっと、長く留まっていたら、危ないかもしれないから・・・大きなお魚も、ずっとここで見ていると、初めからみんな逃げちゃうから、たまに来るようにしてるみたい。』


「そうなんだ・・・ここの生き物も、いろいろ考えてるんだね。」

周りを見渡せば、危ないものがやって来ないか気を付けながら、忙しそうにしているお魚が多いみたいだ。



『そうね。私達は、一番危なくなさそうな場所へ行くわ!』

湖の底から、こぽこぽと、水ではない何かが湧き出して、そこにお魚が集まってゆく・・・その周りを大きめに回るように、近付く生き物が少なくて、ちょうど良いところをみうが探してゆく。


『うん! ここがいいわ。』

しばらくして、近くに誰もいない、小さなこぽこぽの場所を、見付けることができた。


「ちょっと温かくて、別の変わった感じもして、なんだか不思議だね。」

『そうね。初めての頃は・・・お姉ちゃんに連れてきてもらった時は、私もそう思ったわ。だんだんと、慣れてきたけど。』

そうして、魔力が湧き出しているという、その場所に二人で座っていると、じんわりと何かが体に溜まってゆくのを感じられた。


「あっ・・・ちょっと、体が熱くなってきたかも。」

『うん・・・魔力の取りすぎには、気を付けて。変になっちゃうかもしれないから。』


「変って、どんな風に?」

『うーん・・・落ち着かなくて、急にすごい速さで進みたくなったり?』

・・・ちょっと変わった場所で、みうとの会話に夢中になったせいか、何かが近付いていることに気が付いたのは、もう『危ない』と、はっきりと感じられるような時だった。



「えっ・・・!?」

『きゃあっ!』

すごく強くて、速い流れが押し寄せてきて、私とみうは、ぷにぷにごと飛ばされてしまう。大きく上にあがって、今度は底に落ちて、また高く弾んだような気がした。


『ど、どうしよう、早く何とかしなきゃ・・・!』

「ううん、まずは落ちついて、みう。」

私も大声を上げてしまいそうだけど、すごく慌てているみうを見て、どうにか立ち直り、ぎゅっと抱きしめる。


「ほら、大きなお魚が、魔力が強いところの生き物を狙ってる。あれの勢いがすごいから、私達も流されちゃったけど、変に暴れたりして、向こうに気付かれなければ大丈夫だよ。

 それに、これだけ飛ばされても怪我してないし、みうのぷにぷにはすごいんだから・・・! 自然に止まるまで、じっとしていようね。」

『うん、うん・・・!』

本当は、私もすごく恐いけど、胸の中でぶるぶると震えるみうを励まして、頭を撫でていたら、周りがよく見えて、大丈夫だって思えてきた。



「・・・・・・やっと、止まったみたいだね。」

『あ、ありがとう、イズミ・・・』

「うん。二人とも無事で、良かったよ。」

しばらくして、流される感じが落ち着くと、さっきの場所からだいぶ離れてしまったようだけど、ぎゅっと抱きあったまま、ほっとした顔のみうを見れば、温かい気持ちでいっぱいになった。

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