第4話 キラキラ星


「・・・γガンマ星・ナシラ・・・と言うと、山羊座の・・・」


コック服姿の父が沈鬱な表情で忍に尋ねた。

分厚いメガネの奥の瞳が悲し気だった。


「・・・はい」

「・・・そうか。・・・そうですか。あのあたりのご出身ですか・・・それはご苦労された事でしょう・・・」


忍が首を振った。


「いえ。私は父がこちらに来てから遅くに産まれましたし・・・。当時は父がだいぶ大変だったようですが」


話が見えずにスピカは面白くなさそうにギャラクシー焼きナポリタンをかっ込んだ。


"銀河ギャラクシー"要素は多分、なんとなくパスタの上に星型に切り抜いたニンジンやチーズが乗っかっていて、粉チーズがやたら振られている事だろう。


これが銀河であると気づくのは、名探偵でも無理。


「・・・なんの話よ?」


つまり誰なんだ、私に説教する根拠は何だと聞いたのに、さっぱり答えになっていないではないか。


母が、大きなハンバーグの乗ったグリル皿と、ホットケーキの皿をテーブルに置いた。


忍は嬉しそうに、ナイフとフォークでハンバーグを切り分けると、頬張った。


「・・・うまい!このハンバーグ、ジューシーですねえ!ソースも美味しいなあ・・・」

「そうだろう?このデミグラスは、仕込みに一週間かかるんだよ!」

「へえ、凝ってるなあ。マーズアタック火星人襲来ってのはどのへんですか?」

「いい質問だね!これは、ハンバーグを成形する時に、アタァァーック!!って言いながら作るんだよ!」

「ほー、ナルホドー。なんか洗剤のCMみたいですねー」


忍はそのままうまいうまいと食べ続け、スピカの問いなど置いてけぼり。


「・・・ねえ、ちょっと!?」


忍は思い出してやっとフォークを止めた。


「・・・ああ、ごめん。・・・ええとですね、つまり、私の父が、地球に来て以来、やはり地球に来ている宇宙人をサポートするような仕事を始めたんです。どうしても現実的にいろいろ問題があるから。衣食住もだけど、役所の手続きもだし、教育、育児、冠婚葬祭・・・。まあ、トゥインクル・トゥインクル商事は、宇宙人の為の総合サポート会社ってところです。こちらの鈴木さんのご家族のアフターフォローは私の担当ですから」


スピカはぶすくれて忍を見据えた。


「・・・だから、私に説教するのが正しいって言いたいの?」


忍がその通りと頷いた。


「情報提供と、教育的アドバイスは、私の職務ですからね。お客様こそトゥインクル・トゥインクル・スターキラキラ星、というのが社是でして」


似たような会社はいくつかあるんですけど、結構大手なんですよ、と忍は微笑んだ。


「・・・私達も地球に来て初めの頃は、もう右も左も分からなくって・・・」

「そうそう。それで、当時、最初はやっぱりこちらのトゥインクルさんにお世話になったんだよ。あれは北海道の最北端の営業所で・・・」

「ああ、トゥインクル・稚内営業所ですね」

「そうそう・・・稚内!・・・!美味しかったなあ、タコしゃぶ」

「名物ですからねえ。全国に支店が58ありますが、今、北海道は、支社が2つと・・・営業所が6つですね」

「そんなにかい?・・・いやでも、北海道はでっかいどうだからねえ・・・」

「そうよね。トゥインクルさんのおかげて、助かってる方も多いと思うわ」


そこで四方山よもやま話が始まってしまうのに、スピカはちょっと、と制した。


「待って・・・。そんなあちこちに支店があるって・・・宇宙人って、いっぱいいるの・・・?・・・信じられない」


いやあね、と母が吹き出した。


「信じられないって。スピカちゃんもパパもママも宇宙人じゃないの」

「そうだよ、スーちゃん。・・・そうだなあ、今、何人くらいなんだろうなあ。はっきりとはわからないけれど、多分、日本で言うと人口の二割くらいはいるんじゃないかなあ」

「ああ、そうですねえ。・・・二世、三世も含めると、三割行くでしょうねえ。世界規模になると、当然地域にもあると思うけど、その街の六割近くが宇宙人っていう地区もあると聞きましたよ」

「へえ。そりゃすごいなア」


スピカは唖然として両親と忍を見ていた。


「・・・あ、あの子!あの子もよ!」


ふいに母がつけっぱなしのテレビを指差した。


画面いっぱいにタレントの女性が映し出されている。


「あー、そうそう!ええと、あの感じは多分・・・こいぬ座あたりかなあ・・・」

「可愛いわよねぇ。何言ってるかはわかんないけど」

「あー、こいぬ座の方って、ああいう感じ、多いですよねー」


スピカはポカンとしてテレビを見つめていた。


確かにちょっと不思議ちゃんとか言われているキャラクターだが、あれは、作っているのだと思っていた。


「・・・ちょっと、そ、そういうのって・・・見てわかるの?」

「んー雰囲気っていうか?・・・でも、あなた、こいぬ座の方ですよね、とか聞いたらダメなのよっ?」

「そうだよ・・・それはとても失礼な事なんだよ」

「そうです。パンツが何色かなあと思う事は、犯罪ではないですからね。これが聞いてしまうとなると犯罪です」


この男は他に例え方を知らないのか、とスピカは舌打ちした。


「・・・ほら、やっぱり!変態はそっちでしょ!だからおじさんっていや!」


そう言うと、スピカは立ち上がり、お皿を厨房のシンクに放り込んで、ごちそうさま!と言って、二階の自宅へと走り去ってしまった。


忍は呆然としてそれを見送った。


「・・・ああ、もう、お行儀悪くてごめんなさいねえ・・・あの子、ちゃんとお礼申し上げました?」

「難しい年頃で・・・。突然笑ったと思ったら、今みたいにプンスカしてみたりして・・・」


年頃の娘は難しい、と父母が言い合った。


「・・・いや、あの・・・。おたくの娘さん・・・、変態とか、おじさんって言ってた方が、問題じゃないですか・・・?」


結構ショックだった。


あらあ、と母が手をひらひらさせた。


「だってアナタ、十六歳の女の子からしたら、二十五歳以上は皆おじさんよ?」

「そうだよなあ。スーちゃん、一昨日あたり、クイズ番組の石川啄木見て、誰このおじさんって言ってたもんなあ」


この宇宙人夫妻は案外地球の歴史や文学に造詣が深いらしい。


「いやぁね、あれは昔の写真だからじゃない?・・・あの方、確か二十六歳で亡くなったのよねえ・・・。そういえば、佐藤さん、おいくつ?」

「・・・に、二十六です・・・」

「・・・じゃあ仕方ないわねぇ・・・。それにアナタね。十六歳の女の子の前でパンツがどうとか何回も言うのは変態と言われても仕方ありませんよ!お改めなさいね!仮にも教育に携わる者が、恥を知りなさい!」


ぴしりとそう言われ、忍は思わず頭を下げた。


その妻の様子を夫が頼もしそうにニコニコとして見ていた。



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