清掃における規範の優先順位
前項で述べた、清掃についての以下の指示を再掲する。
①本社からは、清掃の時間数を1回15分。リネン一式交換も15分で、合計45分×室数で、フロアの清掃を了えるのを目標にせよとの伝達があった。
②支店からは標準防護策、すなわち利用者の体液は全て感染者の体液に擬して清掃せよとの伝達。これは大仰のようだが社会通念上は当然である。
③現場からは、転倒リスクを減らすため洗剤を節約すること、利用者がベッド上に置いた物品は元の位置に戻すことを指示された。
④運営懇談会(施設役職者、利用者家族、その他関係者の会合。施設の最高機関とされる)からは、特定の場所にゴミが溜まらないように、との指示。
例えば部屋の隅、ベッドの部品などの埃は、部屋全体の容積に比して衛生的意義は小さくとも美観上は重要な問題である。
余は全てを実現することは不可能と思った。問題はどのように妥協するかである。
①から④までの全てを中途半端に実現する、俗に言う「間を取る」のは、下策である。
ひとつには、それでは結局、どの指示も実現しない。
もっと重要なことは、余が妥協案を私に策して行うということは、余が本社、視点、施設、顧客の上に権限なく立つことになる、ということになる。
一介の介護職員がそこまでの責任とリスクを負う要を認めない。
そのような考察から。法に基づいて四要求の優劣を論じ、妥協した(放棄した)要求への責任は上位の要求に帰すればよいと思いついた。
問題は優先順位である。余は当時、ChatGPTのような強力なツールを持たなかった。
そこで余自身の思考に依らざるを得なかった。薄給の余の職と任務を守るために弁護士や社労士を頼ると費用倒れになるからでもあった。
余が第一としたのは②の標準防護策である。これは労働安全衛生法に基づく職場環境の防衛であるとともに作業を行う余自身の健康と尊厳の基礎であれば。冷静に考えれば自明であった。
第二の順位は、遺憾ながら①である。思えば本社の幹部は清潔なオフィスで背広を着て勤務している。
認知症の人が恣に用いる居室の清掃を何分以内にとの下知は笑止であるが、さればとて。殊更に、抗命のみのために時間を費消することもできない。
第三は施設の指示である。第四との優先順位は迷ったが、転倒防止には理がある。
付け加えると、余は会社に雇われているのであって利用者家族に雇われているのではない。会社から職位を与えられた役職者の余への指示と、運営懇談会での話が齟齬したとして、その責任は余にはない。
消去法で、美観上の配慮は最劣後となった。
すなわち。清掃における配慮事項の優先順位を②>①>③>④
と結論付けた。
後にChatGPTにこれを問うと。余の判断は誤りではないとの出力があった。
残念ながらChatGPTは計算機付辞書に過ぎないので公定力を持たないのではあるが。
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