大きくなった僕へ
@blueday
〜小さなぼくから〜
なにか苛立ったようにハンドルを握る父をみるのは2回目だ。
いつもの見慣れた道とは違うどこかの道。
―“ぼく”も父のように道に詳しかったらいいのに、親子でこうも違うのか―と、どんな場所でも地図を使わず目的地に向かう父を尊敬していた。
夏の日差しは車内にも容赦なく降り注ぐ。
―今年の夏は感染症だかなんだかが流行ってるとかニュースであってたけど、1週間もあれば無かったことになってたな―
―ああ、父さんに聞きたい。でも、いや、そんな、まさか―
血管が太い見慣れた父の腕を見て、揺れていた心が落ち着いてきたのを感じた。
「着いたぞ」
父はそう言ってウインカーを出した。遠心力を感じながら見える赤レンガの建物は、夏の熱気も手伝い異様に赤みを増しているように感じた。
古い車特有の効きすぎる冷房とのコントラストを憂うも大人の決定に子供は抗えない。
どこに着いたのかも分からないまま、“ぼく”はすぐに車から降ろされた。
目を細めながら父は“ぼく”を一瞥し「今年の夏は暑いな。ほんと」と、誰に言うでもなく呟いて建物入り口の扉に手を伸ばし一人で入っていってしまった。
―はぁ―
小さな溜め息を吐いて、痛いほどの日差しを見上げ押し寄せる言葉を巡らせる。
―車内で何度も聞くタイミングがあったはずなのに―
―不安が不安のまま、疑いが疑いのまま―
―“ぼく”がそう思っているということが知れたら、お父さんは傷付くのかな―
“ぼく”の頭の中で何度も繰り返される無意味な言葉は集約され、もっとも簡単な言葉となって誰にも聞こえない声量で漏れた。
「ねえお父さん。ぼくのこと捨てるの?」
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