第14話 骨董品店


 橋山はその日もネリタの大店へと魚を卸しに来ていた。

 『旦那!いつもありがとよ!今日は珍しい魚が入ってたから多めに付けておいたぜ?』

 『悪いな店主。助かるよ。じゃあ次は早くても三日後になっちまうから宜しく頼む。』

 『ああ!待ってるぜ!また宜しく頼むな!』


 取引きを終えた橋山は、荷車を預けるとネリタの街を散策していた。未だに厳戒態勢は敷かれている様子で辺りに武装した僧侶の姿も見られる。

 そんな様子を眺めながら参道を行くと古びた骨董品店が目に付いたのだ。


 こんな所にこんな店もあったのか…今まで気が付かなかったな。


 試しに覗いてみると、店内には所狭しと骨董品が並べられていた。古い壺やら掛け軸やら、色々な物が雑多に詰め込まれており、正直言ってどれがどれだけの価値があるのかも全く分かりはしない。店の奥には白髪頭の店主がおり、橋山の方をチラリと見るだけで特に話し掛けても来なかった。

 ざっと品物を見て回っていると奥に気になる物を発見する。そこには棚に綺麗に並べられた刀や槍、錫杖などの武器があったのだ。


 ここだけなんか随分と整頓されているな…やはり高級品って事か?


 すると並べられている刀を見ると、鍔の部分にビー玉程の赤い石が嵌め込まれていたのだ。どうやらこの武器は妖石を備えた特別な武器らしい。

 『店主。これは妖石が着いているのか?』

 『ん?そうだな。そこに並べてあるのは全部妖石を組んだ物になるな。高いぞ?お前さんでは到底無理だな。』

 店主は橋山の姿を足元から値踏みする様に見ていくとそう言って笑っていた。どうやら橋山にはとてもでは無いが買える値段では無いらしい。

 『ちなみにこの刀でいくらぐらいなんだ?』

 『それで二十両だな。それでもあつらえるよりは大分お値打ちだぞ?』


 二十両…ざっと二百万円くらいか。そりゃあ高級品だよな。

 『これ実際何が違うんだ普通の刀と。刀身が燃えたりするのか?』

 『刀身は燃えんよ。ただその組み込まれた妖石の力が刀身に宿るだけさ。要はその赤い妖石の場合、鬼の力が宿ると言う事になる。普通では切れない物も簡単に切れる様になる。』

 『それは?ずっと効果が続くのか?』

 『鍔の妖石が砕けるまで続くな。それはまだまだ使えるさ。中に光があるからな。赤い鬼の妖石は大きく光が強い物程力が強くなる。まあ刀に付けられるのはその大きさが限界だな。』


 なるほどな。ちょっと俺が思って居たのと違うな。妖石自体を練り込んだりするのかと思って居たが後付けな感じな訳か…。要は鈍でも鍔に強い妖石さえ付けたら名刀になるって訳だろ?これは妖石を使って魔道具を作るっていうのはちょっと難しそうだよな…。今の所単なるエネルギーとしてしか使えないんじゃないのか?


 『ちなみにこれは何て鬼の妖石なんだ?』

 『さぁな。鬼には違いないが、名のある鬼ではないんじゃないか?その大きさではな。名のある鬼が落とすのはもっと大きくなるからな。』


 じゃあ牛鬼が落としたあれは相当貴重な物って事になる訳か…。

 『ちなみにうちは妖石の買取りもしてるぞ?何か持ってるのか?ん?』

 『いいや、俺が持ってるのは大したやつじゃないよ。小鬼から出たやつだからな。』

 『ああ、小鬼か。それならまあひとつ五十文ってところだな。数がありゃその分割り増しにはしてやるがな。』

 『そう言うのは買い取って使い道はあるのか?』

 『鍛治屋が買うんだよ。炉の中に放り込むと火力が上がるのさ。まあ使い道はそれくらいだな。』


 やはり単なるエネルギー資源って事か。


 『ちなみになんだが、強い妖石を使って打った刀とか無いのか?鍔に付けるやつではなく。』

 『そう言う代物は殿様やらしか持ってないぞ?名だたる名匠が強い妖石を元に鋼を鍛えて打ち込む訳だからな。それを本物の妖刀って言うんだよ。知らなかったか?』

 『やはりあるのか。そんな代物が。』

 『まあそんな物はうちみたいな店には出回って来んよ。わしもまともに現物は見た事は無いからな。』


 やっぱりこの世界、とんでもない刀は存在してるって事だな。見てみたいものだが、殿様相手では所詮無理な話か。


 店主とそんな話をしていると、片隅に箱へと雑多に入れられた刀の柄が何本かあった。

 『店主。その柄は売り物か?』

 『あ?それか?まあ売り物っちゃあ売り物だが。折れた刀から外した物だぞ?なんだこれが欲しいのか?』

 橋山はニコリとすると雑多に詰め込まれた柄の中から状態の良い物を見繕い店主に差し出した。

 『これをくれ。いくらだ?』

 『本気で買うのか?そんな物何に使うんだあんた。まあそうだな。十文で構わないぞ。笑』

 店主は笑いながらそう言うと橋山から金を受け取り首を傾げていたのであった。


 店を出た橋山は満足気な顔をしたまま預けた荷車を引くとネリタの街を後にした。


 よし。この辺なら誰も見てはいねぇな。

 

 帰り道、誰も居ない山間の畦道で止まると、橋山は先程購入した刀の柄を取り出し両手で握り込んだ。そして目を瞑り深呼吸をすると、何も無い筈の柄の先へと淡い光の筋が伸びていく。その筋がどんどん形を成してゆくと見事な光の刀身が出来上がったのであった!


 『おお!やっぱり出来たか!想像通りだ。』

 橋山はその光る刀をブンブン振り回して様子を見ている。


 これどれぐらいの切れ味なんだ?


 橋山はそう呟くと、道脇にあった大木へと切り掛かった。


 スパッ!

 『ぬおッ!?』

 橋山が振り抜いた刀身は、まるで豆腐でも切ったかの様に何の抵抗も無く大木を切り抜いたのである!

 大木が倒れ行く中、橋山は光る刀身を見ながら口を開けて固まっていたのであった。



 ◇◇◇◇



 『橋山さん。それ。何ですか?』

 『いや、光魔法の刀だ。』

 『そんな物ある訳ないでしょ!!』

 帰って早々、お菊へと光の刀身を披露すると、そう絶叫されたのである。

 『光魔法って言うのは基本的に光るだけだって言ったでしょ!?何で刀にしてるんですか!!しかも何ですかその切れ味。おかしいでしょ!?』

 お菊はそれはもう橋山の奔放ぶりにお冠である。

 『いやね?俺もいざって時の為に何か武器を持ってないと不味いなと思ってな?閃ちまったんだよ。出来るかも知れねぇって。笑』

 『魔法だけでも充分じゃないですか!!何で光る刀が必要あるんです?余計に目立つでしょ!?』

 『いや!悪かった!遂な?出来心でやってみたくなったんだよ。人前では絶対に使わねぇよ。』

 『本当ですよ。そんな物見られたらもうどうにも言い逃れなんて出来ませんからね?絶対に人前では使わない事。わかりましたか?』

 『ああ、約束するよ。』

 橋山はその後もお菊より口が酸っぱくなる程に注意を受けたのであった。





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