Mate

碇/刻壁クロウ

はじまり

 ふたつ遠くの山の方へ行くといい、と続けて送付された写真には、手付かずの深い緑蔭が映っていた。

 名前もなく鬱蒼と木が茂るのみの勾配厳しい山林は、行政が過疎化した村と街を繋ぐ為に無理やり整備して作った車道以外は何もない。

 そんな交通の便こそ申し訳程度にあっても未開拓な場所こそが、彼曰く、ここから「ふたつ遠くの山」らしい。

 だがしかし、どうして私はふたつ遠くの山に行かなくてはならないのか。そう彼の真意を読みかねて、「どうして?」と私が画面に打ち込むと、送信と同時に既読が付いた。少しだけ迷ったように、はたまた人とこうして連絡を取ることに不慣れなのか暫しの間を置いて、三分後に短い返事があった。

『雨が降るから』

 この辺に埋めても雨が掘り返してばれてしまうから雨雲の被らない方に、と返事の追記があったのは、これまた五分後のことだった。

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