その翡翠き彷徨い【第12話 てのひら】
七海ポルカ
第1話
サンゴール王国に導かれてから二年。
ラキアの修道院で習ったのは、もともとはリングレー辺境の村の出身であるメリクが王都や、サンゴール王宮の中にあっても不都合にならない為の生活の礼儀作法や歴史学の方だった。
サンゴールは魔法大国とは聞いてはいたが、実際メリクが魔法というものを身近に感じたのは王宮に戻ってからである。
一度アミアが宮廷魔術師が普段を過ごしている王立魔術学院を案内してくれた。
サンゴールの王立魔術学院の権威は大陸全土に名高く、他国からもここで魔術を学ぶ為にやって来る人間は多いらしい。
サンゴールの王立魔術学院出身の魔術師であるという承認を得れば、エデン全域において、しっかりとした学歴のある知恵者として認識されて、公の役職に就くことも可能なのだった。
――メリクである。
本人は自覚無く強い魔力を持ってはいたが、生まれ育ったヴィノには『魔術』という概念がほぼ無く、幼いメリクはそれを知る機会も当然なかった。
初めて魔法を見たのはサンゴール王宮で、リュティスが国の神儀で水の魔術を操る姿を見て、メリクはひどく感動したのだった。
もともとリュティスは国内外においてサンゴール随一の魔術師と謳われており、呪文の唱え方から魔術を操る一挙一動が少しの乱れも過ちも存在しない、サンゴールの厳格な規律で守られた魔術を体現するかの様な人物でもある。
そのリュティス・ドラグノヴァが一番最初に見た魔術師だったので、メリクは魔術とはあんな風に何の苦労も無く息をするように、歌うように魔術を操ることの出来るものなのだという認識を持っていた。
――それがとんでもない思い違いだったことに気づいたのは、メリクが第二王子リュティスに魔術を習い始めて間もなくのことであった。
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