第21話 一年の重み(アレンの記録)
春の風が、花の香りを運んできた。
中庭の木々に新芽が吹き始めた頃、僕はひとり、子どもたちが遊ぶ様子を眺めていた。
この孤児院——アルカナの家にとって、新たな季節が始まる。
ふと、リクトが小さな子の手を取って歩いているのが見えた。
あのリクトが。
あんなに泣き虫で、すぐに怒っていたリクトが——
今は誰かの“手を引く側”になっている。
■ ■ ■
一年前、彼はこの場所の隅っこで、誰とも話さずに小さく丸まっていた。
「アレン、ぼくなんて、いてもいなくても一緒だよ」
そう言っていた声が、今では「こっちだよ、だいじょうぶだよ」に変わっている。
それを見た瞬間、僕は胸が熱くなって、思わず視線を逸らした。
■ ■ ■
子どもにとっての一年は、大人のそれよりずっと濃い。
身長が伸びるだけじゃない。
声のトーンが変わる。
口にする言葉が深くなる。
なにより、「目」が変わる。
怖がっていた目が、真っ直ぐに人を見据える目に。
怯えていた目が、誰かを守ろうとする目に——
■ ■ ■
それは、「教えたからできるようになった」ことじゃない。
毎日を、ただ必死に生きた結果。
小さな失敗。
少しの勇気。
ほんの一言のやり取り。
それらのすべてが積み重なって、“変化”になっていく。
■ ■ ■
「アレン!」
誰かが僕を呼ぶ声がした。
振り返ると、カズマが木の枝を振り回しながら駆けてきた。
「みてみて、これ、剣っぽくない?」
「おお、ちょっと危ないけど……たしかに、勇者の剣に見えるな」
カズマは満足そうに笑い、そのまま何人かの子を率いて走り去っていった。
——モノローグ(アレン)——
大人にとって一年は、同じ季節の繰り返しかもしれない。
でも、子どもにとっての一年は——
「できない」が「できる」に。
「不安」が「自信」に。
「他人」が「大切な誰か」に変わる、特別な旅路だ。
その時間に、少しでも寄り添えること。
それこそが、この家を守る意味なのかもしれない。
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