第三章:つながりと成長

第12話 はじめて、いっしょに遊んだ日(ユウトとカズマ)



 その日、僕は目を疑った。


 ユウトとカズマが、同じ机に向かって座っていたのだ。


 言葉を交わすでもなく、笑いあうでもなく。

 けれど確かに、彼らは“同じ空間”で、“同じ積み木”を組み上げていた。


 ふたりの間には、一枚分の紙の幅くらいの距離があった。

 それでも、彼らが並んでいたことには、大きな意味があった。


 


 ■ ■ ■


 ユウトは、「友だち」がこわい子だった。


 誰かと関わることで、また傷つくのが怖い。

 それなら、最初からアレンとだけいれば安心だ——そう思っていた。


 一方のカズマは、誰かの視線があると集中できない。

 周囲の動きが気になりすぎて、ひとり静かな場所に逃げてしまうことも多い。


 ふたりは真逆だった。


 でも、どちらも“他人とどう関わっていいかわからない”という点で、似ていた。


 


 ■ ■ ■


 「アレン、これ……崩れそう?」


 先に声を出したのは、ユウトだった。


 カズマではなく、僕に向かって。


 僕は無言のまま、二人を見守る。


 すると…


 カズマはしばらく積み木を見つめた後、指先で一つの木片を指した。


 「そこ、もう一段下にしたほうがいい」


 ユウトは、目を見開いてから、小さく「ありがと」と言った。


 それだけだった。


 それだけ、でも——


 このやり取りに、ふたりの心が確かに“触れた”。


 


 ■ ■ ■


 そばで見ていた僕は、声をかけることすらためらった。


 音を立ててしまったら壊れてしまいそうな、繊細な空気。


 それは、言葉よりも深く、強い絆の始まりだった。


 やがて、ユウトが一つの積み木をそっと渡した。


 カズマが無言でそれを受け取り、塔の中央に差し込む。


 その動作が、まるで“ありがとう”の代わりのように見えた。


 


 ■ ■ ■


 その夜、ユウトが僕の部屋に来て、ぽつりと言った。


 「カズマといると、なんか静かなんだけど……それが、落ち着く」


 彼の目は、少しだけ誇らしげだった。


 


——モノローグ(アレン)——

 「一緒に遊ぶ」という言葉の意味は、子どもによって違う。


 それは、はしゃいで笑うことだけじゃない。


 隣にいても、何も言わなくても——“存在を許し合える関係”も、立派なつながりだ。


 ユウトとカズマが同じ空間を選んだこと。


 それは、彼らの世界が少しずつ広がり始めた合図だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る