キララの賭け
それからワタクシたちは金を稼ごうと思ったのですが桐生は高齢で雇ってくれる所がなく、ワタクシは働き口を見つけたのですが「あー、もう使えないから明日から来ないで!」と言われてどこも初日でクビになってしまいましたわ。
けれど家賃にマックスも大型犬で身体が大きいですから沢山食べますし、医療費と借金返済。桐生の年金だけではやっていけません。
「本当にこれでいいのですねお嬢様」
「ええ、ワタクシの決定に迷いはないですわ」
ワタクシは覚悟を決めたのですわ。これもしっかり桐生と考えた結果。
まあ、ワタクシと桐生は財閥を傾かせた実績があるので二人の知恵が揃った所で何の意味もないのかも知れませんが、力を合わせないよりはマシですわ。
うごめく大人たちの視線。その場独特の熱気。
「あー!駄目ですわ!外に、外に出してくださいましー!」
耳まで真っ赤にしながら身をよじるワタクシ。
男たちの視線が一斉にとある一点に集まります。
桐生を見ると、もう年老いた桐生までも若返ったかのようにギラついた視線を向けていましたわ。
「ああ、これ駄目ですわー! 人生終わっちゃいましたわ!」
ワタクシは絶叫し、頭を抱えました。
『ラスト1周のバックストレッチ!9番車中路が先頭! 1番車木曽番手絶好!3番車山中が並走して追う! 人気を背負った5番車千鶴は、内に詰まったままで進路がないッ!』
『5番車千鶴! 出られない! 詰まっている! 万事休すか!』
『 1番車木曽が外に車を持ち出し、伸びる伸びる! 』
「内側にいたら前の選手が邪魔で動けないんですから外に車体を出してくださいましー!」
そうワタクシたちは競輪をやっていたのですわ。
どこでも働くことが出来ないのならギャンブルで一発逆転をするしかないと思い、残りの資金なけなしの三万円を桐生に託しました。ワタクシは未成年で購入が出来ませんから。
当たりやすく高配当もあるという競輪をやりにレースが行われている場にきていたのですがワタクシたちが運命を預けたこのレース。
人気が集まっていた千鶴選手は他の選手の内側に車体を差し込んで包まれたまま、車体を外に出すことなくコースがなくなり他選手に飲み込まれてしまいましたわ。
『決定! 一着一番、二着六番、三着九番』
桐生の持っている車券をなんど見ても、一番の文字はありませんでしたわ。五番から買っているので当然ですわね。
これを当てて倍々で増やしていこうと思っていたのに。
「申し訳ありませんお嬢様、私の力及ばず」
いい歳をした老人の顔が鼻水と涙でぐしょぐしょになっていましたわ。
「謝ることありませんわ桐生、これはワタクシたちが話し合って決めたこと。それに桐生が頑張っても走るのは彼ら選手なのですからしょうがないですわ」
その時、背後から怒号が響きました。
「クソッ! ダンジョンで魔核たんまり拾ってきたってのに、これで全部吹っ飛びだぁ!」
振り返ると、柄の悪い大男が拳で手すりを叩いている。刀傷が身体の至るところに刻まれており一目カタギの方ではなさそうでしたがここは反社は立ち入り禁止の場所、大男の独り言からしてもそうでないことが予想できます。
ワタクシは怯まず歩み寄り、縦ロールを揺らして問いかける。
「貴方、ダンジョンに潜っていらっしゃるの?」
「……あ? お嬢ちゃん?」
意外そうに目を瞬かせる大男。彼の視線がワタクシの顔と身なりを往復しました。
恐らくワタクシのような女が賭場に来るのが珍しいのでしょう。
「素人でも稼げるのでしょうか? 詳しく教えてくださらない?」
ワタクシが金色の髪に夕陽を受けて微笑むと、大男は頬を赤くし、懇切丁寧に説明し始めました。
――チョロいですわね。
ダンジョン探索者になるための手続きからダンジョンで手に入る基本的な資源である魔核の換金相場やダンジョン内で手に入る資源の値段など。
「えっ! スライムの魔核でも一万円からなんですの?」
「なんだ嬢ちゃん知らなかったのか? そりゃいくら弱いスライムっていっても攻撃してくるしな。ダンジョンってのは帰って来るまで危険と隣合わせだから持って帰ってくることを考えてもそんなもんだぜ」
ダンジョンなんて危ない所へ行くなんて財閥令嬢だった頃は考えていませんでしたから知りませんでしたけど結構稼げますわね。
しかも、あんなに弱いスライムで一万円とはボロ儲けできそうですわ。桐生とやっていたゲームでもスライムは序盤の魔物恐れるに足らずですわ。
「それに魔物を倒して得る魔核だけじゃなくて、魔物を倒したり、ダンジョン内に何故か置いてある宝箱から手に入るアイテムで火をつけても燃えない衣服とか無くなった手足まで生えてくる薬とかもあってそれはもっと高いんだぜ」
「へぇ、お幾らなんですの?」
「そこまでのアイテムになると最低一千万からだろうな」
いっ、一千万。ワタクシの借金は一兆ありますがその位稼げるのでしたら普通に返済の目処もたちそうですわ。
それに止むなく売ってしまった屋敷や奪われた財閥を金で取り戻すことだって夢じゃない。
お父様とお母様が目を覚ましてこんな状況ではきっと悲しんでしまいますから。
「ありがとうございますわ」
「へっ、喜んでくれたみてぇで嬉しいよ」
ワタクシは借金返済への希望を見つけたことに目を輝かせ、大男に礼をいって桐生の元へ向かいます。
桐生が話を聞いていたようで静かに頷いていました。
「そういうことなら、私もお供いたします」
「でも桐生、あなたの腰はもう……」
私が心配すると、老人は眼鏡を外し、皺だらけの口角を上げる。
「お嬢様。今でこそ白髪交じりの老人ですが、かつて私は『ドラゴンの桐生』という名で鳴らしていたのですよ。かつては暴走族を束ね、裏路地で不良どもを鎮めていた頃は、鉄パイプより硬い拳でバッタバッタとなぎ倒していたものです」
桐生のそう言った話はてんで聞いたことがないですし、枯れ木のようになった腕で誇るので本当に大丈夫かと思いながらも、懸命に尽くしてくれる桐生のプライドを傷つけるのもと思いワタクシは指摘しませんでした。
「いいですが、命の危険があるのですから無理はしないでくださいまし。桐生が居なくなったらワタクシ寂しいですわ」
「お嬢様ー、本当にお優しい」
皺だらけの顔をもっとしわくちゃにしてハンカチを目元に当てながら泣く桐生にワタクシはやりにくいなと思ったものの、なんだか照れくさくなってしまいましたわ。
こんな桐生に無理はさせられませんし、桐生の負担を減らすためにマックスをダンジョンに連れて行こうかとワタクシは思っていました。
桐生より戦闘でも頼りになるでしょうし、人の言葉を理解出来るくらいに頭がいいので危なくなったら桐生をマックスの背に乗せて逃げれると思いまして。
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