第14話
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東京支部本部 第一会議室
「全く……3番隊の連中は何でああなんだ。」
はぁとため息をこぼしたのは、2番隊隊長の
半年ぶりに顔を出した3番隊にめちゃくちゃに引っ掻き回された午前中の会議が何とか閉会し、会議室には団長の
「まぁまぁ、お土産も頂いた事ですし、ね。」
「……連中、これ渡せばなんでも許させると思っていないか?」
飛鳥がなだめるも、学はより呆れの混じった声で海外の産物とお土産を雑に零に放った。
突然放られたにも関わらず、零は無言でしっかり受け止めている。
すると、
「──おい、おめぇら。」
だだっ広い会議室に、低い声が響き渡る。
小さく集まる4人の中心、他よりしっかりした作りの椅子に座っている団長、瑛心だ。
途端に3人の意識が、瑛心へと集まった。
「ここ1週間の間で、原因不明の爆破事故が14件……これ、やべぇよな?」
静かに話し出した瑛心に、はぁと溜息をついた学が怒りを露わにする。
「阿呆が、当たり前だろう。この爆破事件、焼死体は疎か、起爆剤がそもそも見つかっていないんだぞ。……十中八九オッドが関わっているだろ。」
午前中の会議で、ほとんどの隊の隊長から報告が上がった件だ。
色々な場所、日時、規模で各所に起きている謎の爆破事故。
どれも爆発の原因が何によるものなのかがはっきりしておらず、突然焼けてしまった建物内は綺麗さっぱり丸焦げになっている。
不可解なのが、どれだけ活気づいていた筈の建物であっても、焼け跡からは焼死体が挙って姿を消しており今起きている爆破事故の被害者は、ほぼ全員"行方不明"とされていた。
どの箇所でも初めは警察の方で処理を進めていた事件だったのだが、操作を進めていけば行く程手掛かりも無く捜査は滞り、気まぐれに起こるこの爆破によって行方不明者もどんどん増加してしまっている現状からついぞルークファクトの方に匙を投げてきた、と言う所が殆どであるらしい。
しかし、
──現場の防犯カメラには、ガスマスクの男が写っていた。
という報告だけは、この難解な爆破事件の核心となる証拠として、どの警察官も口を揃えて言っていたそうだ。
神妙な面持ちで話し始めた瑛心だったが、学の返答を聞くと「オッドねぇ〜」と呑気な様子で背もたれに寄りかかり、気だるそうに頭の後ろで手を組んだ。
「……おっかしいな、最近大人しかったのにさ。」
続けてそう呟かれた団長の言葉に、はっきりしない事が嫌いな学がイライラと腕を組む。
「大人しかった?何が言いたい。」
「……零、例のワンちゃんからの報告、なんか聞いてるか?」
眉間にシワのよった学を全く意に介さない様子で、瑛心は壁に寄りかかっている零に視線を向けた。
突如話を振られたにもかかわらず、零は全く驚いた風も無く冷静に口を開いた。
「……数日前から不審な夜会が開かれているそうだ。なんでも、願いの叶う石が高値で取引されているだとか。」
いかにも胡散臭い話に怪訝そうな顔をしたのは、飛鳥だ。
「願いの叶う石……?」
「んなアヤシイ話を本気にしてるやつがいるっつーことは、本当になんか起きんだろ。ってこたァ、そんな話を実現出来るやつもいるってこった。」
「…っおい、まさか」
何かを察したのか、学が顔を強ばらせる。
「──5年ぶりだな、
そう言ってニヤリと笑った瑛心とは対象に、目を見開いた学は心底嫌そうに、チッと舌打ちをした。
「主要人物は大方潰しただろうが。何故再起している。」
目には酷く憎悪の感情が浮かび、ヤツらと聞いてから余計に苛立った様子の学の声には、影がかかっていた。
そんな彼を、瑛心は可笑しそうに「ハハッ!」と笑う。
「……物騒な面してんなよ、ガッくんよぉ。あん時行方をくらましたヤツらがいただろ?そいつらがガスマスクの野郎なんて新顔連れて、5年もかけて策立てて来てんだろ。」
「来てんだろ、じゃねぇ!あの時
奮起する学の声が大きくなるのに対し、瑛心は能天気に頭の後ろで組んでいた手を解き、机の上に頬杖を着き何かを諦めたように学を見上げながら再度ハッと笑った。
「おいおい躍起になって、馬鹿かよ。……最初から、雪野さんと俺らじゃ無理な話だったんだ。」
「何…?」
そう言って、つまらなそうに視線を外した瑛心に、学の眉毛がピクリと動く。
「──捕まったヤツらはな、
「なっ……?!」
低くそう呟いた瑛心の言葉に、声を失った学と隣に立っている飛鳥も目を見開いた。
「そうか…オッドピット悪用の倍増も、爆破事件の被害者の行方や謎の夜会の事も、もし彼らの仕業だとしたら…」
視線を外したままの瑛心は、ちらりと飛鳥を見やる。
「ああ。……また、”とんでも人体実験をしている”かもしれないっつー事だな。」
人体実験と口にした途端、学が顔を歪めついに声を荒らげた。
「アイツら何で釈放されているんだ!敵に加担した犯罪者だぞ!!」
バンッと机を叩く音が部屋に響いた。
「まあまあ落ち着け。お前さんの気持ちもよぉく分かってンよ。でもよ、世の中お金で全て解決出来ちゃうのが、この世界の現実ってやつだ。」
瑛心になだめられ、荒げていた呼吸を徐々に落ち着かせた学は、それでも納得いかないという顔をして悔しそうに唇をかみ締めている。
椅子に座りながらその様子を少しの間眺めた瑛心は、突然長い足をタンとしっかり床につけなおした。
そして重そうにゆっくりと立ち上がり、学の方へ向き直るときっちり締められた彼のネクタイをいきなりグイッと引っ張り、自分の方へと顔を引き寄せた。
苦しそうに顔が歪んだ学と、目が合う。
「────坊やの事はよく分かってる。だからこそ、お前にしか頼めない。」
「…………ッ!!」
至近距離で目を合わせ静かに訴えている瑛心の瞳は、学と同じ度合いで鬱積していた。
少なくとも瑛心は自分と同じように感じている、と眼前で知らされた学はようやく脱力して顔を逸らし「悪い、取り乱した。」と大人しく頷いた。
ぱっとネクタイを離した瑛心は、満足したのか再びドサッと椅子に腰掛ける。
「って事でよ、他の隊長にも話そうかとも思ったんだけど、いつまたここが乗っ取られるかもわかんねぇし、内部状況を
「「「御意。」」」
能天気にニコニコとそう言って瑛心は、3人の返事と共に「そんじゃ、かいさーん」とヒラヒラ手を振った。
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ルークファクト訓練施設
「いやーーーーーー疲れたぁ〜〜〜」
怒涛の訓練を終えた俺は、広いエントランスのベンチに座り、だら〜っともたれかかる。
時計を見れば、すっかり熱中してしまってもう夕方だった。
──しかし、この体も不思議なものだ。
訓練ブースで能力使いまくってた時は力量に応じて疲労感も痛覚もあったのに、訓練ブースを出た途端にそれもピタッと止んでしまった。……いやまぁ、精神的な疲れはあるが。
でもお陰で、知逢の足元にも及ばなかったにしろ大分能力の扱い方が分かってきたし、応用の仕方も理解出来てきた。
これなら、次の任務では少しくらい使い物になるだろうか。
宙を見ながらそんな事を思っていると、丁度俺の耳に入るか入らないかくらいの僅かな声量で、誰かの話し声が聞こえてきた。
「あいつ、さっき
「ああ。8番隊以外にあいつと仲良くする奴なんていたんだな。」
「ほんとだよ、物好きなやつもいたもんだ。どうせろくな奴じゃない。」
何だ……?知逢の悪口か??
まぁ訓練ブースでの最初の印象が悪魔だっただけに、いつもああなら敵を作ることもあるかもだけど。
でも、それも訓練の時だけで、ほかの事とか結構親切にしてくれて、良い奴だけどな。
そうやってぼうっと、何となく人の噂話を聞き流していると、
「……そういえばあいつ、こないだも狂ってたらしいぜ。」
…………狂ってた??
聞こえてきた事に俺は耳を疑った。
とんでもない情報が聞こえてきたんだがおい。
「まじで?何回目だよ。」
「しかもその時の対戦相手、それから能力使えないんだって。」
「うわ〜出たよ。何であいつ追い出されねーの?」
「どうせオッドルークだからだろ?勝てば好き勝手していいと思いやがって。」
「まじで最悪じゃん。絶対当たりたくねぇ……ってやば。」
狂ったって……どういう??
能力使えなくなるとか、そんな事可能なのか??
どういう事なのか気になりながらも盗み聞きに気付かれないよう何処吹く風を吹かしていると、噂話をしていた人達が突然会話を区切り、逃げるようにサッとどこかへ行ってしまった。
急に去っていったのを不審に思い声のしていた方を盗み見ると、知逢が「お待たせ〜」とニコニコと帰ってきているところだった。
引っかかる内容を聞いてしまった手前、ちょっと後ろめたい気もしたが、俺は別に何もされてないし…むしろめっちゃ親切にされてるし、ただの悪口なのだろうと今聞いたことは忘れようと心に決める。
「おう、おかえり。」
軽く手を振って迎えると、知逢は何やら紙をペラペラと掲げた。
「何だ?その紙。」
そう聞くと、知逢はふふんと得意気に紙をこちらに向けた。
「
その紙には、ゲームキャラクターのステータスみたいにレーダーチャートが書かれていたり、能力を使った時の出力が波グラフになっていたりと、俺の戦い方のデータが色んな形で分かりやすく表されていた。
「なにこれすげぇ…」
紙を手渡されよく見てみれば、自分が無意識でやっていた事についての特徴とか傾向が細かく書かれていて、どの項目見ても面白い。
「それを
専用の服と言う言葉に、思わずパッと顔を上げる。
「え!まじで?!この用紙だけで作れるの?!」
「そだよ〜、凄いでしょ?」
「すげぇ〜!!!!」
興奮して思わず紙を持つ手に力が入った。
どんな風になるんだろ、なんかめっちゃカッコ良いキャラクターっぽくなるのかなぁ。
そうして、素直にわーいと瞳を輝かせて喜んでいた矢先、
「うんうん!これで多分、明後日のランク戦にも間に合うと思うよ。」
「………………………………え?」
今、とんでもない話が飛び出てきたような。
「ん?どした?」
知逢はニコニコと首を傾げているが、俺は彼が言ったことを上手く飲み込め無かったみたいだ。
アサッテ ノ ランクセン??
聞こえた言葉を何回か頭の中で復唱した。
ランク戦ってランクがどうのとか言ってたアレだよな?
間に合うねってニコニコ言ってるってことは、それに俺も参加するってことで……明後日って言ったか?
言われた意味を段々と理解し始めて、俺の顔がサッと青ざめる。
「あ、明後日?!?」
時間差で驚く俺を他所に、知逢はおかしな事など何も無いというふうな表情を向けた。
「あれ言わなかったっけ。その為に、今日必死こいてデータ取ったんだよ。」
夢中すぎてそんな事考えて無かったけど、確かに訓練場初日にしてはめちゃくちゃハードだったのは、そのせいか。
それにしても、
「いや、なんも言われてないぞ!!!!」
鬼気迫る表情でそう言うと、知逢は「言ってないか、めんご☆」とチャーミングな感じで自身の頭を拳で小さくコツンと叩いた。
いやなんも可愛くないが。
「……ランク戦ってその、つまり何をやるんだ?」
知逢の仕草に逆に冷静になって、俺ははぁと小さく溜息を吐いた。
てか、明後日とか急過ぎてつい焦りが先に出てしまったが、なんの準備もいらないのだろうか。
すると知逢は、えっとねと指を折りながら説明してくれた。
「生き残りゲームとー……一対一の総当たり戦とー……三人ランダムで組まされるチーム戦。」
そんなにたくさん競技があるのかよ。
「ま、ランク外にならなければ大丈夫だよ!」
「えっえっえっちょっと待てランク外だとやばいの?!」
慌てて知逢の言葉を遮る。
「うん。基本的にはランク外だとオッドルークにはなれないからね。もし理紅がそうなった場合は、"脱退"なんじゃないかなぁ。」
知逢は、さらりとそう言ってのけた。
「だ、脱退ぃい??!!」
そんなん初耳なんだが?!何で誰も入るとき教えてくれなかったんだよ!!
入隊が決まった時の呑気な団長の顔が思い浮かんだ。あの時の何も知らない俺よ、入って1週間も経たずに脱退の危機にさらされるぞ。
いや、そもそも正式な入隊の仕方でもないし、むしろ団長はこうなるってわかってて俺を入れてるはずなんだけどな。
今更家に帰ると考えると…無理だろうな。
カッコ悪いことが大嫌いな母親が、一度出た俺を簡単に家に戻してはくれないだろう事が容易に想像できてしまう。
「やばい。俺の寝床が消える。」
青ざめるを俺を前に知逢は、不思議そうな顔をして、
「ランク外にならなきゃ大丈夫だって。」
焦りだす俺に面倒くさくなったのか、やれやれと言わんばかりの知逢はそういうと、さ、帰ろ~と背を向けて歩き出してしまった。
ランクCならそりゃそうだろうよ。
俺はデータの乗っている紙にもう一度視線を落とす。
ついさっきまでは気にも留めてなかった右上の項目。
『推定順位:ランク外』
と小さく書かれた事実に、俺は深い深いため息をこぼした。
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